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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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第88話 宙に浮く責任

 責任の所在は、決まらなかった。


 報告書は整っている。


 基準は適用された。

 判断に誤りはない。

 手続きも正しい。


 それでも。


「では、この結果の責任は誰が持つのか」


 若手官僚の問いが、会議室に落ちる。


 静かだ。


 だが、逃げ場がない。


「制度としての判断です」

 別の官僚が言う。

「個人の責任ではありません」


「制度の責任か」


 誰かが繰り返す。


 制度は、人格を持たない。


 責任を問われても、

 答えない。


 レインは、ゆっくりと口を開く。


「私の名で運用しています」


 全員が彼を見る。


「最終責任は、私にあります」


 その言葉は、重い。


 だが、ルカが言う。


「現場で黒を置いたのは、俺だ」


 短い言葉。


 さらに重くなる。


「中央が決めた基準だ」

 レインが言う。


「現場が選んだ色だ」

 ルカが返す。


 沈黙。


 責任は、分かれない。


 どちらにもある。

 どちらにもない。


 午後。


 議論は続く。


「判断記録を詳細化すべきです」

「意思決定のプロセスを可視化する」

「第三者検証を導入する」


 すべて正しい。


 だが。


「それで、誰が引き受ける」


 ルカの問い。


 誰も答えない。


 説明はできる。

 分析もできる。


 だが、

 引き受けるという行為は、

 別の次元だ。


 夜。


 レインが、静かに言う。


「……基準は、責任を軽くするためにあった」


「そうだな」


「だが、それは同時に」


 言葉が止まる。


「逃げ道になる」


 初めての認識だった。


 基準に従えば、

 個人は守られる。


 だが、

 守られるほど、

 誰も引き受けなくなる。


 俺は、静かに言う。


「責任は、分配できない」


 言葉が落ちる。


 重く、

 動かない。


 レインが、ゆっくりと顔を上げる。


「……なら」


 問いが生まれる。


「誰が持つのか」


 答えは、まだ出ない。


 成り上がりは、

 責任を避ける物語ではない。


 **宙に浮いた責任を、

 どこに落とすかの物語だ。**


 窓の外は、晴れている。


 だが、

 制度の中には、

 まだ落ちないものが残っていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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