下
………………………………私が………
…私が、私、そのものが、私、自身が
冬の魔女
病
呪い
全身から力が抜けていくのを感じた。
…………ああ、そんなこと…。
そんなこと……
私が生きていることで、ずっとみんなは苦しんできたんだ。
私が、みんなを苦しめてきていた。
私が病だった、呪いだった。
ああ、これほどの絶望なんて。
私は…そう。
一人で死ぬこともできないんだ。
シンに…馬鹿だけど、優しいシンに、私を殺させなければならないんだ…………
なんて残酷な………………
自分で死ぬことも、できない…!
いいえ…
ううん。
違う…!
死にたくなんてない。
ずっとみんなと一緒に居たい。
シンと喧嘩したり、冬の女王様の御世話をしたり時には怒られたり誉めてもらったり慰めてもらったり…
メイド仲間と一緒にご飯を食べたり、裁縫をしたり、お風呂に入ったり、馬鹿なことしたり
メイド長に怒られちゃったり…。
まだまだしたいことなんて、たくさんあった…!
他の女王様ともっと話したいことも、したいこともあったし…。
いつかは、両親にも会ってみたかった…
兄弟が居たんなら、会ってみたかった…、話してみたかった。
聞いてみたかった…、どうして私を棄てたのって………愛してくれていたの…って
…………冬の女王様は、私にアイの名をくれたけど、愛していてくれたの…?
本当は、疎ましかった…?
憎かった……?
それとも、ちょっとだけでも愛していてくれた…?
嗚呼、だとしたなら、死んでも良いかな。
バタン!
「アイ!」
「冬の女王様………」
勢いよく鳴ったドアの音ともに、冬の女王様が現れた。
遅れて、シンや春の女王様も。
「…!
読んだのか…?!」
冬の女王様は、私が持っている手紙を見て酷く悲しそうな顔をした。
悲しまないで…女王様。
「女王様…、私、死んでも良いですよ」
初めから、親からも棄てられた命。
ああ…、冬の魔女だから棄てられたのかな。
そっか…そういうことか…。
なんだ。
なーんだ…。
…………なんだ…
「アイ…!」
冬の女王様が本当に悲しそうな顔をして、私を抱き締めるもんだから、私も貰い泣きしてしまった。
もう、良いですよ。女王様。
初めから、要らなかった命なんです。
この世に不幸しか生まない命だったんです……………
…それなら
「どうして……、どうして私は生まれたんですか…?!
どうして、棄てるくらいなら、産んだりしたんですか…?!
要らないなら…生まないでください……!!!」
生まれなければ、こんな思いはしなくたって済んだのに。
私なんて、生まれなければ良かった…!
生まれたくなんてなかった…!
人を不幸にして、人にこんな悲しい顔をさせて、人に殺させなければならない命なんて…!!!
私なんて!!!!!!
「すまない…すまない……!
私なんだ……私がすべて悪いんだ…!」
女王様………?
………………
………………………
……………………………ああ…、ああ……、そっか、そっか。
だから、冬の魔女なんだ。
だから、シンじゃないといけないんだ…。
そうだね。
少し考えればわかることだったよ…
私たち3人とも、銀色だ…!
「……私、愛されていたでしょうか」
私がそういうと、冬の女王様は一層、私のことを抱き締めた。
少し苦しいくらいだ。
「当たり前だ…!
私だって、シンだって、春だって…!」
嗚呼、愛されていたんですね。
なんと言うことでしょう。
冬の魔女は、愛されていたんです。
世界に厄災しか起こすことのできない冬の魔女は。
世界の呪いでしかない冬の魔女は。
たった二人の家族も笑顔にできないアイは。
愛されていたのでした…。
これほどまでに幸せなことはあるのでしょうか。
「お母さん…?
お兄ちゃん…?」
私は、冬の女王様の…母の腕から離れて、二人を見つめた。
シンはいつの間にか情けなくも泣いていた。
双子だったみたいだね。
だけど、弟って感じは…しないなぁ…。
「ああ…!
すまない…!」
冬の女王様もシンと同じような顔で泣いてしまっていた。
私は何だか微笑ましく思えてきてしまった。
「ありがとう。大好き。殺して。」
私は二人の家族に微笑んでそう言った。
「お母さんお母さん!」
幼い少女は、大きな本を抱えながら大好きな母の元へ走った。
「なぁに、メグ」
メグと呼ばれた少女は、満面の笑みで母にその本を見せた。
「これ読んで!」
その本を受け取った母は少し目を見開いてから、目を細めた。
「まあ、懐かしい…」
「お母さんも読んでもらったの…!」
期待を込めた視線を向けた少女に、母は微笑んだ。
少女に自分の膝にのせるように促すと、少女は、嬉しそうに母の膝に収まった。
「そうねぇ、メグだけには教えてあげる」
「え!
なになに?!」
ナイショ話に、少女は、興奮気味に母に振り返った。
「入るぞ」
唐突に現れた男性に、二人は驚くことなく振り向いた。
「おじちゃん!」
その姿を確認すると少女は、嬉しそうに笑った。
一方、おじちゃんと言われた男性は微妙に落ち込んだ。
「俺もうそんな歳か…?!」
「おじちゃんは、英雄なのよ」
そうして落ち込んでいる男性を横目に、母は娘にそう教えた。
「ええええ?!
そうなの?!」
「そうよ~」
「お、おいおい」
止めようとする男性を尻目に、母は少女の耳に言葉を落とした。
『お母さんは冬の魔女なのよ』
車椅子に乗った母は、茶目っ気たっぷりに自分の愛娘にそっと教えた。




