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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第一件 異世界からの訪問者
10/71

10 仕掛け+師匠

「武野君、待ちなさい!」

 いきなり呼び止められたのは、西校舎の入口付近だった。

 とりあえず、精霊がらみで出来る事はなくなってしまったので裕也と連絡を取った後、僕と光は普通に校内を見て回ることにした。呼び止められたのは、校舎から外に出ようとしていた時だった。

 ゆっくりと振り返って、僕を呼んだ人物を確認する。

 呼び止めた声の主は、小さな体を一杯に使って、大きな足音が響きそうな(実際には響かない)大股歩きで近づいてくる。そして、僕の前まで来ると、小さな体を少しでも大きく見せるように胸を反らして背筋をピンと張って立った。

「何でしょう、会長」

 僕の目の前に立った小さな少女は、道乃森高校の生徒会長、寺井涼子だった。

「何でしょうって、用があるから呼んだに決まっているでしょう。武野君を用がないのに呼んだりしません」

 それはそうだろう。ただでさえ、生徒会として認定試験合格者を放って置くことは出来ず、注意事項などの用事で何度か来襲(来訪でなく来襲)を受けている。生徒会としては、できる限りかかわらないことが平和の証拠なのだ。そういうことで、会長の涼子とは面識もあった。

「午前中、生徒会室に来たんだって?」

「はい」

 言われてみればそうだった。その時の話が役員内で共有でもされたのだろう。だからこそ、涼子が声をかけてきたわけだ。裕也について行った形だったので、それほど記憶に残っていなかったが。

「あんまり無理言っちゃ駄目なんだからね。いくら認定試験合格者だからって譲れないことはあるんだから」

 涼子は、ビシッと僕の顔を指差して叱るように言った。そして、そのまま光に視線を向ける。

「加賀さんもしっかり見張ってないと駄目なんだからね」

「あ、はい」

 言われた光は、すぐにうなずいた。

 なぜかこの会長は、僕と光をセットにして考えている。最初は危険人物扱いだったと思うが、いつの間にか危なっかしい子ども扱いになっていた。一応、それ自体に文句はない。

「それで、高戸君は一緒じゃないの?」

 涼子は首を少し振って、周囲を見回しながら言った。

「裕也ならたぶん、いつもの情報集めだと思います」

「あー、午前中に言ってたやつだね。ぜんぜん諦めてないんだから。駄目だよ、危ない事は」

「大丈夫ですよ」

 当面の問題は、解決している。だから、それほど心配することはないはずだ。全面解決でないところが、不安なところだが。

「大丈夫、じゃないの。ぜんぜん大丈夫じゃない」

 そう言う涼子の様子は、言葉の通りに全く納得していなかった。

 その様子に光が、苦笑を浮かべながら言う。

「校内の様子を聞いて回っているだけでしょうから、そんな危ない事はしていませんよ」

「そうかなぁ。私の勘ではそうじゃないんだけどなぁ」

「勘ですか?」

「そう。私の勘ではね、武野君が突っ込んで、高戸君が走り回っている感じなの」

 僕の息が、一瞬詰まった。絶妙な表現だった。神がかり的な勘だった。

「武野君が生徒会室に来たのは初めてだし、平野君に聞いた話だと高戸君よりも武野君のほうが中心みたいだしぃー」

 涼子の視線が、疑いの色を帯びている。

「さあ、何をしているのか白状しなさい。隠してもいいことなんてないんだからね!」

「……」

 僕は押し黙った。何をしていると言われても実際のところは、すでに終わっている。白状しろと言われても、公にできそうなことはないので言えることは何もない。別に今から何を言われても構わない気がする。一段落した後だから、タイミングがちょっと悪かった。

 僕が黙っていると涼子の頬が膨れ出した。

「むぅー。教えてくれてもいいじゃない……」

 その表情は、少し幼く見えた。小柄な体と合わせると年齢を偽られても信じてしまえる。実際には年上だが、何も知らない人が見れば小学生でも通じるかもしれない。いや、それはさすがに言い過ぎか。

 何も言えないでいる僕の代わりに、光からフォローが入った。

「会長さん、そんな気にしなくても大丈夫ですよ。もともと迷惑をかけるつもりはありませんし、万が一にも迷惑をかけないようにするために生徒会のほうに話を通そうとしただけですから」

「そうなの?」

 涼子は、少し首を傾げた。

「たぶん……」

 答える光の声は、弱々しかった。

 結局のところ真意を知っているのは裕也だけなのだ。

「タケに加賀、こんなところにいたのか」

 偶然か、天の悪戯か、ちょうどそこに裕也が通りかかった。

「ちょうど良かった。話が……、げっ、会長!」

「とぉー」

 涼子の存在に声を荒げた裕也。

 その裕也に掛け声一つで飛び掛った涼子。

「ぐあー」

 裕也は、情けない声を上げた。

「なんで、『げっ』なんて言うの」

 涼子は、裕也の首に腕を回して背中から絞めにかかる。傍目に見ると、首に腕を回しておんぶされている状態なのだが、やられているほうはちょっと苦しい。ただ、その苦しさも耐えられないほど苦しいものではなく、うまく加減されているから無理に振りほどく気にはならなかったりする。

