あー鬱、ネガティブ、楽天的になれない、休みたい、それでも明日はやってくる:2
血の染みた包帯を取ると、頭の傷が露わになった。
「いてて……」
傷に触れるとエドガーが呻く。
「痛い?」
「そりゃな」
濡らしたタオルで傷口を洗うとまだ少し血が付いてきた。
(私がもっと強かったらな……)
込み上げてくるのは情けなさ。
結局のところ私にできた事はほとんど無く、逆にエドガーやファルナ、騎兵の皆に助けられた。
「じゃあ巻くからおでこ出して」
「はいよ、どうも」
包帯を巻こうとするエドガーの額にはもう一つ傷がある。
切れた痕の残る古い傷だ。
(……子供の頃の)
確か学校に入る前、その頃から友達だったエドガーと遊んでいた時。
「……どうしたレガリア?」
「なんでもない」
思い返したくないが、確か高い場所から落ちた私を真似したエドガーが頭をぶつけた。
「……頭の傷のこと、思い出してた」
「ああ、なるほど」
普段は制帽を被っていて目立たない。
でも、深い傷はずっと残っている。
彼は覚えているのだろうか。
「なんだったかなー。俺の家でお前と遊んでた時に、お前二階からジャンプしてさ、俺真似して飛び降りて、お前と頭ぶつけたんだよ」
「よく覚えてるね……」
「そりゃな、鏡見る度目に入るからな」
笑いながら額を指差す。
「ごめん……」
「いまさら良いって、これはこれでイケてるし」
包帯を巻き終え、紅茶に口をつけた。
(良い香り、本物の茶葉っぽい)
「強かったなぁ、あの子」
オリンピアの話だ。
「……そうね」
「あの碇みたいな武器やべぇよ、あれ振る度に地面が揺れてさ、そこら中穴だらけだしお前ぼろぼろだし」
「うん……」
「でもお前も凄かったぜ、あんなの相手に足止めしに行くってさ」
エドガーの言葉を聞き、心の中に冷たい刃が刺さったような感覚に囚われた。
「この前から、その銃持ってからのお前滅茶苦茶頑張ってるだろ?隊長だって仕事任せてくれたし」
「……そんなことない」
「ええ?でも今日なんて──」
「……違うの」
普通に喋ったはずが、引き絞るような、掠れた声が出てきた。
「……レガリア?」
顔が熱くなり、目から涙が溢れてきた。
オリンピア相手に、私は何も出来なかった。
アイツの言う通り、戦う覚悟も勇気もない、結局負けて、エドガー達に助けてもらった。
「……ああーもうーー!もう!!」
止まらない涙に苛立ち、顔を掻きながら吠える。
「私はダメなの……!いつも誰かに助けてもらって……私はただそこに居るだけで……出来ることあっても……大抵手遅れで……!」
ダメな考えが止まらない、考えるほど涙が溢れてくる。
情けない涙だ、勝手に自分を憐んでいる涙だ。
こんな顔をエドガーに見られたくなかった。
「……ハハッ」
エドガーの笑い声。
「面白いなお前って」
「何が!」
「すっごい変な泣き方するじゃん、泣いてるのに怒ったような声出して、怒ってるんだか泣いてるんだかわからねぇ」
エドガーに笑われ、恥ずかしさを感じる。顔は熱いままだが急に涙が引っ込み始めた。
「くくっ……それに本当真面目、お前普段やってる事全部真面目な上に悩みも真面目過ぎだって」
笑われながら、思い出す。
エドガーの前で泣いたのは初めてではなかった。
子供の頃エドガーが頭に傷を負った時、家出して最初に見つけてくれたのがエドガーだった時、騎兵学校で模擬戦相手を殺しかけた時。
いつも同じように、泣きながら喚いていた。




