22. 逃げられましたけど、もしかして?
が。
『……なんで逃げられるんだ』
裕二様はヘナヘナと机に倒れ込むようにしながら言いました。ディスプレイに顔がぶつかっていますが、彼は気になさっていないようです。
『たかがNPCだぞぉ……なんでこっちの死角を知ってるかのようにヒョイヒョイ避けられるんだ……』
「神の視点なのに回避なんて出来るのですか」
『視点といっても所詮はカメラオブジェクトだし、カメラの接触を許さないオブジェクトとかがあるから、回り込まないと行けない場所とかがあってな……』
何やら難しい事を仰っています。
『これも転生したヤツだとしたら、相当このゲームについて知ってるヤツだぞ』
「そんな人いらっしゃいますか?恋愛ゲーム全般ならまだしも、このゲームはまだ発売もされてはいないのでしょう?」
『……そうなんだよなぁ』
裕二様は全く分からないといった様子でウンウン唸っています。
『とりあえずこっちで居場所の追跡コードを追加しときます。デバッグ用って事で通るでしょ』
梨花様がおっしゃいました。
『頼む。……しかしなんでだ……』
悩みに悩み続ける裕二様を見ていて、ふと思い出した事がありました。ワタクシ、意を決して声に出してみる事に致します。
「あの、以前このゲームを開発された方が亡くなられたというお話を伺いましたけれど」
『ああ、ムリナの事?』
「はい。その方がこちらの世界に転生してきた、という可能性はございませんか?」
ワタクシがそう言うと、お二人は目を丸くして、二人で顔を見合わせました。
『……可能性としては、うん、無いとは言えない……ですよね?』
『……でも、そんな偶然あるか?』
梨花様と裕二様が首を傾げながら言いました。
ワタクシとて流石にそこまで偶然が重なる事があるかというと懐疑的です。ですが事此処に至り、有り得ないという事は排除すべきかと思うのです。何せここまで、幾つもの有り得ない出来事が起きております。所謂今更というヤツではないでしょうか。
「ですがそうでも無いと、そんな事出来ないと思ったのです。まぁ有り得ないとは思いますが、しかし、それを言うなら転生自体が有り得ない事でございますので、可能性として排除するのは不適切ではないかと思うのでございます」
『……いや、しかし、ううん……』
裕二様は腕を組んでああでもないこうでもないと唸っています。
結論は出ません。
『……ともかく追跡しよう。それはこっちでやるから、クレアは思いつくだけの行動を取ってみて欲しい。俺達ではもう思いつかない』
「ワタクシもあまり考えはありませんが……承知致しました。出来る限り足掻いてみます」
そう言って、何度目かのループの一日目が開始されました。




