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04.恋愛初心者卒業の小話

シルと相思相愛になってからの俺はそれはもうミリガン、あのフォンにまでドン引きされるぐらい毎日機嫌がよかった。

前と変わらず三日に一度は必ず会えるし、シルは積極的に好意を伝えてきてくれる。

前のシルも勿論大好きだし可愛いと思ってたいけど、今のシルは生き生きと輝いているように見える。

それも全て俺が好きだから。

そう実感するたび口角が上がるのが止まらず、仕事に集中できない日々が続いた。

でも今だけは真面目にしないといけない!

シルが成人式を終え、その二年後に結婚式を行うことになっている。そして晴れて邪魔な兄共もいない帝国東部の土地、トラキア領へと帰れる!

まだ荒れた地が残っているものの、シルが暮らすトラキア城周辺だけは徹底的に浄化させ、緑豊かな土地へと変えた。

その様子を見て少しだけ人は増え、神聖国からも商人がやって来る。

もっと時が過ぎれば、帝国と神聖国を繋げる大事な中継地点の街として有名になり、きっとシルも喜ぶ。

まだまだ問題は残っているが、シルが暮らすトラキア城だけは完璧に整いつつあった。


「寒い日が続きますね。帝都の雪景色も好きですが、お花が咲き乱れる春も楽しみです」


秋も終わり、冬の中盤のある日。

今日も三日に一度の茶会で天使の微笑みを浮かべるシル。

春を待ち侘びる彼女は本当に楽しそうに様々な花の話を続け、俺はそれをただ聞いては頷く。

花に興味はないけどシルはどんな花が好きなのか、どんな花を見て心躍るのかしっかり聞き取り、さらに詳しく質問すると楽しそうに答えてくれる。

このまま時が止まってしまえばいいと思うのはこれで何回目だろうか。

とにかく幸せに満ち溢れすぎて実は自分は既に死んで、天国にいるのではないかと錯覚する。


「春になるとようやくシルも成人になれるしな」

「はい。ようやく大人の仲間入りですっ」


シルほど真面目で勉強家な人間を見たことがない。

ここ最近ずっとマナーやダンス、その他諸々の習い事の間に身体を鍛えたり、魔法学などを学んだりととにかく忙しい日々を送っている。

特に大公妃になるため、淑女としての勉強には力を入れていた。

そんなことしなくても完璧なのに…。

そう思うけど彼女の意欲を削ぎたくないので、適度に休憩するよう伝えては見守っている。

そんな彼女を見るから俺も頑張れる。

なにせシルと結婚したら皇籍から抜け、第二騎士団団長も辞めてトラキア大公として生きることを決めているからだ。

帝国は兄上とロキがいるからどうとでもなる。まぁ多少の協力なら惜しまないが。

但し優先事項はシルが暮らすトラキアを平和に納め、緑豊かな土地に変えることだ。

その為には第二騎士団団長の肩書きなんて邪魔でしかない。ミリガンに押し付ける為にも今から粛々と準備を進めている。


「それで、成人式のドレスの件ですが…。前に言ったように本当にアレス様に全てお任せして大丈夫でしたでしょうか?」

「完璧に準備できている」

「できれば普通のドレスにして頂けると嬉しいのですが…」

「シルに似合うドレスだから大丈夫。それに兄二人からも許可が貰えたし安心して」

「そうでしたか」


成人式はシルの社交界デビューの大事な日。主役の日だ。

嫌だけど兄二人に相談したし、ちゃんと許可も貰えた。

シルのため。って言えばあの二人も渋々ながらも納得してくれたから問題ない。


「アレス様は第二騎士団の礼装でしたよね?」

「いや、それは止めた」

「え? どうしてですか?」

「主役のアクセサリーが騎士団の恰好だなんて似合わないだろ? だから皇族としてエスコートしようと思っている」


成人式では必ず誰かが主役をエスコートして入場しなければならない。

婚約者がいるなら婚約者になるが、いない場合は親族がするようになっている。

その大事な式で隣に立つんだ。第二騎士団の礼装なんてシルのアクセサリーにもならない。

