今日休みますとか言い出しとけばよかったな……そんな勇気ないけど:3
窓から明るい日差しが差し込んでくる。
私が居るのは床も天井も白い部屋。イストサインではあり得ない、高度な技術が使われた部屋だ。
(いつもの夢)
私の前世、奥野塔子が振り返っている。彼女の過去の走馬灯。
「ねえレガリア、エドガー君とはどうなのよ?」
ではない。
「どうって何よ、アイツはただの友達よ、腐れ縁よ」
「学校から職場まで一緒じゃん?毎日顔合わせてるし!アンタが敬語以外で話せる異性だし!脈しかないじゃん!」
私と会話しているのは、私の前世──奥野塔子本人。
(この幽霊……よく喋る!)
そもそも塔子は病気で死んでいる。
彼女が死んで私に生まれ変わった。それが何故か自我を持ったまま毎晩夢の中で構ってくるのだ。
「繋げちゃいなよその脈をー、私恋とかした事ないまま死んじゃったからさー、せめてレガリアには幸せになって欲しくてね。気ぶらせて」
「余計なお世話……って本心!」
塔子はベットの上で踏ん反り返り、私は丸椅子に座っている。
ぼさっとした黒髪を肩まで伸ばし、白い服を着た塔子は痩せている。
彼女の死ぬ間際の姿のままだ。
(やっぱり原石武器が原因よね……)
数週間前、私が原石銃を手にするまでこんな事はなかった。
私が見る夢はあくまで彼女の人生の走馬灯。
原石銃──アガサの何が引き金となってこの幽霊を呼び覚ましたのかは不明だが、いわゆる眠れる死者を起こしてしまったようで、なんと言うか死人に対するちょっとした恐怖心もある。
「時々こっちからレガリアの世界見えるけど、基本的に暇なのよねー」
彼女が窓の外を覗き込む。私からはイストサインの街並みが見える。
「しっかしまあ、最近大変じゃない。街で殺人事件起こるわ騎士のお嬢様が絡んでくるわ、街中で貴女狙った暴徒が暴れるわで」
「そうね……」
寝る前の事を思い出す。
オリンピアとの戦いは私の完敗だった。
ぼろぼろにされた自分を思い出し、情けなくなる。
「あの子、オリンピア。面接官の言った事知ってたわね」
塔子の口から聞きなれない単語が飛び出した。
「面接官?」
「そう、面接官。忙しそうな黒服、この前話しかけてきたじゃん」
記憶を辿る。
「ねえ、もしも願いを叶える権利を貰えたら、レガリアは何に使う?」
「私……?」
『確認したところ、20個ほど残っているようで──』
思い出してきた。
いつの日か、原石銃で撃たれ死にかけた日の夢。
『全て破壊していただければ願いを一つほど聞き入れられます。それではよろしくお願いします』
「──はっ」
目が覚めた。
(塔子の夢か……)
私が持つ、誰にも言えない秘密。
(転生した自分が私の中に居て、夢見る度に会ってるなんて)
荒唐無稽過ぎて言えない。
寝起きでぼんやりした頭はもうさっきの夢を忘れ始めている。
(メモしとこ……割と大事な話してたし)
全て妄想なのかも知れないが、想像の産物にしては出来がいい。
『夢の中の幽霊』の事はできるだけ忘れたくなかった。
「って……ここ……どこ?」
メモ用紙を探し辺りを見回して、やっと馴染みのない場所に居る事に気付いた。