「そ、そんなことよりも、会長は何をやっているんすか?」

「それはもちろん高戸君に話を聞きに来たんだよ」

「い、今は忙しいんじゃないんすか?」

「私一人抜けたぐらいではどうってことないから、安心しなさい」

 裕也は、首に回される腕を必死になってつかんで、涼子はとても安心できない酷薄な笑みを浮かべてじゃれあっている。

「楽しそうね」

 その声は、裕也のごく近くから聞こえた。

 裕也の背後をのぞき見てみると、そこにはセリアが立っていた。

「来てたんですか?」

「うん、ついさっき来たところ」

 光の声にセリアはうなずき返す。

「裕也とちょうど合流できたから、迷わずにすんでよかったよ」

 セリアは、周囲の人の流れを眺めながら言った。

 そこで、裕也の首を絞めていた涼子がセリアの存在を視界に入れた。

「お知り合い?」

「あ、はい」

「どういうご関係」

「えっと、……」

 そこで光の言葉は、止まった。改めてセリアを見る。セリアの容姿や服装からは、パッと見て外国の人のように見える。すぐに納得できるような間柄は思い浮かばない。仮に本当のことを話すとしても、その関係をどう表現するべきか捉えきれていない。

 光が説明の言葉を探していた時、セリアの手が僕を示した。

「私は、浩一の師匠ですよ。光と裕也は、友人が一番近いかな」

 そのように笑顔で答えた。

 それを聞いた涼子の目が大きくなり、驚きの表情に変わる。

「『この』武野君の師匠?」

「ええ、ここにいる浩一の師匠ですよ」

「本当に、道乃森で数々の異名(道乃森最強の男、道乃森で最も覇気のない男、道乃森一のパシリ、道乃森裏の支配者など)を持つ『この』武野君の師匠さんですか?」

「正真正銘、浩一の師匠ですよ」

「そうなんですか」

 笑顔で答えるセリアに、涼子は驚きの表情を貼り付けたままだ。

「ところで会長は、いつまでぶら下がっているつもりなんすか?」

 裕也が、涼子に懇願する視線と表情を向けた。未だに涼子は、裕也の首に両手を回したままだった。

 その言葉に涼子は、ハッとしたように裕也を見た。

「放って置いてごめんねぇ。でも、離してあげたいけど、高戸君の話を聞くまで離すつもりはないから」

「何を勝手なことを、うげっ」

 涼子が、裕也の言葉を最後まで聞かずに首を絞める力を増した。

「黙りなさい」

 冷たい言葉と暴力的行為で裕也の行動を制止する。そして、その体勢のまま光に顔を向けた。

「悪いけど、高戸君はしばらく借りるわね。話を聞き終わったら、すぐに開放するから」

「はい、いつもご迷惑をおかけしてます」

 光は、小さく頭を下げた。

「がんばれ」

 僕は、裕也を小さく励ました。

「……やっぱりこうなるのか」

 裕也は、小さく肩を落とした。

 情報屋などという非公式な活動をしているから、裕也も僕と同じく生徒会に目を付けられている。好き勝手している代償みたいなものだ。ちょっと叱られるくらいで、別に酷い仕打ちを受けるわけではないから気楽にしていられる。

「それじゃ」

 このまま突っ立っていても裕也が解放されるわけではないので、僕はさっさと離れることにした。

「道乃森の文化祭を楽しんでください」

 別れ際に涼子は、笑顔を向けてくれた。

 それからは、光とセリアと僕の三人で歩く。

 このままセリアも含めて三人でいろいろ見て回ればいいだろう。

「気になることがあるんだけど」

 セリアがそう切り出した。

「なんですか?」

 それには光が答えた。

「浩一の道乃森での数々の異名って何?」

「あ、それですか。そんな大げさな話ではないんですけど」

「どんな話?」

「えーとですね、まずは……」

 光がセリアに五月の認定試験の話をし始めた。

 僕はそれを耳に入れながら、ちゃんと大人しくしていた二体の精霊の頭を優しくなでた。


 ◇


 夕方の出席を取る時間に一旦セリアと別れ、教室で裕也と合流し、正門前で再びセリアと合流した。裕也の現状としては、校内で調べまわった事でいろいろと話したいことがあるらしい。

 今は、学校からの帰り道、光、裕也、セリア、僕の四人で歩いている。セリアと光が前を歩き、裕也と僕がその後ろをついて行く。フェイルは僕のポッケトの中に体を入れ、ヘレは右腕に巻きついていた。二体の精霊は、ぬいぐるみということで周囲にはごまかしている。

「例の二件以外にもまだ、入れ替えがあったんだ」

 精霊による物の入れ替え。それが、二箇所ではなかった。

「すぐに動かせる物とか、普段気にしない物とかでな」

 文化祭で設置されたゴミ箱、本来は燃えるゴミ用と燃えないゴミ用が並んでいるはずのそれが、燃えるゴミ用が二つ並んでいた所があった。ほかに用具室の中の物の位置が変わっていたり、準備していた物の順番や場所が変わっていたりしたということだ。

