夜勤前は寝るに限るのです。寝ないとやってられないのです:3
目指す安全地帯はイストサインの騎兵支部。
早足で向かえば十数分で着くが走れない母と一緒だと時間がかかる。
「この道抜けたら大通りよ、人がいるわ」
(人通りのある方……だけど)
私は気が気でない、頑丈な自分の体なら怪我をすることも死ぬこともないだろうが母は違う。それにグラドミスがどんな行動をしてくるかも未知数だ。
「レガリア、前にいるわ」
新たな影の刺客だ。もうなりふり構っていられない。原石銃を撃つ。
いとも簡単に影が弾け、欠片が地面に溢れる。
(……こんなに脆いっけ?)
昨晩相手取った影達はまだしぶとかった。
「また来たわ……キリがないのね」
更に数体、道の前後からやってくる。倒れた影が更に影を呼ぶように。
(足止めされてる)
間違いない。影達は少しずつ包囲を狭め、動きを制限してきている。
突如、背中を鋭い感覚が走った。私の腕と銃から伸びていた鉄糸が警告するように高速で浮遊し始める。
「どうしたのレガリア?その糸は……」
(何かに反応してる……危険を伝えようとしてる)
思い当たる相手は一人しかいない。
「騎士が……グラドミスが来る」
あの音、夜の闇を裂いて飛んでくる奴の翼の音が今にも聞こえてきそうだ。
「母さんは隠れて、どこか別の場所に──」
「貴女はどうするのよ?」
ダメだ、このままだと心配させるだけだ。
深呼吸し、思考を整える。
「私は今から……敵を足止めする。母さんは先に支部まで行って増援を呼んで」
通りを塞ぐ影を銃で撃つ、脆い影が弾け飛ぶ。
「レガリア、貴女は平気なの?」
心配を隠せていない声だ。
「大丈夫だって」
私は余裕そうに振る舞う。
「知ってるでしょ、私は不死身、怪我もしないよ」
言い放って、笑みを浮かべる。カティア隊長が見せるように。
危機を告げる原石の糸が空の一点を指し始める。もう時間がないようだ。
「また後でね!絶対隊長呼んでよ!」
私は母を置いて、大通りとは別の方向へ向かう。
途中影が私に向かってくる。その全て鉄糸で倒す。糸で影の体を捻じ切り、捕まえ叩きつけ、勢いをつけ切り裂く。
原石の糸も少しずつ私の意識に馴染んでくる。
(……もしかしてグラドミス来ない?)
時間が圧縮されているようだ。大した距離は進んでいないのにもう数十分逃げた気がする。ほんの数分でも何も起こらない時間があれば思考は楽天的になる。
けれどそれは一時の事だ。
(聞こえる)
昨日あの森で聴いた音。私を追いかけてくる恐怖の音。
夜空を裂いて、翼の音を立て、目の前にグラドミスが降り立った。




