もっと休んでたかったです:1
死臭がする。
「一世帯丸ごとか……酷いな」
側から見れば何の変哲もない、普通の民家。けれどその中、普通の生活を送っていたであろう場所に四つ、死体が転がっている。
「おぇぇぇぇ!」
「吐くなレガリア」
「隊長……私じゃなくてエドガーです」
事件現場だというのに同僚であるエドガーが死体を見て嘔吐した。
(まあ、無理もないか)
エドガーを白い目で見ていた私も必死で吐き気を抑えている。
ここはイストサイン、鉄工業で栄える蒸気立ち込める街。
その中、一般市民が住む居住区。
「レガリア、エドガーを外してやれ」
「了解です」
使い物にならないエドガーを連れ民家を出る。
外は雨、冷たい水飛沫が辺りの建物を叩いている。
(この辺は被害少なかったんだ)
二週間ほど前、イストサインはある戦禍に巻き込まれた。騎兵隊の建物を中心としてある男が破壊活動を繰り広げたが、その男は目的を達せず倒れた。
(誰が…あんな事したんだろう)
壊れた街は再生しつつあった。けれど、街で事件が消えることはない。
「うう……口ん中が酸っぱい……」
「はいお水、しっかりゆすいで」
事件現場の家を出て、私は近くにあった噴水でエドガーの背をさすっている。
「レガリアは……よく平気だな……見慣れたのか?」
「私も平気ってわけじゃないんだけど」
騎兵なんていう物騒な仕事について約半年、死体を見る機会は何度もあった。
「うー……ダメだ……焼きついて離れねぇ……」
「エドガーはグラドミスの件で死体片付けたんでしょ?」
「だからと言って平気じゃねぇよ……それに現場の雰囲気が違うし……」
(確かに)
戦場のような場所で見る死体と一般家庭に転がっていた死体、両者の趣はまるで違っていた。
「犯人、どんな奴だと思う?」
「んー?そうだなー」
私の問いかけにエドガーが考え込む。
「強盗じゃね?」
「いくらなんでも強盗があそこまでする?」
最近、イストサインでは犯罪が多い。
街の復興の為とイストサイン内外から労働者を募っている為か、余所者と街の人とでいざこざが絶えないのだ。
「じゃあ怨恨?」
「……だと思うよ」
男の子の死体、女の子の死体、両親と思われる二人の死体。
「辛いな」
「……うん」
私の気持ちを反映したのか、腰に下げた銃から出る糸が指に絡んでくる。
「犯人、見つけようぜ」
「うん」
エドガーと拳を軽くぶつける。騎兵学校からの同期な彼は私と気が合った。
「レガリア、エドガー、撤収するぞ」
カメラをとメモ帳を持った長身の女性──騎兵隊イストサイン支部のカティア隊長が家から出てきた。




