第20話 偶然ではない
王都監査局からの再招集は、
前回よりも、静かだった。
「……改めて、時間を取っていただきたい」
声に、余計な硬さがない。
会議室に通されると、
前とは違う顔ぶれが揃っていた。
決裁権を持つ官僚。
数字に強い監査役。
そして――
最初から懐疑的だった者たち。
「結論から言いましょう」
年配の監査官が、資料を置く。
「前回の判断は、
早計でした」
言い切った。
だが、謝罪はしない。
それが、官僚というものだ。
「今回の月次データを精査した結果、
改善は一過性ではなく、構造的なものと判断します」
資料が回される。
俺は、黙って目を通した。
自分で見た数字と、
同じことが書いてある。
「特筆すべきは――」
監査官が、続ける。
「あなたが不在でも、
同様の改善傾向が続いている点です」
別の官僚が、低く言った。
「個人依存ではない。
つまり……」
「再現性がある」
その言葉で、
会議室の空気が、完全に変わった。
「一つ、確認したい」
監査官が、俺を見る。
「あなたは、
この改革を“完成”だと思いますか?」
「いいえ」
即答だった。
「これは、
最低限の是正です」
官僚たちが、息を呑む。
「止血しただけ。
治療は、これからです」
沈黙。
そして。
「……率直で、助かります」
監査官は、わずかに口元を緩めた。
「では、次の話をしましょう」
新しい書類が、机に置かれる。
「王都として、
あなたのやり方を――
正式な手法として検討したい」
それは、評価だった。
だが同時に――
利用の意思表示でもある。
「ただし」
俺は、視線を上げる。
「条件があります」
官僚たちが、静かに頷く。
「現場裁量は、私が持つ」
「数字は、全て公開する」
「強制ではなく、要請という形にする」
一つずつ、置いていく。
沈黙が、続く。
やがて、監査官が言った。
「……受け入れましょう」
周囲が、ざわつく。
「ただし、
あなたにも責任は伴います」
「構いません」
俺は、迷わなかった。
責任とは、
数字を見続けることだ。
それが、
俺のやり方だ。
会議室を出るとき、
若い役人が、小さく言った。
「……すごいですね」
「何がだ?」
「“成功しました”って、
一度も言わなかったことです」
俺は、少しだけ考えて答えた。
「成功と言った瞬間に、
止まるからだ」
王都は、
俺を“偶然の成功例”として扱うことを、
もうできない。
だが同時に――
俺は、完全に表舞台に出た。
選ばれる側から、
選ぶ側へ。
成り上がりは、
次の段階に入った。
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