第111話 増え続ける誤差
終わりの始まりだった。
その認識は、
誰の中にもあった。
だが。
それでも、
まだ動いていた。
朝。
報告は届く。
時間通りではない。
だが、
届く。
それだけで、
この国は“正常”を維持していた。
レインが紙を開く。
目を通す。
そして、
静かに机に置いた。
「……また増えた」
短い言葉。
誰も聞き返さない。
内容は分かっている。
> 未処理案件 158
> 処理済案件 903
> 総案件数 1040
沈黙。
合わない。
158と903。
足せば1061。
だが、
総数は1040。
誤差が広がっている。
「……前回より、ズレが大きい」
若手官僚が言う。
「そうだな」
レインは頷く。
「修正は?」
「されていません」
答えは分かっている。
それでも、
確認する。
その行は、
変わらない。
> 修正不要
午後。
追加の報告。
> 未処理案件 162
> 処理済案件 899
> 総案件数 1040
また、合わない。
だが今度は。
差が、
さらに広がっている。
「……どれが正しいんだ」
誰かが呟く。
誰も答えない。
答えはない。
数字は、
もはや基準にならない。
それでも。
運用は続く。
主人公が、静かに言う。
「正しさが、複数ある状態だ」
沈黙。
それは、
最も危険だった。
一つの正しさなら、
選べる。
だが。
複数あるなら。
どれも選べない。
夕方。
さらに報告。
> データ統合遅延
> 一部数値 暫定処理
暫定。
今までなかった言葉。
「……仮で動かしているのか」
ルカが言う。
「そうだな」
レインが答える。
「確定していないまま、
判断している」
沈黙。
それでも。
処理は止まらない。
夜。
最後の報告。
> 未処理案件 170
> 処理済案件 890
> 総案件数 1040
> 処理継続
> 修正不要
誰も、もう数字を信じていない。
だが。
誰も、止めない。
レインが、静かに言う。
「……誤差が増えている」
「そうだ」
主人公が答える。
「だが」
レインは続ける。
「まだ動く」
それが現実だった。
誤差があっても、
進む。
不整合があっても、
止まらない。
主人公は、窓の外を見る。
「止まる理由にはならない」
短い言葉。
それが、
すべてだった。
成り上がりは、
正しい答えに辿り着く物語ではない。
**答えがズレても、
進み続ける物語だ。**
窓の外は静かだ。
だが。
その静けさの中で。
確実に、
何かがずれている。
まだ戻らない。
そして。
もう、
戻らない。
誤差が“見える形”で拡大してきました。
それでも止まらないのが、この構造の本質です。
次話はいよいよ「責任」が崩れます。
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