給料は欲しいけどやっぱり休みの方がいい……:2
「……よりによって君とはねグレイマン。ファルナレギア殿が来ると思っていたが」
「逃げられんぞロス、貴様には聞きたい事がたっぷりある」
グレイマンの座る車椅子が変形を始めた。
肘掛けが義手と一体化を始め、車輪が脚を補強し、土台が装甲となりグレイマンを覆っていく。
「オリンピア!掴まりなさい!」
鉄の軋む音が響き、煉瓦を砕く轟音が地下牢を揺らした。
時刻は午後四時、エンドサインの屯所を出たところ。
「レガリア、コーヒーだ」
「ありがと」
支部に向かう前に私とエドガーは休憩を入れていた。
「ぼったくられなかった?」
「流石に騎兵相手にコーヒー二杯で値段誤魔化すヤツいないだろ」
「……私今日5000ロット取られたわよ」
「おつかれー、まあ今日の分の給料出してくれるからいいだろ」
「私は休みの方がいい……」
ぼやきながら帰路につく。屯所のすぐ近くのエンドサインの広場に来た時だった。
「……レガリア、あの子どう思う」
「ん……子供……?」
エドガーが指すのは広場の中央に立つ女の子。
貧民とは思えない、悪くない身なりをした女の子だ。
「迷子っぽくね?一人だし、周りに誰も居ないし」
広場は閑散としている。立っているのは私とエドガー、謎の少女三人だけだ。
(ほっといても……ダメかしら……?)
「だめだぞーレガリアー、ああいうのを放っておくと人攫いに連れてかれて盗みやら殺しやらを仕込まれて、回り回って俺たちの仕事になるんだぞー」
迷う私の心を感じ取ったらしいエドガーが気持ちを固めてくれた。
「あのーそこのお嬢さん」
不審者に思われないよう、ゆっくりと声をかける。
「……?」
女の子は何も言わず、不思議そうな顔をして私を見る。
「どうしたのこんな場所で?迷子なの?」
白髪を長く伸ばした、青白い顔をした女の子だ。
「…………」
女の子は何も答えない。
「言葉はわかる?……私はファルナ、騎兵さんよ」
女の子がこくりと頷いた。
「ジル……ジル・ホームズ」
(貴族……じゃないか、外国人だ)
イグドラの平民は苗字を持たない。格好からして貴族には見えないので、観光に来た外国人と言ったところだろう。
「ジルちゃん、家族は何処にいるの?ここがどこだかわかる?」
「…………」
ジルは何も答えず私を見つめている。
突如、街に鈴を割ったような音が響き渡った。
(音響弾だ)
騎兵隊で使われる、緊急事態を伝える音。
(支部の方からだ)
エドガーが悩まし気にこっちを見る。
音を聞いたら巡回中の騎兵は現場に急行すべし、騎兵の規則だ。
(屯所に預けておこうか──)
「あ、ジルちゃん」
子供が一人、エンドサインの出口から駆けてきた。
その後ろには保護者らしき女性が立っている。
「探したんだよ!あ、騎兵さん……」
「ジルちゃん、あの子は知り合い?」
立ち止まった女の子を指し、ジルに尋ねる。
「……家族」
(一安心、だ!)
憂いは無くなった、これで現場に向かえる。
「あんまりサインエンドを一人で歩くんじゃないよ、気を付けて帰ってね」
ジルから離れ、保護者らしき女性に声をかける。
「あの子……貴女のお子さんですか?」
「え……ええ、そんなところです」
「あまり一人で歩かせないようにお願いしますね。それでは」
ジルと女の子に手を振ると、女の子は手を振り返してくれたがジルはこちらを凝視したままだ。
「どうも……お疲れ様です。騎兵さん」
女性が礼をして、ジルと女の子を連れて行った。
──サインエンドの方に。
(移民一家……だったのかな?」)
「レガリア、終わったな?行くぞ」
「ええ」
何が起こったのだろう。
(仕事が増えそうなのは確かね……)




