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お利口

 今日はいわゆる引っ越し初日、もしくは入社初日みたいな気分だった。オリエンテーション気分で『ポインティハット』内を歩き回って、『魔女の大釜』に報告できるような事案や情報はないものかと散策したんだけど、まぁ客観的に見える部分に重大な要素や問題をひけらかしているわけもなく、本当にただ散策するだけだった。なにも得ることのない時間をつまらないと思ったのはいつ以来だろう。刺激のない時間が退屈過ぎて歩きながら欠伸が出てしまったくらいだ。

「任務よ」

 無駄な時間を過ごした私が部屋に戻るとナタリアがぶっきらぼうに言いながら外出の支度を始めていた。

「お気を付けください」

 そう言って私はベッドに寝転がろうとしたのだが、彼女は面倒臭そうに舌打ちをして冷めた瞳で私を睨む。

「あなたもよ」

「なんで?」

 率直な疑問をぶつける。

「知らないわよ」

「知らないのに私が同行するんですか?」

「同室になる子と一緒に行けと言われていたのよ」

 えーだって来たばかりなのになんで働かないといけないの。今日ぐらいは部屋でゆっくりしなさいって言われるのが常識だと思うんだけど。

「休みたいのですが」

「許されると思ってんの?」

 えー、えー…………やだなぁ。

「私、今日来たばっかりなんですよ? どうして仕事なんてしなきゃならないんですか」

「仕事じゃなくて任務」

「体を動かしますし頭を使うのならそれは仕事です」

 私はベッドに飛び込み、シーツに丸まる。

「働きません、絶対に」

「殺されたいの?」

「ひぇ」

 声音が一段と低くなり、脅しではなく確殺の意思が込められた言葉に私は思わず竦み上がる。

「嫌です~休ませてくださいぃ~。今日ぐらいはベッドでゆっくり休むんですぅ~」

「ひぇ」

 私はすごすごとシーツを手放し、ベッドから降りる。

「あなた、本当に気持ち悪いわね」

「なにがですか?」

「その無自覚の演技が気持ち悪いって言っているのよ。あなた、私に会ってからずっと演じているでしょ? 本当の自分を私に見せてない。それが薄ら寒くて気持ち悪い」


 ……ふ~ん、分かっちゃうんだ。


「本当の自分をナタリアさんは他人に見せたことはありますか?」

「なに? なんなの、急に」

 私の反応に狼狽えている。

「他人に自分自身の素を見せて、そして騙されて全てを奪われるようなことがあったら、どうしますか? 耐えられないと思いませんか? 私は身を守るために仮面を被るんです。仮面を被れば心を守れる。嘘や偽りが本当の心を守ってくれます」

「へー」

 感心してない。

「身を守る術が嘘と偽りしかないなんて、やっぱり気持ち悪い」

 心がチクッとした。おかしいな、嘘と偽りで塗り固めているはずなのにどうして痛いんだろ。こんなのナタリアさん以外にも沢山言われてきたはずなのに。

「行くわよ。任務は近場だから早く終わらせればすぐに帰れるわ」

 そう言われて我に返る。痛みの解答が出ないままだけど取り乱しちゃ駄目だ。いつもの自分を取り戻さなきゃ。

「それを早く言ってくださいよ。ほら、さっさと終わらせてしまいましょ」

 来たばかりだし着替えもしていないから私は支度なんてしなくてもすぐに外へ出られる。ドアを開けてナタリアさんを急かすと強い舌打ちをされた。構わず二人で廊下に出て、彼女が部屋に施錠する。


「いつになく騒がしいと思ったら……ナタリア? また面倒事を押し付けられちゃったの?」

 おっとりとした声色だ。私なんかじゃ絶対に出せない安心感がある。容姿もまた同じように穏やかでお淑やか。言ってしまえばお姉さん系なオーラを発している。って言うか自らそんな感じを醸し出している。体の一部も、母性を感じるし。亜麻色のワンレングス、そしてグレーの瞳。女性的な唇の潤いと柔肌は……もちっとしている。もち肌っていうのかな。

