呼び出しくらいました。行きたくありません
午後2時半、私は食堂でポテトサラダを食べていた。
(この後事務室にすぐ行って新しい銃の申請書と始末書、反省文、その後先輩から二日間の出来事聞いて──)
好物を食べてるのに味がしない。
「おーっす、久しぶりレガちゃん。やっと解放されたんだな」
制服の上着を肩にかけた赤毛の青年が声をかけてくる。
同期のエドガーだ。
パトロール帰りなのか、後ろに禿頭の大男、先輩のロックさんがいる。
「どうもエドくん、起きてからずっと隊長に監禁されてたのよ。今三日ぶりの食事」
「災難だったな、スパイとの逃避行に列車事故まで」
「私が寝てた間こっちで何かあった?」
「そりゃヴィルヘルム事件の後始末、奴さんの捜索にイグドラでやってた事の調査、関係者の洗い出し、色々あるぜ」
エドガーは食堂にある共用キッチンに向かい、ロックが机を挟んだ前の席に座る。
「明日になれば隊長から話があると思うが、橋から落ちた列車の後始末がある。エドガーと君はそちらに駆り出されるだろう」
エドガーがポットに入ったコーヒーを持ってきた。
「そゆこと、明日から鉄運びだぜ」
「本当にぃ?絶対帰り遅くなるじゃん……」
エドガーが淹れてくれたコーヒーを飲む。
苦味が私を覚醒させ、やる気が出てくる。
「ありがとエドくん、それじゃ私は新しい銃を──」
『レガリアー!大至急会議室に来い。大至急だぞ!今すぐに来るんだ』
食堂の伝声菅から隊長の声が響いた。
「……いってきます」
「どっちに?」
茶化すように笑いながらエドガーが言ってきた。
「行きたくない方!」
本日二度目の会議室。
(私この部屋嫌いなのよね)
そもそも隊長の執務室も兼ねているのでここはもう隊長の部屋というイメージだ。
しかし部屋の主たる隊長は何故かドアの前にいた。
「……来たな」
それも今日一番の険しい顔で。
(私何かしたんですか……?)
銃を向けてきてもおかしくないような険しい顔。
「……騎士グラドミス殿がお待ちだ」
その一言に私の顔も凍りつく。
「レガリア、一つだけ確認させてくれ」
「はい……」
「グラドミスは、列車を脱線させ機関士を殺したんだな?」
先程私が包み隠さず報告した内容、信じてもらえるか一番自信のなかった部分。
「……間違い……ありません」
「わかった、では行ってくれ」
隊長がドアを開けた。
「騎士グラドミス殿、レガリアが参りました」
「どうぞ」
あの時、谷底で聞いた声。
「……参上しました。イストサイン支部のレガリアです」
入るのは私だけだ。
ドアを閉め、騎士に向き直る。
普段は隊長が座っている席に、騎士グラドミスが座っていた。
鎧と同じ黒い服で全身を覆っている。
素顔を見るのは初めてだったが──
(まるで病人)
青白い顔をしている上、遠目からでも頬がこけているのがわかる。
「かけたまえ」
グラドミスが椅子を指して言った。
腕は手袋でも付けているのか真っ黒だ。
その腕を見て、記憶が蘇る。
(私が銃を撃った──)
彼の右腕はしっかりと存在していた。
会議室は普段窓が開け放たれているが、何故か今は締め切られていた。
ガス灯の灯りのみが部屋を照らしている。
私はグラドミスの顔を見た。
病人のような生気の薄い顔、しかしその眼は──
(……怖い)
彼の眼は、紅く激しく輝いていた。




