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62話
ワシはギルから手紙を奪い、おぞましい中身を《無限収納》へ回収した。
「おいブス!なに勝手に手紙を——ぶへっ」
ギルが掴みかかって来たが、邪魔なので張り手でぶっ飛ばしておいた。
ワシは手紙を開封し、読んだ。
内容は……想定以上に最悪じゃった。
「なんて書いてあるの!?ねぇ!ねぇってば!——レイヴァリア様!」
ヴィオラが叫ぶように、悲痛な声を上げた。
その予感はおよそ正しい。
「……子供たちが攫われた。ユリ、ミリナ、レオンの3人じゃ」
絶句する4人へ、ワシは言葉を続けた。
「手紙の主の要求は、お主らが試合で負けること。もし指示を破れば……」
誰一人言葉が出ない。
完全にワシのミスじゃった。
まさかここまでやるとは、想像だにしなかった。
人間の悪意とは、ここまで醜いものじゃったのか。
このままでは、『スノーレギンス』は負ける。
負けて、ワシとヴィオラ達4人は、『ブラッドハウンド』の言いなりになる他ない。
ワシのせいじゃ。
ワシが考えなしに、勝負を挑んだせいじゃ。
この責は甘んじて受けよう。
じゃが今ではない。
ワシはギルの方を見た。
ギルはワシに殴られた頬を抑え、驚いた顔をしておる。
「ギル。お主は帰るのじゃ」
「は?なんでブスの言うこと——」
「帰れと言ったのよ! さっさと行きなさい!」
ヴィオラがワシの意を汲み、言った。
「な、なんだよ、偉そうに! お前らなんか負けちまえ!」
ギルは悪態をつきながら去っていった。
ワシは酒屋店員のロブに顔を向け、言った。
「ロブ殿。ロギスとファルトンの特徴を教えてくれぬか?」
‡
ギル視点:
「ふざけやがって! せっかくオレ様が手紙を持ってきてやったのによ!」
赤く腫れた頬を擦りながら、ギルは歩いていた。
「……オレ様を殴ったのは、あのチビブスなのか?」
気がつくとぶっ飛んでいたので、誰がギルを殴ったのかわからない。
位置的に考えると、レイヴァリアしかいなかった。
わずか5歳の、自分の半分もない体の少女がギルを一撃で吹っ飛ばせるものなのか?
ギルはブンブンと頭を振った。
きっと、他のやつだ。
リリエットという魔術師がいたし魔法か何かだろう、きっとそうだ。
納得のいく答えに辿り着くと同時に、怒りが湧いてきた。
ロギスと名乗る双剣使いの大男かギルはこう言われていたのだ。
『手紙は『スノーレギンス』に直接渡すんだぞ? いいか? 他のやつには見られるなよ?』
なのに手紙はレイヴァリアに奪われてしまった。
ギルにとって今回の手紙を届けることは冒険者として三番目の仕事だった。
一番目の仕事――ユリ達の誘拐と、二番目の仕事は大変だったけど、なんとかやり遂げた。
それらに比べたら、手紙を渡すことなんて簡単だったはずなのに、レイヴァリアのせいで、失敗してしまったのだ。
まぁいい。
誰が手紙を受け取ったかなんて、その場にいない者に――ロギスに分かるはずがない。
このモヤモヤした気持ちは、チビブスにぶつければいい。
今度会ったときに、ぶん殴ってやろう。
そう心に決めると気分が良くなった。
だけど……とギルは思った。
手紙には『例の物』が入っていた。
手触りからして、それは間違いない。
なのに、チビブスのレイヴァリアが便箋を開けると、ギルの二番目の仕事の成果である『例の物』はなくなっていた。
『レオンの親指』は、いったいどこへ……。
「おい」
突然、真後ろから声がして、ギルは飛び跳ねた。
慌てて振り返ると――
「これより嘘を禁ず——《半神の告解》」
ギルのすぐ後ろに、レイヴァリアが立っていた。
その瞳は怪しく光って……。
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ギルの性根は想像以上に腐っておった。
「つまりお主は、ロギスとか言う黒髪の双剣持ちにそそのかされ、孤児院の仲間であるユリ、ミリナ、レオンの誘拐に手を貸した、と?」
「そうだよ! 悪いかよ!」
「悪いに決まっておろう。ユリがお主になにをした?
まだ小さなミリアが可愛そうだと思わんのか?
お主とレオンとの間に、少しでも絆がなかったのか?」
「お、オレ様は悪くねぇ!
親父が人を殺して縛り首になったからって、どうしてオレ様まで罪人扱いされなきゃいけねぇんだ!」
なるほど、ギルが乱暴を働く理由はそんなところにあったのか。
ふむ?――ものすごく、どうでもいい。
つまり、こやつは不幸な自分に酔っておるのじゃ。
一番かわいそうな自分がちやほやされないのはおかしい、もっとオレ様に同情しろ、と言っておるのじゃ。
くだらないガキじゃ。
孤児院にいる子供たちは、それぞれのっぴきならぬ事情を抱えておる。
誰が一番不幸かなんて、誰が決める?
ミリナなど、まだ3歳じゃぞ?
あんなに小さくて可愛い子が、どうして親と離れなければならぬのじゃ。
じゃが、ミリナは笑っておる。
ギルに意地悪されても、怨みにすら思っておるまい。
過去に囚われている間は、前へ進めない。
ミリナは小さいながらもそのことを理解しておるのじゃ。
前を向いて生きておるのじゃ。
それに対し、ギルはどうじゃ?
過去に囚われ、他人を恨み、他人を憎み、他人の足を引っ張る。
『自分は不幸なんだから、周りもそうなるべきだ』とでも考えておるのじゃろう。
甘えるなよ、このガキめが。
ギルは完全に有罪じゃ。
こやつ大人なら、問答無用で『例の手』を使ったじゃろう。
じゃが、ギルはまだ13歳。
一度の過ちで永続的な罰をあたえるのは、どうなのか……。
なのでワシは、テストをすることにした。
ワシの言葉におとなしく従うならば合格。
ワシからの罰は無しじゃ。
そうでないならば……。
「お主の事情など、攫われた子供たちには関係あるまい。
ワシはお主のことを憲兵に話す。
牢に入れられるかもしれんが、仕方あるまい。
そこで己の行いを反省するがよい」
ワシの言葉に、ギルが顔面蒼白となった。
なにを驚いておるのじゃ?
当然の結果であろう。
ワシはギルに背を向け、歩き始めた。
一歩、二歩、三歩——
「お前が……お前さえいなきゃいいんだよ! 死ね、ブス!」
ギルが隠し持っていたナイフを振りかぶると、ワシの背に振り下ろした。
やはり、そうなるか。
ワシは背を向けたまま、ナイフを持つ腕を掴み、少しだけ力を込めてギルの体を持ち上げると、殺さない程度の勢いで地面に叩きつけた。
「ぐはっ!」
苦悶の表情となったギルは、パクパクと口だけを動かし、顔色がどんどん青くなっていく。
「お主がここまでクズだとはな。——《転移》」
ワシとギルは誰も邪魔が入らない場所へ移動した。