「押し付けられたわけじゃないわ。面倒事が勝手に上がり込んできたのよ」

「まったく、またそんなことを言って……」

 呆れられている。でも私と接しているときよりもずっとずっとナタリアさんの表情は穏やかだ。見知った間柄なのかな。こんなにフレンドリーなんだから違ったらそれはそれで怖いけど。

「フランソワ・フォースターよ。みんなにはフランシーと呼ばれているわ」

「あ……ヒヨ・オノウエです」

「あなた……」

 やや怪しむ様子で私は見つめられる。

「なんですか……?」

「ううん、随分と可愛らしい声で驚いただけ」

 いつもの指摘だ。もう慣れてしまっているけど連続で初対面の人に似たような反応をされると結構疲れるみたい。

「御免なさい。元々、こういう声で」

「いいえ、チャーミングな声だと私は思うわよ?」

 本当に思っているだろうか。おべっかは必要ないのに。

「あんまり捕まえていたって仕方がないわね。これから出掛けるんでしょう?」

 フランソワ――フランシーさんはナタリアさんに視線を移す。

「任務よ」

「あらあら、それじゃ尚のこと油を売らせては駄目ね」

 朗らかに笑って、私たちにはない大人の余裕をオーラとして纏いながらフランシーさんは手を振って「それじゃぁね」と私たちの部屋の三つ隣のドアの鍵を開けて、中へと入った。

「あれで私たちより一つ年上よ」

 恐らくは私が胸中で抱いている疑問をナタリアさんは読み取って答える

「え」

 四つぐらい年上だと思っていたのに、一つしか違わないのか。それで、あの余裕というかお淑やかでおっとりな感じが? 色気ではないけど、抱擁感があるから男性受けは良さそうだ。

「一年経ったら私も」

「それは無理ね」

「なんでですかぁ」

「あなたには絶対に無理」

「まるで自分は不可能じゃないみたいな」

「そんなこと言ってないわ」

「言っているように聞こえたから言っただけですよ」

 口答えにナタリアさんは再び舌打ちをする。さっきからバッドコミュニケーションばっかりで仲良くなれる気が全くしない。私は溜め息をつきつつ、先行く彼女を追い掛ける。エレベーターに一緒に乗って、駅地下から駅に出る。

