あっ仕事増える:5
暗闇の中でざわざわと声が聞こえてくる。
声が少しずつ近づき、私が声に塗り潰されていく──
『私たちに近寄るな』
はっきり聞こえた一つの声。
「──っ!塔子!?」
塔子の声が聞こえた瞬間、視界が開けた。
「これは驚いたねぇ、いる、いる、女、魂、君も一人じゃないのか!」
「お前……!」
塔子の事を言っているのか。
視界が暗転していたが殆ど時間は過ぎていない。
まだ薬品庫の中だ。
「どうやら運命の時のようだ、最高だ、一緒、一緒、仲間、仲良く、楽しい、お互いを理解し合おうじゃないか」
レベリオが背後の薬品棚を引き倒しながらこちらへ向かってくる。
私とレベリオは未だ黒い糸で繋がったままだ。
何をしてくるかわからないレベリオに恐怖を感じ、距離を取る。飛び退き薬品庫から出た瞬間だった。
「レガリア!」
聞き覚えのある声がした。
「誰、誰、誰」
私の背後で一陣の風が吹く。
その風は私とレベリオの間に立ち、黒い糸を断ち切っていた。
私の側に立つ黒いとんがり帽子を被った騎士。
その手には緋く輝く原石の刃を携えている。
「ファルナ!?どうしてここに?」
「アンタの監視!やってたら敵っぽいのがいるから援護!」
奴の黒い糸は虚空に消えた。
レベリオは薬品庫の暗がりからこちらを面白そうに眺めている。
「おやおや騎士殿か、騎士だ、騎士、女王の、剣、ファラン、剣の帝王、女王、殺せ、女王!許さない!女王!!騎士!!殺せ!!これはまあ厄介だねぇ」
ファルナが現れた瞬間、レベリオから響く語気が強く、怒りを帯びてきた。
薬品庫の中から瓶やら鉄棚やらを引き散らかすような音がする。
「レガリア、原石銃構えて」
暗がりから何かうねうねと動く物がやって来た。
「了解……!」
『さよなら』
声が聞こえた。
別れを惜しむような、切ない声。
それと同時に怪物が現れた。
身体にガラス片を貼り付けた、ツンとする臭いを放つ表面を液体で構成された巨人。あの薬品棚から生まれた存在だろう。
「彼はサリヴァンと言うんだ、さよなら、さよなら、さよなら、悪いね、私達にも予定があるんだよ」
私が原石銃を撃ち、ファルナが原石剣を構える。
「また会おうレガリア、帰る、帰る?殺す、殺せ、待て、帰る、次、うん、そのうちね」
薬品棚から出来た巨人は原石銃で撃ち抜かれ、身体の大部分が蒸発する。
巨人の沈黙を確認する前にファルナが倉庫の中へ駆けた。
私は巨人が支えを失ったのを見てからファルナに続く。
「…………居ないわ」
硝子の破片や液体の散らばった倉庫にレベリオは残っていなかった。
「……レガリア、人相覚えてるわね?報告行くわよ」
「……うん」
取り逃してしまった。
リーパー事件の容疑者と思われる人物。
(きっと、また会う事になる)
何処かからまだあのざわめきが聞こえてくるようだった。




