20. 進展がありませんわ
隕石が落ち、再び朝を迎え、ここで俺と梨花、クレアは同時に頭を抱えて机にへたりこんだ。疲れたし、何の成果も得られなかった。正しく無駄な時間を過ごした。
この動作確認作業には仕様確認と操作とその他諸々で丸二日を要した。その間俺と梨花は交代交代で眠っているが、それでも疲労は全く取れない。椅子の上で寝たところで、休む以上に疲れが蓄積するだけなのだ。それは分かっていても家に帰る気にもなれないというか、そんな余裕も無い。PMは何とか調整をかけようとしているが、プロデューサーとディレクターは頑として納期変更を認めない。絶対に発売日に発売しろ、それが彼らの要求であり、この二日間で発した言葉の全てである。労いの言葉も無く、ただただ命令するばかり。段々と苛立ってきた。同僚の間でもかなり苛立ちが募っているのがよく分かる。PMがかなり苦心して抑え込もうとはしているが、状況は芳しくない。そろそろ爆発しそうだ。元々天才一人のお陰でギリギリ成立していたプロジェクト、その天才が居なくなったらこうなるのもむべなるかな。
「そろそろ次の行き先考えた方がいいのかも」
梨花がボソリと呟いた。同感だ。
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お二人は何か不審な会話をされています。どうやら向こうは大変なようです。
「ところで」
ワタクシから切り出す事に致しました。
「何か分かりましたの?」
お互い溜息を吐くばかりで、まだちゃんと報告を頂けていなかったのです。
解答は予想通りと申しますか、ワタクシと同様の内容でございました。
『……全然』
「……嗚呼、やっぱり」
『少なくとも、各ルートの途中までは問題無い事だけはわかったわ。今のところアナタみたいなその、なんというか、おかしな中身に書き換わっているAIは無いし、好感度ごとの動作にも問題は無かった。……バッドエンドに入る、その一点だけは除くけれど』
今までの流れを見て、そして梨花様の言葉を聞いて、ワタクシはふと思いました。
「……となりますと、もしやワタクシのせいでしょうか。
ワタクシが何故かこんなゲームの世界に入り込んでしまったものですから、それで様々な動作がおかしくなってしまったと……」
自分でいうのも悲しくなります。自分がこの世界に存在してはいけない汚点のように感じられてしまい、思わず付け加えました。
「最悪、ワタクシを消去してでも直して頂ければ」
ですが裕二様は首を横に振って下さいました。
『それはダメだ』
はっきりとした口調でございました。
『そこまでの作り直しは出来ない』
酷い理由でした。
『冗談だ。……どういう理屈かは分からないが、君は明らかに”生きている”キャラクターだ。それを消しても何の解決にもならない。君を消すつもりはないし、そんな事あってはいけない。それをやるくらいならお蔵入りした方がマシだ』
一息にそう仰った後、更に裕二様は続けます。
『それに、君に関しても、確かにAIによる思考としてはおかしな部分はあるが、直接的に隕石によるバッドエンドを引き起こしているわけではない。……どこかに、原因があるはずなんだ。それを消さないと、意味が無い。少なくとも、完全に君の思考が原因と断定出来ない限り、君を消すような事は出来ない』
『そうね。流石にそうでないと、解決にならないものね』
梨花様が虚ろな目ではありますが同意なされました。
ああ、なんという暖かな言葉なのでしょうか。最初の言葉は兎も角。
目は死んでいるお二人ですが、断固とした意志が見えて、ワタクシは感激してしまいましたし、ワタクシを守って下さるその志に感銘を受けてしまいました。何せワタクシ、転生して以降、ロクな目で見られていないものでございますので。
「ありがとうございます、ワタクシ、その言葉だけでも大変救われる思いでございますわ」
『気にするな。ところで、君から見て何か違和感は無かったか?』
「違和感、ですか」
『そうそう、現地で見ていてどうだったかなって。私も気になる』
「特にございませんでした。ただ……」
『ただ?』
「……恋愛シミュレーションとオープンワールドは間違いなく食い合わせが悪いといいますか、やるならもっと大規模に出来る事を増やした方がいいのではないかとは思いましたわ。ゼシカ様の誘導が大変でしたし、ゼシカ様の行動も結局は選択肢の選択だけで、殴りかかったりは出来ないようですし」
『…………』
『…………』
気まずい沈黙。
『……それは』
『……言わないで』
どうもお二人も薄々分かっていたと言いますか、触れてはならぬ部分だったようです。取りなさねばなりません。何かもう少し有力な情報を――