「移動手段ってこれだけなんですか?」

「別に。色々なところから出られるわ。凶悪な魔女狩りが出たとき、人数制限でボトルネックになったら元も子もないでしょう?」

「確かに」

 エレベーターだけが地上に出る唯一の手段だったら『ポインティハット』に所属している魔女の数に比べてあまりにも貧弱すぎる。

「あなたは偶然、エレベーターだっただけ。そして今回も」

 なら近場で発生した魔物、もしくは魔女狩りはまさにこの駅の近くにいるってことみたい。

「どんな魔物が?」

「それはこれから調べる」

「え」

 『魔女の大釜』だったら事前調査をして発生した魔物や魔女狩りに有効な魔女を派遣する。

「事前に知らされてないんですか? 先輩魔女とかは?」

「私たちは現場主義だから」

 こんな行き当たりばったりは『魔女の大釜』じゃあり得ない。現場主義って物は言いようだけど、予備知識や事前知識無しに現場に放り込まれたら誰だって活躍のしようがない。

「不服そうな顔」

「そりゃそうですよ」

「サイコパスなのに不安なの?」

「私はサイコパスじゃないですぅ」

 ぷくっと頬を膨らませる。ナタリアさんは呆れる。もう何回目か分からない。

「『ポインティハット』からなにか渡されたりしてません?」

「紙切れなら」

 そう言って取り出された紙を私はやや強引に奪う。

「……やっぱり。ここにちゃんと詳細が書かれてるじゃないですか」

 ナタリアさんの言うところの任務内容が紙には事細かに書かれている。おかしいと思ったんだよ。さすがに現場任せは暴走を招く。

「うるさいわね」

「魔女狩りだった場合、一歩間違えれば死ぬんですよ? もっと気を引き締めないと」

「だからうるさい。私、読めないのよ」

「なにが?」

「字が」

「じが?」

「もー……! 日本語の読み書きができないの!」

「え、でもこんなに流暢に話せているのに?」

「リスニングはできてもライティングができないの」

 自身の弱点を晒すことへの苛立ち、そして恥ずかしさみたいなものがナタリアさんの表情からは見て取れる。普段から冷たい視線、冷たい表情、氷のような佇まいをしていたからその表情はどこか新鮮さがあったけど、言ったら怒られるんだろうな。私もあんまり自分が恥ずかしいと思っていることはイジられたくないし。

「リスニングが出来ているだけでも凄いことですよ。日本語は難しいって評判ですから」

「あなた、海外を馬鹿にしてる?」

「してません」

「日本の人に『日本語が難しくて』って言うと大体みんな嬉しそうにそう言うのよ。気味が悪くて仕方がない。人が苦労している部分に共感しているところがとてつもなく苦手」

 へー、すっごくどうでもいい。私に関係ないところで私に文句を言ってこられても困る。別に嬉々として言ってない。むしろ寄り添う感じで言ったと思う。なのになんか怒られるのは違うような。

「読んで。なんて書いてあるの?」

「えーっと、魔物が発生した場所はここから南に行った先にある河川敷みたいです」

「河川敷?」

「橋はあるんですけど、高架下周辺はあまり近寄らないようにしましょう。まずは遠目から見る感じで」

「どうして?」

「吹き溜まりだからです。ホームレスの人が不法占拠している場合が多くって、まぁいなくても変な人が横になって寝ていたり雨風を凌ぐために過ごしていたりするのであんまり治安が良いところじゃないんです」

「そう……どこも同じなのね。見栄えの良いところは治安が良くて、少しでも見栄えが悪くてあまり沢山の人の視界に入らないところは途端に治安が悪くなる。ゴミだって沢山捨てられる。ちょっと視線や角度を変えたら途端に掃き溜めに変わる」

「優等生みたいなこと言うのやめてくれません?」

 私の言葉にナターシャさんが目を見開く。

「なに?」

「だから自分にはモラルがあって世の中を憂いていて治安の悪さに悲しんでいるみたいな言い方するのをやめて欲しいんですけど。良い子ぶってなんになるんですか? 正直、なんとも思ってないですよね? なんとかしないと、とか思っているフリですよね? 自分の環境に関わらない部分でなにかが変わったって気にしませんよね?」

「……調子が狂う。どこにあなたの地雷があるんだか分からないわ」

「それは私も同じです。ナターシャさんのどこに私を嫌う地雷があるのかサッパリなんですから」

 少し言い過ぎたかも。だけど我慢できなかった。ナターシャさんが本気で言っているなら私もそこに寄り添う言葉を嘘であっても並べ立てることができたけど、この人はなんとも思ってなかった。なんにも考えてなかった。思考を放棄して声に出してた。そう言った方がお利口とか、偉いとか言われるから言っているみたいな。機械的な返事だったのが物凄く癪に障ってしまった。

「では、河川敷に向かいましょう」

「その切り替え方も気持ち悪い」

 パッと明るさを込めて放った言葉にナターシャさんがまたいちゃもんを付けてくるんだけど、もう無視しよう。いつまで経っても言わないようにはしてくれないだろう。小うるさい人って大体そう。

「魔女になる前」

 南に向かって歩いている最中にナターシャさんが口を開く。

「あなたはなにをしていたの?」

「なにもしていませんけど。ごく普通の生活を送っていました」

「……あなたが? そのサイコパスで?」

「だからサイコパスじゃないですって」

「ふーん」

 納得してない「ふーん」だったな。なんでこんなにサイコパスサイコパス言われなきゃならないんだろ。魔女の背中刺しただけでこんなにも罵られるのは困る。もし上の人に報告すらするようだったら私はナタリアさんを病院送りにしなきゃならないんだから。最重要人物であり要注意人物のこの人を刺したなんてアールさんに知られたら幻滅されるだけでなく破門されちゃう。だから堪えよう。この衝動は抑えられる。だって私はまだナタリアさんに傷付けられていないから。

