休みの日、楽しい時間ほどすぐに過ぎ去ってしまうもの……:3
「美味しい……何食べても美味しく感じちゃう……」
辛めのスパイスが効いた串焼きを食べながらファルナが涙を流している。
「うめぇ……あるべき場所に戻ってきたって感じがする……」
裏通りの食べ歩きを終えて、今居るのはテラス川に面した表通り。普通に食べられる店が並ぶ場所だ。
「そうよ、酷い物食べた後にちゃんとした食べ物食べると倍は美味しく感じるのよ」
少なくともこの辺の食べ物は安心だ。粘土で傘増しした小麦粉も、牛乳の代わりに石灰で色付けしたミルクティーもない。
「さっきの店の人、外国人だったな」
「そうね、あの辺は移民が多いもんね」
「……素材の味は正直悪くなかったよな、何使ってるかはともかく。どこ出身なんだろ」
「メトラタでいいんじゃない?あそこ人種とかごちゃごちゃらしいし。移民の国なんでしょ?」
イストサインは隣国メトラタとの玄関口でもある。
18年前は戦争していた敵国だが今は休戦状態、国交もある程度回復している。
「一度行ってみたいよなぁ、メトラタ。珍しい物沢山あると思うんだ」
「差し出がましいけど騎兵は行けないと思うわよ」
イグドラは自国の情報を外部に漏らす事を固く禁じている。
騎士ほどでは無いとはいえ、武器や防備の情報を持つ騎兵が観光目的で行けるとは思えない。
「私は行った事あるよ。外交官と一緒に、向こうの人よりついてきたグレイマンの方が怖かったなぁ」
露店を眺めながら昼のテラス川通りを三人で歩く。工芸品の並んだ区画に入るとファルナが眼を輝かせ始めた。
「いいわねここ!レガリア私ちょっと回ってくる」
「ん、いーよ」
一旦ファルナと離れ、私とエドガーで道に広げられた商品を眺める。
ガラスで出来たアクセサリー、折りたためる鍋にフライパン、緋鉄製の火を出さず煙草に火をつけられるライター。
この日の為に職人が作った装飾品や便利グッズ、工房の技術者が術式を入れたアイデア商品などが目白押しだ。
「おっさん、そのライターいくら?手製?」
「10万ロット、手製の一品物だ」
「高すぎねぇか?ところで本当に無限に使えんの?」
「加工式が切れねぇ限り無限だ。傷入れるなよ。あと値下げは受け付けねぇぞ」
ライター片手に店主と交渉するエドガーを待っているとファルナが帰ってきた。
「お待たせ二人とも」
「おかえりー」
嬉しそうな顔をしたファルナが戻ってきた。
「……ふふ、買っちゃったぜ」
気持ち悪い顔をしたエドガーもライター片手に帰ってきた。
「ねぇレガリア、エドガー。これ受け取って」
ファルナが手に下げた物を渡してきた。
「くれるの?」
小さな鉄の板に祈りの言葉を彫ってから絵の具で埋めて読めないようにした物。
何日か持って塗料が剥げれば言葉が浮かんでくる。
イグドラではありふれたお守りだ。
「俺……にもくれるの?」
「当たり前じゃない!一週間は付けてよね?何書いてあるか私も知らないんだから」
「……ファルナの勝ち、エドガー負け」
「え?何?もしかしてセンスの採点?」
「やったー」
(私も何か記念に買おうかな……)
ファルナの選んだ物に負けないような物をと思い周囲を見る。
(…………ん?)
腰のホルスターに提げた原石銃──アガサが一際強く鼓動した。
左腕を見ると、血管から原石糸が伸び出している。
(アガサが反応してる)
相手は恐らく原石武器の持ち主。
(アガサが……警告してきてる)




