表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

9 兄

連我の兄、登場…

―…こいつが、俺の兄―

その事実が、何度も跳ね返るように耳で鳴り響く。

そして、無情にも地面から出たコンクリートの塔が、

連我の体を高く突き上げた。

連我にはそれさえ見えていなかった。

まるで記憶のフィルムが高速で流れるかのような、

そんな空間にただ一人居るような感覚。

でも、確かに感じる。


―あれは、間違いなく兄―硬介(こうすけ)だ。

地面にぶつかる寸前、セメントが柔らかく連我の体を受け止めてくれる。


「大丈夫!?」

隣には療大が座っていた。

どうやら俺の傷を治してくれてるみたいだ―。

柔音はセメントでコンクリートの柱を防いでいる。

そしてたまにセメント弾を発射して攻撃を試みている。


…アイツを倒さなければ、ここは抜けられない。

だが、実の家族にせっかく会えたんだ。

家族と記憶以外の全てを捨てると誓った。

それだけを優先すると誓った。

その唯一の物まで、簡単に手放したくなかった。


「待て、柔音。そいつは俺が倒す」

駄目だ。もし万が一、柔音が奴を倒してしまったら。

兄が戻ってこなかったら。

俺は何を責めて何をすればいいかわからなくなる。


「連我…さっき何があったの、なんて言われたの?」


柔音はかすかに震えている。

手も、足も声も力がこもってない。

きっとこの間言っていた能力使用の限界が来ているのだろう。


「そいつは…そいつは、俺の兄だ。

だから俺が倒す。俺が倒さなきゃどうにもならない。」


「連我待って!それって…」


療大が手をつかんで引き留める。


「大丈夫だ、殺しはしない。

さっき俺がトドメをさそうと奴の能力をコピーした。

俺の能力は対象の能力の他に、その能力の詳細も

わかる。

例えば水を飛ばせる力でも、体内の水を使ってるか周囲の水を集めてるかによって使い方は変わってくる。

だから詳細は即座に把握する必要がある。

恐らくさっき俺がそれで実の兄の魂、能力の核の部分に触れたから記憶のない俺でも兄と認識できた。

だが、不可解なことに人格、魂が2つあった。

兄の能力と入り交じった魂。

それともう一つ、そのすぐ隣に埋め込まれたように縫い付けられた闇っぽいやつ。

それに近づいてわかったが目の焦点が合ってないし真っ赤だ。正気でやってはなさそうだ。

だから俺がもう一度コピーしてその闇の魂だけを殺す。

それでもしかすれば兄を救えるかもしれない。」


「柔音、あと少し後ろからのサポートできるか?

一応療大もなんとか治癒で回復できるか試してやってくれ」


「うん…かなりギリ。

けど弾のセメントの大きさとか変わるし変な方向とぶかも…」


連我は再び立ち上がり、柔音の横まで歩くとグッドマークをして言った。


「まかせろ、全部なんとか避ける

さ、頼んだ!!」


連我は少し横に走った。

(恐らく何もなく近づけばあのコンクリの餌食…なら、)

