第12話 再現できるか?
差し出された書類は、分厚かった。
紙質も、印字も、
扱いが雑な資料じゃない。
「……これは?」
「とある辺境領地の現状です」
監査局の官僚は、感情を排した声で言う。
「正式な領主はいますが、
実質的に機能していません」
俺は、数字に目を通した。
――ひどい。
税収は不安定。
借金は雪だるま式。
支出の内訳は、意味不明。
(前の領地より、条件が悪いな)
思わず、内心でそう判断する。
「住民の信頼は失われ、
役人は派閥争い。
外部商会との契約も、複雑です」
官僚が、淡々と続ける。
「正直に言いましょう」
一拍、置いてから。
「この領地は、
誰がやっても失敗すると考えられています」
なるほど。
だから、俺に回ってきた。
「一時的に視察してもらいたいのです」
「領主代理として?」
「いいえ」
官僚は、はっきり否定した。
「助言者として」
つまり。
責任は負わせない。
だが、結果だけは見たい。
「上手くいけば、
あなたのやり方は“再現可能”と判断される」
「失敗すれば?」
「……偶然だった、ということになります」
空気が、冷たくなった。
老獪だ。
だが、官僚組織らしい。
「期間は?」
「一か月」
短い。
根本改革には、足りない。
だが。
「条件は、三つ」
俺は、資料を閉じて言った。
「現地の金の流れを、すべて見せること」
「現地役人の人事に、口を出せること」
「結果は、数字でのみ評価すること」
官僚は、即答しなかった。
だが、数秒後。
「……承知しました」
その答えに、
周囲の文官がざわつく。
「よろしいのですか?」
「構いません」
官僚は、俺を見据えた。
「どうせ、今のままでも失敗する」
正直だな。
「では」
俺は、立ち上がった。
「その領地、見せてください」
王都の外。
馬車に揺られながら、
俺は、資料をもう一度開く。
数字は、嘘をついていない。
問題は――
どこから切るかだ。
(……今回は)
全部は、救わない。
救えるところだけを、
確実に立て直す。
それで十分だ。
この仕事は、
英雄になるためのものじゃない。
再現できるかどうか――
それを、証明するための舞台だ。
俺は、静かに息を吐いた。
次の領地で、
また一つ、
“壊れた仕組み”と向き合うことになる。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




