第81話 基準の外
災害対策会議は、いつもより短かった。
被害総数は確定し、
物資の再配分も進んでいる。
数字は、ようやく整った。
「全体としては、迅速な対応でした」
若手官僚が報告する。
「救出率は高水準です」
誰も反論しない。
だが、空気は重い。
ルカが壁際に立っている。
泥は落ちているが、疲労は残っている。
「次はどうする」
彼が問う。
「災害対応基準を改定します」
レインが答える。
「優先順位決定の数式に、現場裁量係数を組み込む」
合理的だ。
制度としては正しい。
ルカは、首を傾げる。
「係数?」
「成功確率だけでなく、即時性や現場状況を評価値に反映する」
「数にするのか」
「しなければ、統一できない」
沈黙。
「現場は、数にできないことだらけだ」
ルカは言う。
「水の速さも、泥の重さも、顔の表情も」
「だが、中央は統一しなければ動けない」
「中央が動かなくても、現場は動く」
短い衝突。
俺は口を開く。
「基準を増やせば、救えるわけではない」
レインがこちらを見る。
「では、何を」
「基準の外を、認める」
「曖昧になります」
「そうだ」
曖昧は、制度の敵だ。
だが、
現場では、曖昧が命を救うこともある。
午後。
再検討制度の災害版が提案される。
「非常時は、現場判断を優先」
「事後に検証」
ルカが小さく笑う。
「最初からそう言えばいい」
「制度に書かなければ、責任が宙に浮く」
レインが答える。
「責任は、最初から宙にある」
ルカは言う。
「救えなかった一人の上にな」
沈黙。
夜。
執務室で、レインが言う。
「止まれる制度を作った」
「だが、止まれない場所がある」
「そうだ」
「基準の外を認めれば、制度は不完全になる」
「制度は、最初から不完全だ」
彼は、長く息を吐く。
「不完全なまま、運用する」
「それしかない」
成り上がりは、
完全な答えに辿り着く物語ではない。
**不完全なまま、
引き受け続ける物語だ。**
帳簿には、
救出数と、
一つの名前が並んでいる。
数字の外に、
制度は立ち続けていた。
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