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17.仲

アレス様と出会って二か月が過ぎようとしていた。

あれから毎日の一輪の花と一言添えた手紙を貰い、三日に一度顔を合わせる日々を続けている。

宝石やドレスはさすがにもう置けるスペースがないので丁寧にお断りさせて頂いたが、アレス様はあまり納得していない。

三日に一度程度だけど私の力によって心身ともに健康的でいられることに対するお礼だと何度も言うが、着る機会がない。

たまに観劇に見に行くときに着飾ったりするけど、本当にそれ以外は着ない。

元々シンプルで動きやすいドレスが好きなのもあるし、私はまだ成人式を迎えていない未成年だから社交界に出ることもない。

勿体ないから止めてと何度も何度もお願いしてようやく今の形に落ち着いた。

そして今まで喋ることはおろか、出会うこともなかったアレス様は私をとても優しく扱ってくれる。

冷酷だ。と言われていた噂とは違い、いつも優しく丁寧で表情も声色も柔らかい。

会えば笑顔を向け、手を握ると幸せそうな顔になる。

たまに年上の魅力というか、色気?でジッと見つめられると照れ臭くなってしまうけど、なかなか順調な関係を築いている。

契約魔法がかかった婚約指輪もあるし、私も変なことをしなければ本のように殺されるとは思わない。

できればこのまま幸せに暮らしていけたらいいなぁ。

その夢を確実にするため、昔に読んだはずの本を探し続けている。

タイトルは覚えていないし、かなり昔に読んだものだから手がかりは少なくまだ見つかっていないけど、いつかは見つけたい。

ただこの国の皇太子や大公殿下の名前を使った名前の本なんて存在するのか疑問が残る…。

だからと言って私の妄想、夢。で終わらせるにしては生々しい。


「シル、鍛錬中に考え事はよくねぇぞ」

「ぐっ!」


今日は三日に一度の顔合わせ。

二人で帝都から少し離れた街で行われるお祭りに行く予定だが、その前に日課の朝の鍛錬を行っている。

相手はテュールお兄様。お父様やセティお兄様に比べてまだまだ未熟らしけど、私からしたらとんでもない人だ。

ここ最近力も強くなり、鋭い攻撃に剣で受け止めると腕がジン…と痛み、眉をしかめる。

お兄様の攻撃をかわす、受けるだけで息が切れてしまうのにお兄様は平然とした顔で攻撃する手を止めない。

確かに男女で体力に差があるのは仕方ないにしても差が開きすぎた。


「はい、今日も俺の勝ちー」

「また負けた…」


昔はそれなりに対抗できたけど今はもう何をしても無駄。

剣を弾かれ、尻餅をついた私に剣先を向けて余裕の笑みを浮かべるお兄様。

悔しいけど仕方ない。まだまだ鍛錬が足りないようだから今度セティお兄様に鍛えてもらおう。


「ッシル! 俺の後ろに!」

「お兄様!」


荒れた息を整えていると突然背筋がゾクリと震え上がった。

鋭い殺気にいち早く気が付いたお兄様が私を背中に隠し、先程まで私に向けていた剣先を殺気がするほうへと向ける。

ここは私達家族しか使わない訓練場だから誰も入って来れないはずなのに…。

身体が固まって動けないけど、頭だけは動かそうとする。


「あれ…? アレス様?」


お兄様の背中から顔を出して相手を探すと見慣れた人が立っていた。

名前を呼ぶと感じていた殺気はなくなり、呼吸もしやすくなった。


「テメェ…」

「お兄様」


二か月経っても家族はアレス様に冷たい。特にテュールお兄様は年齢が一緒なせいか余計冷たく当たっている。

粗暴な口調で話しかける許可はもらったらしいが、聞いてるこっちからすると心臓に悪い。


「おはよう、シル」

「おはようございます…。まだ時間には早いように思えますが…」

「祭りが楽しみで早く来てしまいました。侍女からはこちらで鍛錬をしていると聞いてやって来たのですが…」


アレス様は優しい。

だけどたまにその優しい口調で冷たい雰囲気を放つ。それは機嫌が悪いときだ。

前はセティお兄様に買ってもらったドレスを着てお会いした際、今のように笑顔なのに圧を放ってくる。


「俺が贈ったドレスだけを着てほしい」


そういわれたから怒っていた理由は解ったけど、今は解らない…。

訓練服はこの騎士団のものだし、アレス様から訓練服は頂いていない。

ゆっくり近づいてくる間に彼を怒らせてしまった理由を考えるけど何も思いつかなかった。


「ここでそんな殺気放つんじゃねぇよ!」

「すみません、シルが殺されるのかと思って」

「大事な妹を殺すわけねぇだろ! しかもただの訓練で!」