「魔物の種類とか、魔女狩りのa.k.aみたいなのは書いてあった?」

「『否定的なリズム』って書いてますけど。これ普通に文章としても成立してますよね? これ別名みたいに扱うのはどうなんですか?」

「まだa.k.aが一般的になる前に使われていた名称よ。それぐらい古くから発生している魔女狩り」

「じゃぁこの『ヒテリズ』の特性も知っています?」

「なにひてりずって」

「『否定的なリズム』って長ったらしいじゃないですか。だから『ヒテリズ』で」

「僅か七音に長ったらしいってどうなの……? それで省略するの?」

 わざわざ指で数えてからナタリアは呟いた。

「世の若者は長い言葉は使わないんですよ」

「若者代表みたいなこと言ってる自覚ある?」

「私、若者ですけど」

「ならあなたは七音を長いと思うことはあるの?」

「……ない、ですけど」

「ほら。省略なんて不要じゃない」

 勝ち誇ったみたいな顔をしている。相変わらず氷みたいな冷たさを抱いてはいるけど、頬は僅かに高揚感を示している。なんで魔女狩りのa.k.aで私たちは口論してるんだろ。と言うか、ナタリアさんとはずっと口論しっ放しな勢いすらある。バッドコミュニケーションは絶賛継続中みたい。


 南に歩いて行くに連れて人の流れは段々と薄くなって、人の数も随分と減った。駅周りに主要な商業施設が集まっているとこうやって離れるだけで景色が変わる。商社ビルや高層ビル群を抜けた先では人もまばらになった。

「静かね」

「住宅街ですから」

 騒ぎ過ぎたら騒音問題で大変なことになる。なのに公園はあるのが不思議。再開発の時に公園を置くことで色々とあるんだったっけ?

「この近くで……人が怪我をしてます。怪我をした理由が分からないみたいで」

「自覚しないで怪我をする。確かに異常現象ね」

 言いつつナタリアさんは周囲をグルッと見回した。

「魔力の残滓を感じられない。怪我をしたのはやっぱり河川敷の方なのかしら」

「でしょうね」

 魔力の気配を私は追い掛けられないからナタリアさんが私を無視して披露してくれて助かってしまった。これで無能だのなんだのは言ってこないだろう。今にも言いそうな雰囲気はあるけど、言ったところでどうにもならないことをこの人は言わない。

 ナタリアさんはなにかを言いたそうにしたけど、なんなら最初の「あなた」まで出ていたけど、そこで声を抑えた。別に目論見通りに物事が行ったという爽快感はない。人の言うこと言わないことを想像して当たったぐらいで一喜一憂できる子供時代は過ぎ去ってる。


 河川敷に到着して、まずは素直に降りはせずに様子を窺う。ここ数日は雨も降っていなかったので川の流れは穏やかだけどあんまり人が歩いている感じはない。まだ正午を過ぎてちょっとしか経っていないから、下校中の学生たちがいるってわけでもなさそう。犬の散歩ぐらいはしているかなって思ったけど看板には散歩禁止のマークがある。これは後始末のマナーが出来ていなかったことでもたらされた結果っぽい。散歩してたら触りたかったのにな。


