第2話 最初の改革と、最初の反発
翌朝、城の小さな会議室に領地の関係者が集められていた。と言っても、集まったのは老執事、警備隊長、徴税担当、それに商業を任されている中年男が一人。それで全員だった。
(本当に人がいないな……)
それでも俺は、机の上に帳簿を並べた。
「まず、確認したいことがある」
視線を巡らせる。
「この領地、毎年赤字だな?」
全員が黙ってうなずいた。
「理由は“魔物が多い”“土地が痩せている”“人が減った”――そういう説明になっているが」
俺は帳簿の一ページを指で叩く。
「本当の原因は、これだ」
徴税担当の男が、顔をしかめる。
「……税、でございますか?」
「正確には、税の取り方だ」
俺は淡々と続けた。
「今は一律で徴収している。不作でも、儲かっていなくても、同じ税率だ」
「それは昔からの決まりで――」
「結果、農民は逃げ、商人は寄り付かない。収穫量も流通量も落ちて、税収がさらに減る。悪循環だ」
会議室が静まり返る。
「だから、変える」
警備隊長が眉をひそめた。
「変える……とは?」
「税を下げる」
一瞬、空気が止まった。
「なっ……!?」
「そ、それでは、ますます赤字に……!」
反発は予想通りだった。
「安心しろ。全体を下げるわけじゃない」
俺は帳簿をめくり、別の資料を示す。
「農民と小規模商人は下げる。代わりに、“特定の取引”だけを重点的に見る」
商業担当の中年男が、ぴくりと反応した。
「……特定の取引、とは?」
「外部商人との専売契約。価格が異常に低いものがある」
俺は、ある取引先の名前を読み上げる。その瞬間、中年男が声を荒げた。
「それは……必要な取引です!」
「相手は王都の大商会! 逆らえば、もう物資が入らなくなる!」
「だろうな」
俺は冷静に答えた。
「だが、その契約のせいで、この領地は“売るほど赤字になる構造”になっている」
男の顔が青ざめる。
「そ、そんな……今さら……」
「今さら、だからやる」
俺ははっきり言った。
「このままなら、どうせ潰れる。なら一度、痛みを伴ってでも立て直す」
沈黙。老執事が、恐る恐る口を開いた。
「……若様。それは、かなりの反発が出るかと」
「分かってる」
俺は椅子にもたれ、息を吐いた。
「でも、誰かが嫌われ役をやらないと、この領地は本当に終わる」
警備隊長が、腕を組んだ。
「もし、失敗したら?」
「その時は――」
俺は少しだけ笑った。
「俺の首ひとつで済む話だ」
全員が、言葉を失った。剣も魔法も使えない、後ろ盾もない文官の言葉を、それでも誰も笑い飛ばさなかった。
この改革が成功するか失敗するか、結果が出るのは早くて数週間後だ。ただ、帳簿を閉じながら思う。この領地は死んではいない。腐っているだけだ。
「では、専売契約の一覧を出してくれ」
俺は商業担当の男に、そう告げた。
会議室で税を下げると言い放ったレオン。反発は、当然のように商業担当から上がりました。
次話では、その反発が城下へと漏れ出し、彼を「無能」と呼ぶ声が広場に集まります。感情でぶつかってくる相手に、レオンが差し出すのは一冊の帳簿だけ。
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