魔導具
腰に手を当てて、薄い胸を張ってドヤ顔のニクスであったが、なんらかの成果を誇らしげに見せる子供のようで微笑ましく思われていた。
「……これが、さっきのジャガ芋?とやらから作られているのか?」
セプテムが尋ねた。
「え?あ!うん、そうだよ。皮を剥いて食べやすいようにカットした後に油で揚げたものさ」
錬金術により、過程を省略したため、伝わっていなかったのだった。
「非常に美味だった。こんなモノが伝わっていないのはもったいない限りだ」
皿に残ったソースをもの惜し気ににらむセプテムであった。
「あー、芽の部分に毒があるし、余り広まってないみたいなんだよね」
プレイヤーたちなら喜んで食べるはずである。それにも関わらず不評だったのはなぜか、知るよしもなかった。
「これをどれだけ融通してもらえるのか?」
という質問にニクスは非常に困る事になる。どれだけ渡せばいいのかわからないのだ。農地に植える分を残して全部あげてしまっても構わないが、それで全然足りなかったら恥ずかしいではないか。それに在庫が全くないというのも不安という貧乏性でもある。
「……うーん、1000DB?」
自信なさ気に疑問形で尋ねたニクスはセプテムの困ったような表情を見てしまう。
「3000!はらでてるさんに3000DB!」
某クイズ番組のように言うも、それでいて尚、セプテムの表情は暗かった。
「分かった、5000DB、持ってけちくしょー」
それはニクスの渡せる最大量に他ならなかった。
「いや、そうではなく“DB“とはなんだ?話の文脈から単位だとは思うが……」
「え?」
それは単なるすれ違いであった。
ニクスはまたどこからともなく直方体状の物体を取り出した。ニクスの胸の当たりの高さで、横長に溝がついている。
何もないように見えたが、ニクスが持ち手になっているところを掴み引くと、中央から下部がガコンと開き、中が空洞になっていた。
これまたどこからともなく取り出した木の端材をほうり込み蓋を閉じる。横にある赤い水晶部分に手を翳すと水晶が緑色に光り、パシュっと音がして上端中央の溝から板が飛び出した。白い湯気が上る。
「?」
セプテムがキョトンとしていると、ニクスはその板を掴みセプテムに手渡す。
「これは、紙か?」
口角をニィっと上げたニクスは“板“をセプテムから取り返すといじり回す。板は所々切れ線が入っているようでその形を変えていく。
「これ、段ボールって言ってね、こうやってこうっと」
ニクスの手の中には箱があった。セプテムが知るよしもないが、みかんのイメージキャラクターがサムズアップして“まぁな!“と書かれているのは割と有名なみかんブランドのもので、少し郷愁にかられてしまう。
「段ボールの箱で段ボール箱。一個一個じゃなくて一箱の単位を“DB“って言ってる」
かつてとあるイベントで手に入れたアイテム、“無限段箱“。木材と魔力を消費して段ボール箱を作成する魔導具だ。弾箱ではない。3種類程ではあるが大きさの変更も可能だ。
「……折り畳めば持ち運びしやすく、燃やして処分も簡単だ。現地で土を入れれば土嚢として積み上げるのも容易か?」
と何かを健闘していたセプテム。ハッと正気に戻って、
「つまり、この箱で5000個分ということか?」
ムググ、と表情を歪めたニクス。勘違いしていたとは言え言ってしまったのを覆すのは恥ずかしく、
「そうだ、それでどれだけ猶予はもらえる?」
意地を張ってそう言ったのだった。
「……3日。3日だけ待とう。」
それは対価としては決して多くはなかったが、
「上等!」
ニクスは不敵に笑った。




