制服着てる間はずっと仕事中なんです。家に帰って制服脱ぐまで気分は仕事なんです。制服じゃあ気が休まらないんです……
鉄と蒸気の街、イストサイン。主な産業は鉄製品。
色鉄やその加工品が主な輸出品のこの国で鉄は重要な産業だ。そういった事情もあってかイストサインはなかなか活気のある街である。
今道は家に帰る者、仕事仲間と呑みに出かける者、夜勤へ出かける者などでごった返している。
「クソ……ヴィルヘルムの奴め……とびきり人の多い場所、それに時間を選んできたな」
「隊長……!ちょっと待って……!」
「レガリア、遅れるなよ」
「待って……待って……」
「レガリア?」
「あーれー……」
私は人混みが苦手だ、弾き飛ばされるから。
「何をしているんだ全く……」
カティア隊長が私の手をガシッと掴み、そのまま引きずる様に歩いていく。
「隊長……!歩くの早すぎです!」
「貴様が普段からズブ過ぎるんだ、もっとキビキビ動け」
隊長が進むとまるで波の様に人が割れていく。
無理もない。騎兵隊の制服を身に付け険しいをした長身の女性がただならぬ様子で往来の真ん中を早歩きしているのだ。
事件の現場に急行していると思われても不思議ではない。
(それとももしかしてこの人、普段からこんな感じなの?)
隊長ならばあり得ない話ではない。時間に細かそうだし。
クローイン通りはイストサイン中央にかかるテラス川を挟んだ対岸すぐにある。
食堂に酒場、宿屋などが豊富で、イストサインで最も活気のある通りだろう。
「あ、隊長あの屋台のプディング美味しいんですよ。ちゃんとした肉と調味料使ってる店です」
「そうか」
隊長の興味は屋台より別の事にあるらしい、それもそうだ。
橋を越えクローイン通りまで辿り着き、私達はロスが指定した店に着いた。
「レガリア、とりあえず先に行ってくれ」
「隊長はどうするんです?」
「さりげなく客の振りをして入る、奴を確保できるならそうする」
(その格好じゃ無理だと思います)
よりによって騎兵の制服なのだ、絶対目立つ。
「いらっしゃい」
店に入ると、カウンターに居る店主が挨拶をしてくる。
「どうもこんばんは、トーマス・ロスって方来てます?」
「トーマスなら知らないがロスって方ならそこに居るよ」
店主が指差した先にはテーブル席に座る背筋がピンと伸びた黒髪の紳士がいた。
「……多分あの人じゃないと思うんですけど」
「いやいやレガリアちゃん、私ですよ」
耳馴染みのある声がして飛び上がった。
若く見えた紳士が顔をタオルで拭くと、皺を隠す化粧が落ち、トーマスまたはヴィルヘルム、尚且つロスその人が座っていた。




