休み中に業務がやってくるんじゃないよ:2
「……ロスさん」
変装しているが間違えようはない。
目の前にいる男はロス。
隣国メトラタのスパイで、私が原石銃に侵食されるきっかけを作った男。
「久しぶりって程でもないわね」
警戒するようなファルナの声。
前に会った時はグラドミスを倒す為に協力していた。
だが奴がイグドラの内部情報を探るスパイであることのは変わりない。
「そうですねぇ、ところで御三方は何故このような場所に?」
「レガリアの銃が何かを感じてここに来たのよ」
ファルナが腰の原石剣──ファランに手を添えた。
「貴方もやって来たって事は本当に原石が絡んでるようね」
「偶然居合わせただけなんですがねぇ」
ロスが杖から手を離す。戦う意志が無いということだろうか。
支えを持たない筈の杖は直立している。
「でもね、騎士の年寄り連中から、貴方だけは逃すなって言われてるの」
ファルナの声は若干浮ついている。
「それに、私は貴方に興味があるの。散々騎士を手こずらせたって噂の『ロス』に」
(ファルナ……戦う気だ)
初対面の時から戦闘狂めいたところがあるとは感じていた。
(でもこんな所で戦うなんて冗談じゃないわ!)
「お……抑えてファルナ……!」
どう説得しよう、今にもファルナは抜剣しそうだ。
「い……今戦ったら現場検証がしにくくなる……それにアンタらに巻き込まれたら俺死んじまうよ……」
エドガーもファルナを諌めだした。
「……はぁ、わかった」
ファルナが溜息をつき、ほんの少し張り詰めた空気が和らいだ。
瞬間、辺りの空気を一閃の刃が凪いだ。
音すら置き去り振り放たれた『何か』がぶつかり、空中に火花を散らす。
「…………っ!……フフッ!凄い、強いんだね貴方」
絵画のように静止したファルナとロスの間でファランと漆黒の杖が交差している。
杖はロスの原石武器だ。
見た目は何の変哲もない杖だが、漆黒鉄製のそれはこの世のどんな金属より重い。
一瞬で起きた出来事をやっと理解した。
ファルナが剣を抜き、ロスに斬り掛かったのだ。




