最終防衛ライン ケセラン・ハルト⑦
戦場の中で対峙するアイリーンとイアン。
険しい顔のアイリーンに、イアンは笑いながら左手を振りかざす。
するとイアンの手元には数個の小さな火球が現れた。
「くらえ!火の弾丸」
イアンが唱えると、火球は弾丸となりアイリーンに向かい放たれる。
しかしアイリーンは避ける素振りも見せずに、手にした剣を振り上げた。
「くだらん!」
アイリーンが吐き捨てるように叫び、剣を振り下ろすと、その凄まじい剣圧で迫る火の弾丸をかき消した。
しかしその隙をつき、イアンはアイリーンの背後に回り込んだ。
「もらった!」
背後からアイリーンの首を狙い、イアンが剣を振り抜く。
だが鈍い金属音を立てて、その刃は止められた。
厚い金属で覆われた、左手甲の部分で、アイリーンがイアンの剣を受け止めていたのだ。
「甘いわ。この程度で、私を倒せるとでも思っているのか?」
強く冷めた眼差しで、アイリーンが冷たく言い放つと、イアンは息を飲んだ。
私の一撃を左手一本で?
驚愕するイアンだったが、すぐに剣を握り締め、振り上げた。
「この化け物が!」
イアンが叫び、剣を振るおうとした瞬間、アイリーンの強く冷たい視線と目が合った。
その瞬間、イアンの背中に悪寒が走る。
「貴様の剣が届くという事は、私の剣も届くのだぞ、老兵」
アイリーンは冷たく告げ、剣を振るう。
イアンの剣よりも、早く、重い、その一撃をイアンは間一髪剣で受け止めた。
その瞬間、凄まじい衝撃音と共に、イアンは背後にある、岩場まで吹き飛ばされた。
それを見たアイリーンは、笑みを浮かべながら右手をかざす。
「貴様らが手にした、かりそめの魔法と、本物の魔法の違い、その身で味わえ」
アイリーンが言い放つと、頭上は分厚い雲に覆われ、雷鳴を轟かせながら雷光がほとばしる。
『――神の怒りをその身に受けよ聖天怒雷撃』
轟音を立て巨大な雷が落ち、イアンを直撃する。
大地を砕き、辺り一面を焦がす雷の中で、イアンは尚、必死に立っていた。
「このバトルスーツ、絶縁処理が施してあると言っているだろう」
雷に耐えながら、イアンが声を絞りだす。
だがアイリーンは更に口角を釣り上げた。
「その割には辛そうだな。まぁいいだろう。今のは二割ほど。次は半分ほどの力でやってやろう」
その言葉を聞き、さすがのイアンも絶句する。
『――神の怒りをその身に受けよ聖天怒雷撃』
耳をつんざく轟音を立てて、天を裂くような巨大な雷がイアンを貫く。
絶縁処理の能力を超えた雷撃に為す術なく焼かれ、焦がされた全身から煙を上げて、イアンは地に伏していた。
「まだ原形は留めているようだな」
焼け焦げたイアンを見下し、アイリーンは冷たく呟く。
しかしイアンは再び立ち上がろうと、落ちた剣を手にし、片膝を着きながら立ち上がる。
「この程度の雷撃で私は止められぬ!託された仲間達の想い、散っていった部下達の想い、その身に受けよ、アイリーン・テイラー!」
決死の形相でイアンが大剣を振りかぶり、アイリーンに飛びかかる。
『討てよ雷神、雷神槍』
イアンの斬撃が届く寸前、アイリーンの掌より放たれた雷神槍がイアンの身体を貫いた。雷神の槍を受けたイアンはそのまま後方へと飛ばされ地面を転がる。
アイリーンは飛ばされたイアンの元へ、ゆっくりと歩みを進めて行く。
「たいした執念だな。また起き上がってこられても面倒だ。しっかりと、とどめを刺してやろう」
アイリーンは歩みを進めながら落ちていた剣を拾い、尚も立ち上がろうとするイアンの前に立ちはだかった。
「剣技なら私の方が――」
イアンが立ち上がり必死に剣を振ろうとした次の瞬間、イアンの腕が宙を舞った。剣を振り切ったアイリーンがイアンを冷たく見つめる。
「そんなボロボロの身体でほざくな。だいたい立つ事すらやっとだろう」
そう言ってアイリーンは剣の切っ先をイアンの眼前で止めてみせる。片腕を失い、それでも強気の姿勢を崩さないイアンは笑ってみせた。
「ふふふ、最早ここまでか。だが私がここで終わっても我らの想いは終わる事はない。貴様らセントラルボーデンが傲慢な態度でいる限り我々の遺志を継ぐ者達が再び貴様らに牙を剥くであろう。その時までせいぜい――」
「黙れ!」
アイリーンが苛立つようにイアンの残ったもう片方の腕も切り落とすと、最後はイアンの腹に剣を突き刺す。
「がは……」
腹に剣を刺されたまま、イアンは血を吐き地に倒れた。
「……両腕を失った貴様は剣を抜く事も出来まい。バトルスーツが絶縁処理されてようが、突き刺した剣から雷が体に流れ込み、身体の内側から焼かれ、消し炭となれ」
アイリーンが見下したかのような視線をイアンに向けた後、僅かに距離を取った。
『――神の怒りをその身に受けよ、聖天怒雷撃』
巨大な雷がイアン将軍を襲い、イアンの断末魔が響き渡った。その後焦げた不快な匂いと共に、真っ黒に焼け焦げたイアンの遺体がその場に横たわっていた。
「ふん、遺志を継ぐ者が牙を剥くか……ならばその時は再びその牙を折ってくれるわ」
アイリーンは冷笑を浮かべたまま静かにその場を去って行く。




