気持ちと心地
リュウは人の姿となって、初めて町に辿り着いた。そこに人が住んでいた形跡を見つけた。だれもいない町。
「・・・。」
崩れかけた家、荒れ果てた畑、土にまみれた食器。地面に書かれた『HELP』。救援の文字。
閉ざされた、ゼノロワの王国。人も人造人間もいない。呪いが蔓延した世界。
「ここが・・・、俺の生まれた国。」
リュウが、消えかけた言葉を呟いた。
当時の面影がかしこに見つけられる。近くに城があったと、思いだし、当時の記憶を振り返りながら歩みを進めた。
昔のゼノロワの王都は、花が咲き誇り、絵画や銅像がいくつも飾られていた。美しい姫君が描かれた絵画には必ず、小さな犬も書き添えられていた。
リュウが辿り着いた城は、おおよそ城とは言えない、何かが出てきそうな巨大な要塞だった。橋がかけられ、道にひびが入り、城に入ることが容易ではない。ところどころには巨大な穴が開いていた。
「城は・・・。いつ、城ではないものになったんだ?」
リュウが知っているものは、もう、なくなっていた。その要塞に入るためには、リュウだけでは無理だった。
「何故だ・・・?何故・・・。」
リュウの独り言は風に乗って消えた。
大昔に、リュウを助けるために手紙が送られた。その手紙はリュウに届けられる時が来た。まるで、リュウの悲しみに暮れた言葉を待っていたかのように、手紙は、不意に、風に乗ってやってきた。
光の粒が風をおこし、リュウを包むように舞い、リュウの前に、一人の男の形を象った。古木霊王。リュウを救うために手紙を送ったものの一人。
「古木霊王様?」
彼はいっそう、輝きを放った。手紙は彼の意思であり、龍神族を守る古き存在。
光が増し、リュウの手の中に、何かを受け渡した。彼は、そのまま消えた。あたりは一瞬の光を散らし、一層、暗くおもくなる。
リュウが手の中に受け渡されたものを見て、小さく、微笑んだ。それは、弟がくれた宝物だった。海のドラゴンになった証。
『海竜の瞬き』と呼ばれる海の結晶。リュウが手に入れたのは、海の力だ。
光が瞬き、リュウを包む。次なる贈り物が届けられた。それは『こびとの霊木』。温かい緑と山の息吹を感じた。リュウに送られた『手紙』はいくつもあった。それはすべて、リュウが行った、『行い』に感謝する手紙だった。
リュウは、この地の呪いの解き方を理解した。この地にある呪いは黒の一族と自分、そして姉であるフィーブルタンが来たときに、呪いが解かれる。
「俺がもらったこの『手紙』と黒の一族の『真実』。そして、ヲードである姉さんが揃う時を、この世界は待っていたのか。」
リュウは、暗雲が渦巻いている空を見上げた。雷鳴がいつ響いてもおかしくはない。
「俺はここで待っている。」
リュウはたった今もらった、多くの手紙を胸に抱いて、密やかに微笑んだ。自分はただ待つだけ。この世界が終わらないように、全力の力で、世界を開いた。
リュウが持つ力が、一瞬で解き放たれた。龍神族の持つ光が放たれた瞬間、雷ですら外へ外へと逃げ、青と緑の光が競うように外へと世界が開くように押した。ドラゴンが、咆吼し、世界の入り口を押し開ける。
待ち人を待つために、リュウはドラゴンへと戻った。巨大な力が、彼を押し戻そうとする。拮抗する力で、リュウが世界を開き、己の魂を削った。
リュウはとても心地よく清々しいとさえ、感じていた。彼が受け取った手紙が彼の迷いを消した。彼の憂いを消し、長らく閉ざしていた感情を吹き出させた。リュウが弟の感情を受け取ったその瞬間、リュウが山の神の感情を受け立った瞬間、こびとたちの想いもなにもかも、彼が今まで閉ざしていたただ一つの想いに辿り着かせた。
彼は、生きる喜びを思い出した。ずっと、悲しみに暮れていたのに、彼は前を向く意味を思い出した。彼は自由だと、思い出したのだ。誰にも縛られず、苦しみすら快感だった。彼は、自由なドラゴン。それを忘れさせた理由と原因。
『アグリア・ゼルデン』
呪いを造り出し、神と豪語した、いにしえの人間。今もまだ、呪いは世界に散布されている。リテインを欲し、今もどこかで生きている。
「愚かな人間を倒し忘れていたのか・・・!!!」
リュウがもう一度咆吼した。世界が青と緑の閃光に満ち満ちている。
リュウは手紙を送った。世界の呪いを解くために。