「ああ、テュールだとは気づかなかった。シル、大丈夫?」


私が危ないと思ったから殺気を放っただけでしたか。

差し伸べられた手を掴み立ち上がると、身体についた土を軽く叩いてくれる。

優しいんだけど少し恥ずかしい。子供扱いされている気もするし止めてほしい。


「気安く身体に触れんな」

「汚れたシルも魅力的だけど、いつものように綺麗なシルが一番好きだからつい」

「いやもうお前ほんっと気持ち悪い! 何で会うたび口説くんだよ!」

「不思議なこと言いますね。シルが俺の婚約者で、愛する人だからですよ」

「胡散くせぇ笑顔で言っても信じられるか! しかも毎年俺と一緒に行くはずだったお祭りに何でっ…」

「婚約者ですから」

「シル、今日こそ婚約破棄しよう。見ろよあの胡散くせぇ笑顔! 騙されるなって!」

「あのお兄様…」

「しかも護衛をつけず二人とかありえねぇだろ! シル、今年も危ないから俺とうちの騎士団とで行こう」

「俺がついているから大丈夫ですよ。一応これでも剣も魔法も帝国一ですし」

「お前が一番危ねぇんだろうが! 今の殺気にしてもそうだし、帝国では英雄って言われてるけど敵国からしたら大金かけられた賞金首だろ!」

「えッ!?」

「それでも大丈夫です。絶対にやられません。シルに傷一つどころか髪の毛一本くれてたまるか」

「当たり前なこと言うな! なんかあったらお前は死んでいいからシルは絶対に守れ!」

「はい、喜んで」


何だかんだ仲良しなんだよね。

怒りながらも最後には許してくれたテュールお兄様と、満面の笑みで死ねと言われて喜ぶアレス様。

喜んで死んでほしくない。それに私だってお兄様達には負けるけどそれなりに抵抗できるだけの技は持っている。

信頼されていないわけでもないけど、ちょっと寂しい…。


「今日のお祭りが楽しみで早く来すぎてしまいました。お邪魔でしたか?」

「いえ…。早くお会いできて光栄です」

「その顔やめろ! 気持ち悪い!」


もしかしたら私よりお兄様のほうがアレス様と仲良しなのかもしれない。







「普段は気品に溢れているのに今日は可愛さが増してるね」

「ありがとうございます?」


お祭りに出かけるということで今日は貴族の娘だとバレないように変装をすることにした。

アレス様が用意してくれた平民の服は見た目はシンプルなパンツとシャツにリボンネクタイ。そして外套だけ。

でも着てみて解ったのだけど、着心地がとてもいい。

毎年着ている変装用の服は少し小さかったので新しいのを頼もうとしたら、これすらもアレス様が用意してくれた。今日しか着ない服だからなんでもいいと言ったのに…。

解る人が触ったり、見たら高級品だってバレるのでは?とは思ったけど、外套があるからなんとかなると思いたい。

反対にアレス様はボロボロになった傭兵の装備を見にまとっている。


「剣傷もついてますね」

「野盗退治に使う装備です」

「……軽装ですね」

「所詮野盗ですからね」


丹念に私を眺め満足したのか、外套を羽織らせ首元のボタンをしっかり留めてくれる。

私のお世話をしてくれる侍女リサがアレス様を睨んでいるように見えたけど、全く意に介しておらず終始楽しそうだ。


「シルの可愛さと気品さは隠せませんから、何か言われたら田舎から出てきた領主の娘ということにしておきましょう」

「アレス様はその護衛騎士ですか?」

「勿論です。今日の俺はシルを守りつつ、一緒にお祭りを楽しむことですから」

「アレス様はお祭り初めてですよね? 私がしっかりご案内致します」


特に名前なんてないお祭りだけど毎年この時期になると街全体でお祭りを盛り上げてくれる。

ずっと前からテュールお兄様と遊びに行っているお祭りだからそれなりに知り尽くしている。アレス様にも是非楽しんでもらいたい!


「あとは一応髪の色を変えるだけですね。帝都付近では黒髪は目立つので茶色にでもしましょうか」


髪の毛をいじりつつ、魔法薬品で髪の色を変えようとすると手首を掴まれた。

痛くはないけど驚いて顔をあげると、さっきとは正反対の険しい表情をしていた。


「駄目だ」

「え?」

「シルの髪の色さえ俺のものだから薬品で変えるのは駄目」

「ではこのままで?」

「魔法で変えてもいいですが外套がありますしそのままで行きましょう」

「解りました」


まぁ確かに外套があるから大丈夫かな。アレス様も髪の色変えるの嫌がっているし。


「お嬢様そろそろ」

「そうだね。アレス様行きましょう」

「はい」

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