鏡の中の偽りのリュウ
リュウは怒りを孕んだまま、その事実を知ることはなかった。
救いは風となり、嵐となり、やがてその闇の中枢に佇む、魔法の鏡へと流れていった。
この世界は永遠にその場所に留まり続け、リュウという幻は今もその闇と共にいる。
写し出す全てを見て欲しい。その姿が何を映し、己がなんだったのか。
彼がリュウと名乗ることも、リュウだったとしても、この世界のリュウであるだけで、外をには別の存在がいる。
アグリア・ゼルデンはその囲いの中にいるコピー達を人形として自由に生きるように伝えた。自分のコピーもその鏡の中で生き続けるように。生きていて欲しいと願った。
彼の魔力を吸い取る魔法の鏡という凶器は、魔法戦争の中で生まれ、最初で最後の遺物となった。あまりの恐ろしい力は、ゼノロワの半分の命を吸い取った。魔法が吸い取られ、しばらくの活動の後、魔法の鏡は意図が切れたように動かなくなった。
内部のコピー体はうごめき続けている。自分を知らず、外を知らず。
リュウはその怒りを燃やし続け、いつしか、時が止まった。
彼は、また別の何者かになった。
永遠は永遠でしかない。終りなどなく、始まりすらなかった。
嘆きはない。
知らないのだから。
知る理由もない。
いずれ知ったとして、また同じように記憶が消え、別のコピーとして生きる。
流れていく。流されていく。止まらない。
魔法の鏡は、はじめからそのために造られた。
コピーをつくるため。しかし、それを取り出すはずの人間を、真っ先に吸い取られ死亡させたことが、ゼノロワが滅びていく理由になったのだ。
愚かで、それこそ人間らしく。コピーは知らない。
人間を模した人形が、そのくだらない世界から逃げ出すことなどできない。
哀れで、可愛げがあり、その上人の為に憎み怒る。
人間らしさはあっても、人間になれず、それが人形である所以。
「知らない?知らない。誰かが、呼んでいる。どうして、ここは閉じられた・・・。」
幾度も辿り着く答えをみて、愕然とし、己の運命を知る。
争うために生まれてしまった魔法の鏡。
争いは鏡の行いが許せず、いつしか争いすら止まった。命の尊さをその姿が教えた。
幻零夢鷹は、争いを止め、世界の秩序を語り、諭した。人が生み出す命の奪い合いは、兵器一つで、本来であれば、死者を新たなパートナーとして共に歩むことが出来る。
兵器は人の判断一つで、新たな遊具になる。新たな人のための道具にできる。
その後、幻零夢鷹は、魔法の鏡を教訓として、新たな未来の為に、己の力と、友の力を用いて、起動することに成功する。
未来の為に、そして、この鏡の中で、苦しみあえぐ者達のために、コピーに自我を与え、人になるための意識と意思をつくった。そこに、コピーという意識が消えたとき、彼らは鏡の中の檻からようやく出られるのだ。
リュウはまだ知らない。怒りを孕む彼が遠い遠い先で、自分の名前をもらい、自分の意思を理解する。
途方もないないことだった。それをやり遂げるために、生きとし生けるものたちは、出来ることを、人形にない、優しさと勇気と、愛と、真心を使い、なし得るのだ。
人が作り出した破壊の塊は、いつしか、人と人とが手を取り合い、一つの心が作り出す奇跡という塊になり得る。
リュウは今、その手が伸びてくるのを待っている。
鏡の中の偽りのリュウ おわり




