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ルリネイア

「貴方が真人のニクス様!?罰は後ほど何なりと。但し、その前に姫様の状況を説明してください」


 ルリはニクスの瞳の輝きに気づき、その場で平伏し、後半は鋭い目で見返しながら言った。


 そんな大層な立場じゃないんだけどなぁ。

ニクスは内心冷や汗をかいていた。ちょっといろいろやり過ぎたかなーあははー、と半ば現実放棄気味であった。


「ああ、うん。罰とかそういうのはいいから。それが貴方の御役目でしょう?むしろ褒めてあげたいくらい。で、フローレアの体調のことだけど」


 ルリの表情は真剣なままである。


「フローレアは活性状態にあるだけだよ。多分昨日眠るのが遅かったのかな?ちょっと時間が延びてるみたいだ」


「申し訳ありません、活性状態とはどのようなものでしょうか?」


 表情を変えはしないものの、声には少し困惑が混じった。


「ああ、うん言葉通りなんだけど……簡単に言えば、フローレアの体を再構築して、最もバランスのいい身体を構成してる」


 話の内容を理解するにつれてルリの表情が青くなっていく。


「それはまさか…、えり、エリクシルを使うような事態に陥ったということですか!?」


 スタットの捕縛後の様子を見ていればそんなことがないのはわかるはずであったが、ルリは表情を取り繕えないほど狼狽し、それを見たニクスも狼狽した。


「お、おちちゅけ!(・・・・・)」


 二人の間に沈黙が満ち、くすりと笑って息を吐いたことで落ち着いた。


「コホン、フローレアの身に何か不都合があったわけではない。ただ茶会をするのに相応しい飲み物がなくてな」


「は、はぁー?」


 今度こそルリは表情を保てず驚いた。


「エリクシルって“霊薬エリクシル“ですよね?そ、それをお茶の代わりに……」


 まぁ、霊薬エリクシルの価値が高騰も高騰したのだから当たり前の反応だった。


「最も本物じゃあない」


「そ、そうですよね」


 明らかにホッとするルリ。


 「Mk2」


 「え?」


 「だから、本物は苦くて飲みづらいから私が改良したVer私ってところかな」


 「えぇえー!?」


 最早余裕のないルリの表情はコロコロと変わる。表情を固めていた時よりかわいいな、と空気を読んでいないニクス。


「やっぱり女王様が傷だらけってのは困るでしょ。いつか王配だっけ?も迎えないといけないわけだしってのが建前。本音を言えばやっぱり女の子は綺麗でいるのが1番でしょ?体に自身があれば精神的にも輝くものだからね」


「……本当に?」


 “姫様のお身体は元に戻るのですか?“


ポロポロと雫が伝うルリの言葉は後半形にならなかった。

だが、言いたいことは伝わった。


      「ならない!」


 だからニクスの答えにルリは大きく目を見開いた。


「元とは違う。これまでのどの時より綺麗になる。王国初めての女王は世界で一番綺麗な王女だ。国民の誇りになるんじゃないかな」


「……ありがとう、ありがとうございます」


 涙は止まることを知らず、最早ニクスを拝みそうな様子を見せるので、ニクスは流石に不思議に思った。


「貴方はフローレアとどういう関係?ただの主従と言うには…」


 涙を堪えつつ、姿勢を正しながらルリは答えた。


「紹介が遅れ、失礼しました。私の名はルリネイア。母のフランシアは姫様の母上リリー様と同僚で仲が良く、先先代の陛下の寵愛を得てから、それは決していいことばかりではありませんでしたが、リリー様に母は仕えました。王位継承権はないということもあり、姫様はリリー様と引き離されずに済みました。ですが産後の肥立ちが良くなかったリリー様の代わりに母が面倒を見ることも多く、言わば姫様の世話係のようなもので、遠い姉妹のようなものでしょうか。だから、姫様が体中の傷痕を見て仕方なさそうに笑うのが私は嫌いでした」

 

「ルリネイア、貴方に罰を言い渡すわ」


 ルリは慌てて顔を起こす。


「これから先、フローレアの身辺は忙しくなり、危険なことも増えるでしょう。貴方が傍で守り、支えなさい。但し、貴方自身の幸せも放棄してはだめ。願わくば、フローレアの子孫を貴方の子孫が代々支えることになるといいわね」


 ニクスが手を差し出すと、右目が煌々と輝き、ペーパーナイフは懐刀へと代わり、スミレの花のレリーフが刻まれており、ルリは震える手でそれを受けとった。


「それじゃ、フローレアのこと、よろしくね」


 手をヒラヒラと振りながら去るニクスをルリは最敬礼で見送ったのであった。




 それから少しして目を覚ましたフローレアをルリは身支度を整えるといって、いつもより強引に風呂場へと連れ出す。


「傷が……」


 フローレアの肉体には瑕疵一つなく、キュッと引き締まりながらも女性らしい、艶めかしい柔肌があった。

 主従は抱き合い、しばし涙を流した。



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