第一話
憲法制定シリーズの二作品と、新作による連載版です。
ゆるゆるとお楽しみ下さい。
帝国一の学舎であり、高位貴族や優秀な子女が集まる帝国立学園。
季節はもうすぐ春だというのに、前日から雪が降り続くある日の午後。
学園の敷地内にある会場では、恒例の卒業パーティーが行われていた。
謝恩会も兼ねるこのパーティーは、今年も卒業生とOB、OGである保護者によって賑わっている。
その中に、ウェンディ・ロータス伯爵令嬢はいた。
ウェンディは学園に入学するより前の十歳の頃に、ロルフ・ハーバー公爵令息と婚約を結び、入学後は同級生として過ごしていた。
ロルフは皇太子アンドレアス・フォン・ベルクマンの側近候補として、同じく側近候補で代々宰相を務めるフリッツ・ブラウン侯爵令息と共に行動していた。
一般的に貴族令嬢はデビュタントになるまで、家庭で大切に厳しく教育される。
そのため女子学生のほとんどが、十六歳から学園に入学する。
男子学生より遅れて入学したウェンディ、皇太子の婚約者マーガレーテ・ビアステッド公爵令嬢、そしてフリッツの婚約者であるナディア・ロッテン侯爵令嬢。この三人もまた、学業で切磋琢磨しながら、卒業までの三年間交流を深めた。
三人は、それぞれの立場を超えて仲が良く、それは親友と呼べるほどのものだった。
卒業すれば、正式に結婚が控えている。三人だけでなく、学生たちは皆、一瞬の青春を謳歌していた。
しかし、ウェンディたちが最終学年を迎えた春。
見目麗しい平民の少女が男爵家の養女となり、下級生として学園に入学した。それをきっかけに状況は変わってしまう。
少女の名前はリリー。一年前、自身が育った孤児院で幼い子の面倒をみながら働いていたところ、慈善事業を行っているハイネ男爵の目に留まり、十人目の養子として迎えられた。
生徒会を通じてリリーのことを知ったロルフ、アンドレアス、フリッツは、リリーの謙虚さや、生い立ちに負けない明るさ、貴族らしくなく喜怒哀楽がすぐ顔に出るところを好ましく思い、あっという間に淡い恋に落ちた。
リリーは身の程をわきまえた、とても聡い少女だった。
自分が貴族令息に見初められるとは露ほども思っていないし、婚約者の座を奪おうとも考えていない。
ウェンディ、マーガレーテ、ナディアも上位貴族としての常識と品性、知性を持ち合わせた令嬢だった。
浮き足立つ自分たちの婚約者を冷静に観察し、リリーの本質を見定め、リリーが周りの者たちに嫉妬や中傷されないように気を配った。
そして一年近くが経ち、近年稀に見ぬ大雪の中で卒業パーティーが行われた。
残念ながら、浮き足だったままの者たちが三人いた。
ロルフ、アンドレアス、フリッツである。
三人はいつも一緒にいた。だからお互いが誰を見て、何を考えているのか言葉にしなくても理解した。
それが執務で発揮されれば、とても良い主従関係を築けただろう。
残念ながら薄っぺらい恋をした三人だけが、冷静に現実を見ることができないままであった。
三人は、卒業パーティーで男らしく、自分たちの恋に決着をつけることにした。
卒業パーティーに参加する在校生の一人として、多忙なリリーを呼びつけていた。
三人は卒業パーティーの場で、同時にリリーへプロポーズをする計画を立てていた。
誰が選ばれても恨みっこなしで。
しかし、当然ながら問題もあった。
婚約者のいる身では他の女性にはプロポーズできない。
そこで、リリーにプロポーズする直前にそれぞれの婚約者に婚約破棄を告げることにした。
「真実の愛を見つけた」という台詞まで用意して。
意気揚々とパーティー会場に乗り込んだ三人。
会場はすでに卒業生と保護者で溢れている。皇族席にはこの後、アンドレアスの両親である皇帝と皇后も座るだろう。
卒業生は華美に着飾ることなく、袖を通すのが最後となる制服を、名残を惜しんできちんと着用していた。
いつもと違うところがあるとすれば、卒業生を表す白い花を一輪、胸元に飾っているところだ。
ちなみにこの花は、パーティーの終盤に婚約者と交換するのが慣わしとなっている。
三人は人混みの中から、自分たちの婚約者よりも先にリリーを探した。
緊張して佇むリリーを見た三人は思わず笑みを浮かべる。しかし、すぐ近くにいる自分の婚約者を見つけると、表情を険しいものへと変えた。
順番はあらかじめ、クジで決めている。
ロルフは一歩前に出る。そして胸いっぱいに息を吸い、大きな声を上げた。
「ウェンディ! ウェンディ・ロータス伯爵令嬢!」
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本日、第二話まで投稿します。