「怪我の種類って?」

「擦り傷切り傷、あとは……耳」

「耳?」

「一人だけ鼓膜が破れたとか。鼓膜って余程のことがない限り破れませんよね?」

「余程のことがあったってことでしょ」

 それは、そうだ。私は物凄く頭の悪いことを言ってしまった。

「じゃ『ヒテリズ』を探しましょうか」

「え?」

「なによ? あなたがそう略したんでしょう? 驚かないで」

 ナタリアさんはそう言って魔力の残滓を探っている。

 意外とバッドコミュニケーションだけじゃなかったんだろうか。でも、どの話題がグッドコミュニケーションだったのかは分からない。

「『ヒテリズ』の特性はその名の通り音波。大音量じゃなく、怪音波で相手の鼓膜を容易く破る。魔女は抵抗薬を飲んでいるからいきなり鼓膜が破れることはないけど、一分も聞いていたら限界でしょうね」

「じゃぁ戦える時間は一分だけってことですか?」

「いいえ、あくまでも一分間聞き続けたらって話。途中で怪音波を切ればまた一分間の猶予ができる。でも怪音波が切れている時間は最低でも一秒は欲しい」

「耳栓をしていても駄目……ですよね、どうせ」

 ナタリアさんは答えない。答えないってことは私の言ったことは正解みたい。でも一分間聞き続けなければ鼓膜が破れないのならちょっとだけ安心ではある。ただ、鼓膜が破れるだけで済むとは思ってない。でなきゃ鼓膜が破れる以外の被害者が出ていることへの理由が付かない。あくまで『ヒテリズ』の特性が怪音波ってだけで、単純な魔女狩りとしての物理的な攻撃力も持っているはず。

「怖い?」

 川沿いに続く階段を降りながらナタリアさんは聞いてくる。挑戦的、それでいて挑発的な雰囲気がある。

「そんなわけ」

 怖いわけじゃない。本音を言えば怖い。死ぬかもしれないのだから当然なはず。だけど弱音を吐けばナタリアさんは私を冷たく拒絶する。別にそれはそれで構わないはずなのに、どういうわけか私は強がってしまった。

「なら行きましょう」

 素っ気ない言葉に負けじと私はナタリアさんを追って川沿いに降りた。川の流れが奏でる音色は心地良く、ただ立っているだけでも癒やされるものがある。でも川沿いは枯れ草混じりの土を踏み締める感触があまり気持ち良くない。整備されていないのもあるけど膝ぐらいまである雑草も鬱陶しさがある。

「『ヒテリズ』をどうやれば誘い出せるのかしら」

 そんなの呟かれても答えようがない。

「力尽くで行きましょうか」

 感情の波が起きる。ナタリアさんは冷気を纏い、正面へと一気に放出する。

「ちょ! 待ってくださいよ!」

「どうして?」

 足元の地面から彼女が正面に捉えていた川の一定範囲が凍結する。

「川に棲息している生き物に万が一があったらどうするんですか」

「あなた、人が襲われているのに川の生物を気にする余裕があると思っているのかしら?」

 私の体を冷気が撫でる。

「甘ったれたこと言うと凍らせるわ」

 私はまだナタリアさんに共感してもらってないし、私自身も共感されていない。この場合、私たちの魔法は互いを実際の威力で傷付ける。

「傷付けるなら、傷付け返しますよ?」

 私のモットーは傷付けてくる者へ傷付け返すこと。制圧する意思があるのならそれに抵抗し、反抗する。だからナタリアさんの冷気に対して私は反射的にポケットに潜ませていた魔道具のナイフを右手で握り締め、いつでも刺しに行けるように準備をしていた。


 不協和音が響く。


「うるさい」

 問答無用で冷気が不協和音の方向へと放たれ、十秒も経たずに発生源が静まる。

「これ、今聞くことじゃないんですけどナタリアさんはどうして魔女になろうと思ったんですか?」

 攻撃する対象が変わったので私も不協和音がした方へと体を向ける。

「本当に今聞くことじゃないわね……私には使命があるの」

「使命?」

「ドライト家の面汚しを殺したい」

「そーですか」

 反応の悪い私にナタリアさんが顔を向けてくる。

「ならこんなところで死ねませんよね」

 えへへ、と笑ってみせる。

「バカバカしい。死ぬわけないでしょう。ええ、死ねないわ」


 死なない、死ねない、死にたくない。この感情で私たちは共感した。

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