おまけエピソード『百物語』
相田くんと、僕の部屋で二人百物語をしていたときのこと。
(※注 二人百物語とは、日本の伝統的な怪談会のスタイルのひとつである『百物語』を二人でやるという、一人あたり50話の怪談話を用意しなければいけない怪談玄人向け企画。なお、六畳の僕の部屋で本当に蠟燭を百本使うと火災発生不可避のため、今回は不使用。)
百話目を語り終え蠟燭の火を吹き消すと何かが起こる…そんなことを期待して、真夏のある日、僕と相田くんは僕の部屋に集まった。冷房を16度に設定し、ブランケットにくるまりながら、交互に怪談話を披露していく。
僕は書籍やネットから収集した怪談話や、UMAやUFO、ときにはいわゆるヒトコワも含めた、オカルトバラエティ豊かなラインナップで持ち話数を消化していった。いわばオカルト界のキングオブファイターズ、異種混合チーム戦である。
一方、相田くんは流石の貫禄を見せ、怪談だけでその持ち話数を消化していった。時には自分の体験談も挟む相田くんの語りは、僕を夢中にさせた。まさに始祖・ストリートファイターといった感じだ。(この例えはよくわからないのでもうやめます)
「このままでは相田くんのペースで百物語が終わってしまう」
と、本来の趣旨から外れてしまっていることに気付かないまま焦っている僕は、「持ち話数を消化」と書いていることからもなんとなく察せるように、若干ダレはじめていた会の雰囲気を引き締めるためにも、とっておきの怪談をこのタイミングで披露することにした。
* * *
――「掌の跡」
僕の中学時代の後輩、Aから聞いた話だ。
Aは僕たちが住んでいる高知県の出身ではなく、中学の初めに山陰地方のとある県から引越し、転校してきた奴だった。
そんなAがまだ小学校低学年の頃。Aの親類に、不幸があった。亡くなったのはAの遠い親戚にあたる高齢のBさんという男性で、事故や事件などといった物騒なものではなく、天寿を全うしたと言える最期であったらしい。
Aの住んでいた地方の風習なのか、それともAたちの親族内での習わしだったのかはAも覚えてないというが、通夜の席ではまだ故人を棺桶に入れず、通夜の最後に棺桶に納めるという風習があった。
元来明るい性格のAの一族が執り行う通夜は、湿っぽさはなく、故人との思い出や久しぶりに集まった親戚同士の現状報告などで終始明るいムードで進行した。
そしてそろそろ一区切りを、というところで、いよいよBさんを納棺することになった。
簡易的に組まれた祭壇の前に置かれた棺と、さらにその前に横になっているBさんの遺体。親類縁者たちは、一言二言ずつ、Bさんに声をかける。この時ばかりは、少しだけ湿っぽい空気になったのを、幼いAも感じたという。
声かけも一通り終わり、では、○○さんは肩の方を持って…とか、××さんは足の方を…などと確認をしていたその時。それまで座っていたCさんが立ち上がり、「俺にも持たせてくれ」とBさんの足を掴んだ。その様子に、居合わせた一同は大いに焦ったそうだ。
というのも、「妊娠している女性とその夫は、納棺の作業の際に故人に触れてはいけない」という決まりがあったらしい。どういった理由があるのかは、みな詳しくは知らないようだが、その決まりは長らく守られてきたようだった。そしてCさんには、妊娠中の妻がいたのだ。
親戚たちが口々に止めるも、Cさんは「頼む、俺にやらせてくれ」と、通夜の席でお酒が入って感情が高ぶりやすくなっていたこともあったのか、涙を浮かべてまで懇願した。そして、その理由を語った。
Cさんは、生前のBさんに随分と世話になっていた。学生時代の進路相談に乗ってもらったこともあれば、立ち上げた事業に失敗して抱えた借金を肩代わりしてもらったことすらあったという。
それを聞けば、決まりを知った上でもなお、自分の手で送ってやりたいと思う理由はあるように思えた。
結局、全員が納得したわけではないと思うが、CさんがBさんの両足首の部分を持つことを一同は認め、Bさんを納棺した。
それからしばらく経ち、Cさんに子どもが生まれた。通夜の時にCさんの妻のお腹の中にいた子どもだ。
――その赤子の両足首には、赤黒い掌の跡のような痣が、刻まれていた。
* * *
どうだ、決まっただろう。ゲージを3本溜めた超必殺技でK.O.を取ったような、会心の怪談だ。もはや会談だ。(?)
あえてオチをシンプルに、唐突に言うことで発生する「落差」を用いて、人間の心理まで利用した最高傑作である。
ちなみに後輩のAなど存在しない。オタク陰キャだった僕に、後輩と呼べるような存在ができる人望はない。当然BさんもCさんも存在しない。つまりこの話は完全なる僕の創作だ。
相田くんは終始黙ったまま、僕の話に聞き入っていたようだ。さぞかし恐怖におののいていることだろう。
そう思いながら、おそらくドヤ顔をして相田くんの方を見た僕の目に飛び込んできたのは、静かに寝息を立て、気持ちよさそうに目を閉じている相田くんの寝顔だった。




