第13話 数字が嫌われる理由
領地に到着した瞬間、分かった。
(……空気が、死んでる)
活気がない、というより、
諦め切った匂いがする。
案内役の若い役人が、気まずそうに言った。
「こちらが、領主館です」
建物自体は、立派だった。
だが、手入れはされていない。
中に入ると、
数人の役人が待っていた。
「王都からの……助言者、でしたかな」
年配の男が、形だけ頭を下げる。
視線は、値踏み。
敬意は、ない。
「レオン・アルディスだ」
「我々は忙しい。
短く済ませていただきたい」
なるほど。
最初から、協力する気はない。
「では、早速」
俺は、腰を下ろした。
「この領地の収支を、すべて見せてほしい」
途端に、空気が固まる。
「……それは、権限外では?」
「王都監査局の承認は取ってある」
書状を机に置く。
役人たちの顔が、露骨に歪んだ。
「数字を見なければ、
助言もできない」
「数字、数字と……」
別の男が、鼻で笑った。
「ここは、机上の空論が通じる場所じゃない」
「通じないのは、
空論だからだ」
俺は、静かに言った。
「数字は、現場の結果だ」
反論はなかった。
だが、納得もしていない。
帳簿が、渋々運び込まれる。
目を通して、すぐに分かる。
(……ひどい)
帳尻合わせ。
意味のない名目支出。
誰も責任を取らない構造。
「質問がある」
俺は、顔を上げた。
「この“調整費”とは?」
「……必要経費です」
「何の?」
「……色々です」
答えになっていない。
「では、こちらの“特別管理費”は?」
沈黙。
年配の役人が、苛立ったように言う。
「あなたは、ここを救いに来たのでは?」
「違う」
俺は、即答した。
「仕組みを、見に来ただけだ」
救えるかどうかは、その後だ。
「数字を嫌う理由が、分かった」
役人たちが、睨んでくる。
「数字は、
嘘をつけないからだ」
空気が、さらに悪くなった。
だが、構わない。
この反応こそ、
俺が欲しかったものだ。
(――切るべき場所は、もう見えた)
この領地では、
まず“改善”はしない。
停止だ。
無駄な流れを止め、
責任の所在を固定する。
それだけで、
数字は動き出す。
役人たちが去った後、
案内役の若い役人が、恐る恐る言った。
「……本当に、やるんですか?」
「やる」
俺は、帳簿を閉じた。
「一か月で、
“失敗じゃない”ところまで持っていく」
若い役人は、唾を飲み込んだ。
無理だと思っている顔だ。
それでいい。
最初は、全員がそうだった。
この領地でも、
数字が、
答えを出す。
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