だから皇族としてシルの横に並んで、彼女を引き立てたい。

皇族としてエスコートすればシルが誰のものか解るし、手を出そうとしたり喧嘩を売るような連中を消し去っておきたい。俺達につけ入る隙間はないと伝えたい。


「そ、それは…。楽しみですけどさらに緊張してしまそうです…」

「俺のことはアクセサリーだと思っていいから緊張しないで」

「こんな素敵な方をアクセサリーだなんて思えませんよ…」


見たかこの褒め上手。

絶対に照れて言い辛いはずなのに、ちゃんと俺に好意を伝えてくれる。

真っ赤な顔も可愛い。両手で頬を抑えているのも可愛い。言ったあと気まずそうに目を泳がすのも可愛い。

こんな姿を見たらどんどん胸が苦しくなって、「先」を望みたくなる。


「シル。俺達南部領の頃から仲良くなったよな?」

「え? ええ、私はそう思っています」

「手も繋ぐし、色んなことも話した。街に行ってたくさん遊んだりもしたっけ」

「そうですね。南部領に転移できるようにしてくださったのもあって、前に贈って頂いたカルラクールで最高の景色を見ることができました」

「その分シルからたくさんの愛情も貰えて、俺の人生は今一番幸福に満ちている」

「…っれは、私もです…」

「だからそろそろ恋愛初心者を卒業したいと思ってるんだけど、どう?」

「卒業ですか…?」


こてんと首を傾げて何かを考えている。

そろそろ成人式を迎えるし、俺としてはもうちょっと先に進みたい。

シルは真面目だから婚前交渉なんて絶対にできないけど、少しだけでいいから進みたい!って言うかキスしたい!


「……」

「ダメ?」


この反応はどっちだ!?

ああっ、シルから許可を得るときに襲われるこの緊張感はいつになっても慣れない!


「ですがそれは……。えっと、まだ成人式すら迎えていませんし…」

「(それ? シルも何するか解ってる? この様子だといけるか!?)二人っきりのときにしかしないし、それ以上は絶対にしないと約束する」

「それでもまだ恥ずかしくて…」

「大丈夫。それに恋人になったら皆してる。シルは初心者を卒業したくない?」


それはもういつになく必死でシルを丸め込もうと説得をし続ける。

段々とシルの顔が赤く染まってきて、また両手をギュッと握り締めて上目遣いで見つめて来る。

だからもうその仕草止めてくれ、浄化される!可愛いから許すけど!


「……ふ、二人きりの時だけ…とお約束頂けますか…?」

「ッ絶対に!」

「お兄様達にも内緒にしてもらえますか…?」

「確実にバレないようにする!」

「では…」


許可貰えた!

と喜んだ瞬間、ソファから立ち上がりトコトコと俺に近づいて隣に座る。

え、なに…?シルがしてくれんの…?

ソファが沈む感覚に思わず肩が飛び跳ねる。自分から言い出したことだが、まさかシルからしてくれるなんて思っていなくて身体が強張った。


「失礼します」

「―――あ…?」

「次はハグですよね」


そっと寄り掛かる程度に俺に寄り添い、真っ赤な顔のままボソリと呟く。

俺が思っていた展開じゃない…!嬉しいんだけど違うよシル…。


「前にアレス様に抱きしめて頂いてから…。その、とても安心すると言いますか…!」

「…」

「アレス様? 間違っていましたか? もしかして少し早すぎましたか?」

「……―――いいや、間違ってない。俺もシルを抱き締めたかったからできてよかった」

「っでは恋愛初心者卒業ですね!」

「うん…そうだな…」


片手でシルを抱きつつ、もう片方の手でシルにバレないよう煩悩で痛む頭を抱える。

純粋な子相手に俺が間違った。次は素直にキスしたいと伝えよう。うん、シルは悪くない。俺が全部悪い。

正直ガッカリしたとは言え、自ら抱き着いてきてくれたシルは愛しいので潰さないよう気を付け抱き締め返した。

はぁ…。とりあえず成人式まではここまでか…。

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