休みの日、楽しい時間ほどすぐに過ぎ去ってしまうもの……:2
イストサインでは月二回大きめの市が開かれる。
街の中心を流れるテラス川の周辺地帯に露店が並び、武器や家具、工芸品が売り出されるのだ。
もちろん食事の屋台も増える。今日の私達の目的はそれだ。
今眺めているのはテラス川に面した眺めのいい通り──から少し離れた薄暗い路地近く。
「……うーん、まだ何も起きない。エドガー何か出た?」
「……いや……んん?うぐっ……!」
「もぐ、まず……!」
「あ……やば……」
食べているのはひき肉を詰めた蒸し饅頭。
(入ってるのは……何かの肉……皮は割と小麦粉……粘土?)
いい感じのハズレだ。
「……ヨシ、当たり。……ぷはぁ!土の香り、値段相応ね」
「う……うぐ……はぁ!!レガリァ!!次はどこ行く!」
「魚介類の屋台あったわね、ヤバそうな雰囲気だったから戻りましょ」
「まだ続けるの……?」
私とエドガーがしているのは屋台巡り。
「ねぇ、ファルナは無理に付き合わなくていいのよ?正直身体に優しい遊びじゃないし……」
ただの屋台巡りではない、あえて危険な屋台──食品偽造や賞味期限ギリギリの物、虫、野草類でかさ増しをしてそうな物、イグドラじゃ食べれないような食品を出す屋台を巡る、危険と浪漫に満ちた行軍だ。
「わ……私は大丈夫よ!さっきのもギリギリ行けたし!」
「……本当に無理して付き合わなくていいのよ、危険感じたら吐いてね、絶対よ?」
「ねえ……二人ともどうしてこんな『食べ歩き』やってるの?さっき食べた饅頭と揚げ物だけで寿命が数年縮んだ気がするんだけど」
もっともな疑問である。
私は趣味以外の答えを持たないが。
「俺は趣味……ってのもあるけど、家が雑貨屋やっててさ。顔売っといて伸びそうな店があれば商品卸す話取ったりするんだ」
「私は完全に趣味ね、でも不味いの楽しんでるだけじゃないのよ?酷い素材に工夫して味付けてるのが料理の勉強になる事あるし、時々だけど美味しい店とめぐり逢えるからね」
(よっぽど酷かったら摘発するけど)
「そうだよな、当たりも引いたら嬉しいよな。前なんか虫の湧いたチーズの店あってさ、流石にダメだろと思ったけど食ってみると割とイケるんだよ。後で調べたら外国の特産だとか──」
「エドガー、やめて。私は『それ』思い出したくない」
ファルナは無言で空を仰いでいる。粘土入り蒸しまんが戻ってこなければいいが。
「そ……そういえば、ファルナは普段何食べてるの?貴族の食事なんて知らないから知りたいなーなんて!」
「……貴族連中は上品に皿に乗った物食べてるよ。私は気に食わないけど」
若干遠い眼をするファルナだが、少し調子を取り戻した様子だ。
「私はこういう雰囲気……好きかな、好きな物買って、その場でさっと食べて」
「とりあえずイストサイン案内一つ目は『裏の屋台に注意せよ』ね!今日は次で切り上げて表行きましょ表!」
本日最後の裏の店は串焼きを並べた店。
並べてあるのは魚介類の焼き物のようだ。
「……イラシャイ」
なんとカウンターの背が恐ろしく高い、手元も商品も見えない。
「100ロットでサンポン、ありがとう」
恐ろしい程の安価で買った串焼きを見る。
多分貝……の中身。多分鰻……多分、蛇とかではない、多分。多分海老……ではなく……蟲。
「やばい」
「待って……食べるの?本当に食べるの!?」
「むしゃむしゃ」
(エドガーが行った!!)
(裏屋台のルール、とにかく食べる!危険なら吐く!)
勝手に決めた今ルールと共に意を決して頬張ってみる。
やたらと硬い脂身のような貝にまだ食べられる何かの切り身、そして硬い脚。
「……普通、ただ焼いただけじゃん」
「ありふれてるわねぇ、面白いの素材だけじゃん」
ファルナから反応がない、一応口は付けているが。
「ファルナ?大丈夫」
言い終わらないうちにファルナはテラス川の方に駆けていった。
「……なあ、日を改めた方が良かったんじゃねぇの?」
「正直、悪い事したと思ってるわ」
底にはヘドロが沈むテラス川が、また少し汚くなった。




