毎日思うんですよ、職場に私なんて必要ないって。居てもいなくても変わらないって:2
「どうしてここに?」
「カティアさんの割り出した奴さんの潜伏先に来たら君が落ちてきたんですよ」
頭上から風を切る音、そして地響き。先程私が砕いた鎧と共にグラドミスが落ちてきた。
「ああ、ついでのグラドミス。お呼びでないですが」
「……ロスか、貴様は本当に私達の邪魔をしてくれるななぁ!」
グラドミスは怒号と共に鎧の一部を己の身体に張り付かせた。
「はあ、これがあるから騎士は面倒臭い」
ロスが杖を構える。
「レガリアちゃん、弾はあと何発?」
「一発だけ、予備も無いです」
決め手は少ない。だが二対一、相手が戦争の英雄でも勝ち目はある。
「いいだろう」
グラドミスの背後、屋敷の壁から巨大な鎧が二体、辺りに煉瓦を撒き散らし飛び出してきた。自律して動く漆黒鉄の鎧達は暴走列車の様に私達へ向かってくる。
「叩き潰してやる」
三対二になった。
「逃げます」
「えっちょっと!」
言うや否やロスは身軽に駆けていく。たまらず私もその場から遁走する。
彼も声をかけてくれただけ律儀なのかも知れない。
「追いかけて来ないですな」
脇目も振らずグラドミスの屋敷から逃げた後、ロスと私は時計台の屋根へ登り、辺りの様子を窺っていた。
「あの鎧共引き連れて支部にでも向かったか、それとも工業地帯の方か」
「……ロスさん、イストサインが」
下を見下ろせば逃げる人々と、それを追いかけるグラドミスの傀儡達で道はごった返している。
一体の傀儡が、転んだ男に掴みかかった。鎧を着た傀儡が持つ斧が、男の頭を割った。血が辺りに──
「見ない方がいい」
ロスが目を逸らせずにいた私の顔を掴み、視線を外させる。
「非常に残念ですがここはもう戦場」
いつもにこやかな表情をしていた彼の顔に笑みはもう無い。あるのは皺の多い顔に刻まれた険しい表情だけだ。
「お互い出来る事をするんです。この戦いを終わらせる為に」
「……終わらせるって、何をするんですか?」
「やるのはどちらかと言えば君ですよ」
ロスが指差したのは私が持つ銃、逃げている間も手放す事が出来ず指にくっついた私の切り札。
「君が銃弾をありったけ使って、この辺りで暴れる漆黒鉄の鎧共を全部破壊すれば状況は変わる」
奴が、奴の一族がこの日の為にと用意した鎧達。
「私は君の道を作りましょう」
ロスは道を歩く人達、傀儡に追われている人々を指す。
「君が進めば、多くの人が救われる。立ち止まっている暇はありませんよ」
ロスが器用に糸を使い、大通りへと降りていった。
「立ち止まってる暇はない……」
街の喧騒は広がるばかりだ。
イストサイン支部まで走って一時間といったところか。




