寝る気はなかったんです……
スマホがメールを受信する。
入院し始めてから、家族と文章でのやり取りが増えた。
今日は弟からだ。
『夕飯』
一言だけ言葉が添えられ、オムライスの写真が出てくる。
手作りだろうか、アイツは料理が上手だから。
『飯テロやめれ』
病院食の写真を送ってやろうかと思ったが、代わりに退院後に行きたい店のや食べたい料理やらの写真を大量に送り付けてやる。
『おぼえとけよ』
もう少し色々書いた方が良いだろうか、何か話題でも見つけようか。
『胆管癌 治療薬、癌治療 禿げる、癌 癌保険』
スマホの検索履歴が目に入り、少し鬱になる。
嫌な思考が頭を覆いかけるが、頬を叩き気を持つ。
「……がんばろ」
誰かに後頭部を掴まれた。
「レガリア」
眼から大粒の涙がこぼれた、起きるときはいつもこうだ。
「レガリア」
「は……」
私の頭を鷲掴みにしているのは……
「……っは!隊長……!その……すみません」
うたた寝をしてしまっていたらしい。
「いい度胸をしてるな貴様、睡眠時間は足りているはずだろう?」
隊長が私の頭を左右に振り回す。
「すすみません文字追ってるとつい意識がっ」
場所はイストサイン支部の会議室。私とカティア隊長はグラドミスとロス結託の証拠を掴む為、イストサインで作られたとされる原石武器の調査を行っている。
今は関係各所から預かってきた資料で色鉄の流れを追っている。
「……それは仕分けしてあるのか?」
隊長が私の受け持つ資料を指す。
「はい、一気見できるようにしてますよ」
「半分貰うぞ、こっちは終わった」
「マジですか、早いですね……」
今日は初めての隊長と二人っきりの仕事だ。
普段の仕事をこなしつつグラドミスの件を探る根回しまで行うその活躍っぷりに敬服さえ覚える。資料集めに関しては、私も相当動き回ったが。
「レガリア、そのメモは?」
「これは、色鉄運搬で怪しいなって思った箇所を書いたものです」
「ふむ、ではその資料を渡せ」
「はい」
隊長は凄まじい速度で資料を読み解いていく。
「……二つは工房機材の不具合、もう一つは……これ帳簿の誤魔化しか書き損じじゃないのか?」
経験の差なのだろうか、私が上辺だけ怪しいと思った情報の皮がどんどん剥がされていく。
「レガリア、お前の思う怪しいと思われる工房、貯蔵庫、施設はここだな?」
隊長がコルクボードに掛けてある地図に、鉛筆で点を付けていく。
「レガリア、後必要な情報は何だと思う?」
突然質問された。
しかしこのくらい対応できなければ騎兵足り得ない。
「……ええっと?」
「…………」
視線が痛い、緊張でお腹が痛くなりそう。
「レガリア、ロスはイグドラで何処に勤めていた?」
「え?えっと確か、……鉄工所でした」
「よろしい、奴の勤め先は……ここだ」
隊長が地図に点を付ける。先程チェックされたどの場所でもないが──
(線路……)
ロスの働いていた鉄工所からイストサインへの道。
それらを繋ぐ線路上に、一軒の貯蔵庫が浮かび上がる。
「調べるならここだ。レガリア、直ちに向かうぞ」
「えっ今からですか!?」
せめて1日くらい空けてくれないものなのか。




