あと一時間……あと三十分……あと五分……十分過ぎた……二十分過ぎた……三十分過ぎた……まだ帰れないんです
午後7時、そろそろ帰れる時間が近づいてきて私の気持ちが浮き足立つ。
「エドガーの奴、昼の手紙番サボったわね」
この職場に入ってまだ半年。
重要な仕事を任される事はあまりないが、騎兵隊イストサイン支部に来た手紙類を仕分けするの私と、同じく同期かつ見習いであるエドガーの仕事だった。
普段から朝昼夕と確認しているが、夕方の割に量が多い。
「請求書、あとで書いとかないと……。これは隊長宛、これはロックさん、その他投書に私宛……」
(私宛?)
新米の騎兵見習いに手紙が届くことなどあるのだろうか。
今日届いたらしきその手紙には差出人は無く、私の名だけが書かれている。
(中身は……)
開けた瞬間、破り捨てたくなった。
『拝啓、レガリア様。この度は私事に巻き込んでしまい申し訳ございません。先日あなたの身に起こったことや今後のことについてお話があります。夜にイストサインクローイン通りにある『キャンドナ』という居酒屋に来てください。できれば他言無用で、一人で来てくれると助かります。
トーマス・ロスより』
「……あの男、私たちを舐めているのか?」
隊長本日三度目の怖い顔だ。
「……あのー?どうすればいいでしょうか……はっきり言うと行きたくないんですけど……」
「だろうな、私もお前を行かせたくない、だがロスが直接出てくる可能性のあるこの件を無視できない」
隊長がため息をつき、頭を抱える。
(今日はこの人の珍しいところ沢山見れるなぁ)
私にとってカティア隊長はとにかく怖い人というイメージだ。
厳しい表情をして、きっぱりとした物言いをする、時々私の仕事を見に来てちょっとした指摘をしてくる。
(町の巡回の時にアドバイスみたいな説教してくれるし、色々気にかけてくれるのよね)
表情は常に硬く、物言いは厳しいが、それほど他者に冷淡な人物ではないのだ。
「レガリア、今からこの店に行くぞ」
「え?」
「お前と私とでだ、人数は最低限の方が良い、多ければ警戒されるだろう」
「えっと……残業ですか……?」
「その通りだ、これから手紙の通りロスに会いに行く。私は付き添いだ」
「おお……おおう……」
「返事は?」
「はい……」
何という冷淡な問答、血が通っていないのかこの女は。
「では向かうぞ。引継ぎは私がしておく」
時刻は既に9時近く、今日私は何時に家に帰れるのだろう。