「全部確認したから間違いないよ」

 セリアは、学校に来て裕也と合流した後、それらの場所に足を運んだそうだ。

「これだけの数の入れ替えをこんな短期間にしたことは今までにないんだよね」

 今までのほとんどが、一日に一回か、二回の入れ替えで済んでいたという。裕也の調べた、この世界で起きた同じような現象もそれぞれ別の日のことだ。一日に何度も、ほとんど間を開けずに入れ替えが起こったことはなかった。

「かなりまずい状況ですか?」

 そう問う光の表情は、心配そうだ。近くにヘレがいるが、始めほど緊張している様子はない。校内を歩くうちに慣れたようだ。絶対に僕の右側には立たないが。

「わからないけど、良いとは思えないかな」

 セリアの言葉に偽りはないのだろう。その表情に悲観はなく、凛々しさがある。

「向こうが意志を持ってやってくれていれば、すべて意味がある行動なんだけど、それが見えない。悟られないように気を配っているのかもしれないけど、魔力の残滓を追った限りではそんな感じはしないのよね」

 セリアは考えるように首を傾げて、マントを揺らす。マントの切れ目からセリアが腕を組んでいるのが見える。

「セリアは、今日は何をしてたんですか?」

「ん、裕也に教えてもらった場所に行って、ちょっと調べていたの。学校に寄ったのは、魔力の残滓が学校に向かっていたからだよ」

 精霊を追って、ということだろう。実際に追っている精霊が起こしたと思われる不思議なことが、学校で確かにあった。

「こんな所にいていいんですか?」

「大丈夫だよ。光のご飯を食べるぐらいの時間はあると思う。たぶんね」

 セリアは、笑顔で答えた。

「たぶんって……」

 光は、疑るような、呆れたような顔をしている。

「大丈夫、今までだって動いていたのは夜の間だけだったんだよ。それに学校から動いた感じはなかったから、うまくいけば今日中に解決できるからね」

 セリアは、軽い調子で言う。

「それって、学校にいるってことですか?」

「いるんじゃないかな。それでちょっと仕掛けもして来たし」

「仕掛けって、校内でやってた、あれっすか?」

 裕也はセリアといっしょに行動していたから、いろいろと仕掛けも見ていたのだろう。

 セリアは、裕也に向かって首をひねり、笑顔を向けた。

「そうそう、あれね。結構お金と手間がかかっているんだからね、あれ」

「何をしたんですか?」

 光が、セリアに尋ねる。

 光と僕は、セリアが学校のどこで何をしたのか聞かされていない。裕也が一緒にいたなら下手なことはしていないと思うが、セリアはこの世界のことを何も知らないわけだし、セリアが何をできるのかを僕たちは知らない。

「俺には、何かのまじないにしか見えなかったけど」

 一緒にいた裕也にもそれは、その程度にしか映らなかったわけだ。

「おまじないとは違うんだけどね。簡単に言うと空間に魔法式を設置してきたの。何かあっても最低限のことはこなせるようにしておかないといけないからね。これでもできる限り建物とか出し物とかに被害が出ないように考えているんだからね」

「もう手遅れっす」

 胸を張って自分の仕事振りを話しているセリアに、手厳しい意見の裕也。

「う……」

 それを聞いたセリアは、急に意気消沈してしまう。

「何かやっちゃったの?」

「大鍋ひっくり返したり、暗幕破ったり、機材を壊したり、考えられないような方法でやってくれたよ」

 呆れるほどの大立ち回りをしたようだ。

「いやいや、あれはちょっと加減を間違えちゃっただけだし、ほかの人に被害はなかったんだからその辺で、……やめてほしいな、ね?」

 セリアは、かわいらしさを前面に出した表情で小さく笑って許しを求めた。あまり突かれたくないところを見ると、おそらく反省はしているのだろう。

「まあ、いいっすけど、精霊のほうはしっかりとお願いしますよ」

「そっちは、任せてよ」

 セリアはすぐに立ち直ったが、光が神妙な顔つきをしている。

「家でも被害は出さないでください」

「そっちは、……努力します」

 自信はないらしい。というか、すでに被害が出ているのかもしれない。僕の知るところでは特に問題ないと思うが、任せてしまった手前、少し不安になってきた。

 少し大きな交差点に差し掛かった。車が忙しく行き交っている。その道を渡るため、横断歩道の前で信号待ちをする。

「じゃ、俺はここで」

 裕也が、片手を挙げて交差点を曲がり、僕たちとは別の道に歩く。

 僕は、歩く裕也の背中に声をかけた。

「今日は寄っていかないのか?」

「聞きたいこともねえし、別にいいや」

 そのまま裕也は、振り向かずに行ってしまった。確かに用事がなければ、いつもこの場所で別れることになる。

「私は、しっかりご馳走になりますのでよろしくね」

 セリアは、笑顔を光に向けた。

「はい、わかってます」

 光もそのことは重々承知しているようだ。のんびりした調子でセリアに返事をした。いきなり放り出すことも出来ないので当然の流れではある。

 僕としては家に帰ったら聞きたいことがあるので、まずはそれが解決しないとのんびり構えることはできない。


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