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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 煤原ノクト


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22/24

第22話 最初の案件

 地図の端に、赤い印が一つ。


 王国の南西。

 山と山に挟まれた、細長い領地。


「……ここです」


 案内役の官僚が、事務的に言った。


「巡察役としての、最初の案件になります」


 資料を受け取り、目を通す。


 税収。

 支出。

 人口。


(……ひどいな)


 前に見た“最悪の領地”より、

 さらに条件が悪い。


「領主は?」


「名目上はいます。

 ただし、実務には関与していません」


 役人任せ。

 責任の所在は不明。


「住民の反発は?」


「……強いです」


 だろうな。


 改革どころか、

 話を聞く空気じゃない。


「期限は?」


「三か月」


 短すぎる。


 だが、王都の狙いは明確だ。


 ――成功しなくていい。

 むしろ、失敗してくれれば助かる。


「分かりました」


 俺は、資料を閉じた。


 官僚が、少しだけ驚いた顔をする。


「……条件を、確認されなくて?」


「確認した」


「では……?」


「これは、

 立て直し案件じゃない」


 官僚が、眉をひそめる。


「どういう意味です?」


「切り分け案件だ」


 俺は、淡々と答えた。


「全部を救う前提じゃない」


 馬車に揺られながら、

 改めて数字を眺める。


 赤字の原因は、複数ある。


 だが、

 その全てに手を出せば、

 確実に時間切れだ。


(……だから)


 最初から、

 救わない部分を決める。


 現地に到着すると、

 案の定、歓迎はなかった。


「また、王都の犬か」

「どうせ、すぐ帰る」


 住民の目は、冷たい。


 役所に入ると、

 役人たちの空気も重い。


「……助言者殿」


 年配の役人が、皮肉交じりに言う。


「今回は、

 何を“変える”おつもりで?」


「変えない」


 一瞬、沈黙。


「まず――

 何を救わないかを決める」


 ざわつく。


「そんなことをすれば、

 反発が――」


「反発は、出る」


 俺は、遮った。


「だが、

 全部を守ろうとして、

 全部を失うよりマシだ」


 数字を、机に広げる。


「この領地は、

 今、延命装置に金を食われている」


 役人たちの顔が、強張った。


「まず、

 止める場所を決める」


 それだけ言って、

 俺は席を立った。


 この案件は、

 “成功”を求められていない。


 王都が見たいのは――

 俺が、どこで諦めるかだ。


 なら。


 最初から、

 諦める場所を、

 こちらで決める。


 成り上がりは、

 すべてを救うことじゃない。


 切る覚悟を、誰よりも先に持つことだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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