そこは、さっきのコンクリートを治し続けた水でドロドロのセメントの波があったところだった。

今は波として動く力が解除され、ただの泥のようになっている。

そこを勢いよくほぼ滑るようにして駆けていく。

後ろから時折飛んでくるミスったセメント弾を避けながら。


「お前のコンクリートの柱は出るまでに数秒かかる。

だから高速で滑ればきっと―」


男の真横で手を地面につけて制止する。

男―連我の兄は、その真っ赤に血走らせた目でじろりと睨んだ。


「負けを認めな、『兄ちゃん』」

連我は笑って兄に飛びかかる。

その表情は目は獲物を捕らえ覚悟を決め、

だが口は嬉しがるような、一切の敵意のない笑い顔だった。

連我の目には1秒程度、目の前の兄の体がまるでレントゲンかのように透け、魂だけが見える。

そしてその横で、コンクリの能力の色々の文面が流れる。

文面などはどうでもいい。その邪悪な魂一点のみをただ見つめる。

手にはコンクリートの鋭利な欠片が握られている。

それを連我は、兄の胸元に突き刺した―。



とある建物内にて。

薄暗い所で1人の男がモニターを見ている。

「どうかなぁ〜?この人々の戸惑い、憎しみ合う姿は。

僕はね〜ぇ?こういう汚さが好きなんだよ〜」

男は振り返って後ろにいる人に投げかける。

が、男はそれに対し呆れながら返す。

「メズマ。お前が任されたのは連我を一人にすることだろう。安易に他の所に被害を出せば面倒になるのは俺なんだ。」


「いいじゃんタイム〜結果村からおさらばしたんだ〜

ま、いらない子が2人ついてきちゃったみたいでそれは残念だ」


「それは問題ない。今俺の新型兵器の実験体を送った。恐らく奴の性格上兄を殺しはしな―

そこでピタリと止まる。

「ありえない…あの兵器は、あの悪霊は魂にとりつく…生きて剥がされることはない、はずだ…

メズマ、バードの視点に変えろ」

モニターは、一つの映像を表示する。

そこには、喜び安堵する連我達の姿。

そして、その横で優しく笑っている硬介の姿だった。

タイムと呼ばれたその人物は落ち着きを取り戻し、

ゆっくりと言う。


「やはり奴らは只者ではない、か…

となれば少しでも散った時が得策…

バード。そのまま暫く奴らを見張り、

バラけた瞬間取り巻きを殺して連我を連れてくるのだ。」


言い終わると、モニターの映像はブツリと切れた。



だが、そんなことを知る由もなく連我達は、安堵に浸っていた。

50メートルほど向こうには、倒れるように座り込んでいる柔音と、その隣にしゃがむ療大が小さく見える。

連我は硬介と話していた。


「…って感じで、俺はもう村には戻れない。

戻る気もない。冒険を続けるつもりだ。兄ちゃんはどうするの?」


「俺か…まずは、村の人達に迷惑かけたこと謝りに行くよ。

結果操られていたとはいえ村の人の生活に支障を出したのは事実だ。キッチリ謝りたい。

その後は…そうだな、俺は冒険者として冒険に戻る。

さっき連我が言ってた記憶云々は、残念ながら俺も操られたタイミングで消されてるみたいだ。

ただ家族構成なら覚えてる。

父さん、母さん、俺、連我、岩大(がんた)

岩大は連我の弟だ。

ま、俺も冒険しながら少しずつ関わり合った人を探してみる。

次いつ会えるかわかんねぇけど、会ったらお互い情報出し合おうぜ」


「…だな…!」


―正直、やっと会えた家族と離れるのは嫌だ。

けれど信念も違えば進む道も違うだろう。


「じゃ、無理せず頑張れよ、連我」


「そっちこそ、もう俺に迷惑かけないでくれよ兄ちゃん!」


挨拶を済ませ、柔音と療大に合流する。


「柔音、思った以上に力の消耗がやばいみたいで寝ちゃった。

こりゃ起きないな」

療大が回復を施しながらそう言う。

「そういや、連我はせっかく会えたお兄ちゃんと

別れちゃってよかったの?」


「俺は、正直行きたいとこに行くのが冒険者の醍醐味だと思ってるから。

それを止めれはしない。

きっとどこかで会える気もするしね」


「村の人と喧嘩したときはどうなるかと思ったけど、やっぱり連我は今まで通り変わんなくてよかった」


「俺はただあいつらの言い方や押し付けにムカついただけだ。あいつらが好きにやるんならこっちも手は出さない。それだけ。

あんなこと言ってもついてきてくれた2人は大切にしたい。それだけだよ」


そう言って寝転ぶ。

でも言われてみれば、目覚めてから数日、記憶喪失者から勇者にされ、罵られてなんだか煮詰まっていたきがする。

肩書がせっかく冒険者なんだから、好きにやればいい。

「せっかくだし、ここでちょっと昼寝してくかー」


「連我まで寝るの…?」


俺は連我、肩書上は冒険者。

でも、地図を売ったりだけじゃなく、いろんな町で

便利屋やりつつ移動して、好きにやれればいいと思ってる。

目標は記憶を取り戻すこと。

そのためには家族に会って、昔の思い出話を聞くしかない。

だからそれを第一優先にして動く。

でも、もう一つ。

療大と柔音と楽しく毎日を過ごす。

これも第一優先だ!

今回でチュートリアルのようなものが終了となります。

療大、柔音との楽しい冒険、その新たなモットーで歩んでいく連我の冒険、ブックマークでお待ちいただけるとありがたいです。

…そうそう、悪の組織のメンバーも少しずつ連我に興味を持ち始めます。

メズマ、タイム、そして前回のペタトラ…

そしてそれは、身近にも…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