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赤字領地を押し付けられた無能文官、数字と仕組みだけで静かに成り上がる  作者: 蒼野湊


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110/116

第110話 矛盾の発生

 変えようとしても、

 弾かれる物語だ。


 その結論は、

 完全だった。


 はずだった。


 朝。


 報告は、

 いつも通り届いた。


 時間通り。

 形式も整っている。


 何も変わらない。


 はずだった。


 レインは、紙を開く。


 目を通す。


 そして。


 わずかに、手が止まる。


「……どうした」


 ルカが言う。


 レインは、何も言わず、

 その紙を回した。


 若手官僚が受け取る。


 読む。


 そして。


「……おかしい」


 初めての言葉だった。


 報告は、こうだ。


> 未処理案件 120

> 処理済案件 980

> 総案件数 1050


 沈黙。


 誰も、すぐには気づかない。


 だが。


「……合わない」


 若手が呟く。


 120と980。


 足せば1100。


 だが、

 総数は1050。


 合わない。


 初めてだった。


 この国の報告は、

 常に整っていた。


 誤差はない。


 揺らぎもない。


 それが。


 崩れている。


「記載ミスか?」


 誰かが言う。


「確認中です」


 事務官が答える。


 だが。


 次の報告が届く。


> 未処理案件 125

> 処理済案件 975

> 総案件数 1050


 沈黙。


 また合わない。


 数字が、

 揺れている。


 午後。


 追加の解析。


> データ統合過程にて不整合発生

> 原因特定中


 原因特定中。


 それもまた、

 初めての表現だった。


「……データが壊れている」


 若手官僚が言う。


「違う」


 レインが、静かに否定する。


「整合が取れていないだけだ」


 短い言葉。


 だが、意味は重い。


 今まで。


 すべては整っていた。


 処理されていた。


 だが今。


 処理しきれないものが、

 データの中に残っている。


 それが。


 数字に現れている。


 主人公が、静かに言う。


「見えるようになったな」


 誰も否定しない。


 未処理は、

 今までもあった。


 だが、

 吸収されていた。


 消えていた。


 だが今。


 消えない。


 数字として、

 残る。


 夕方。


 さらに報告。


> 判断ログ 一部欠損

> 再構築試行中


 欠損。


 その一語で、

 空気が変わる。


 ログは、

 記録だ。


 記録は、

 制度の基盤だ。


 それが。


 欠けている。


「……追えないのか」


 ルカが言う。


「一部は」


 レインが答える。


「どの判断が、

 どの結果を生んだのか」


「分からなくなっている」


 沈黙。


 それは、

 最も危険だった。


 原因が追えない。


 ならば。


 修正もできない。


 だが。


 最後の一行は、

 変わらない。


> 修正不要


 誰も、もう言葉を発しない。


 夜。


 最終報告。


> 不整合 継続

> 処理継続

> 修正不要


 すべてが、

 同時に存在している。


 崩れている。


 止まっていない。


 処理されていない。


 だが。


 進んでいる。


 レインが、静かに言う。


「……矛盾している」


 その言葉は、

 初めてだった。


 この国において。


 矛盾は、

 存在しなかった。


 すべてが、

 整合していた。


 だが今。


 矛盾がある。


 そして。


 それでも進む。


 主人公が、静かに言う。


「構造が、

 自分で食い始めた」


 沈黙。


 それが、

 新しい段階だった。


 外からも。


 内からも。


 変えられなかった。


 だが今。


 内側から、

 崩れ始めている。


 成り上がりは、

 壊される物語ではない。


 **自分で壊れ始める物語だ。**


 窓の外は静かだ。


 だが。


 今度ははっきり分かる。


 これは。


 終わりの始まりだった。

ついに「矛盾」が発生しました。

ここからは人ではなく、構造そのものが崩れ始めます。


この歪みがどこまで広がるのか。

続きが気になる方は、ぜひブックマークと評価で応援してください。

次話、いよいよ核心に入ります。

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