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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
神造迷宮

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第170話 白湖の露店と、炭火の塩焼き

マルワンさんが乾燥棚から、昨日俺が塩を当てた魚を外した。


「触ってみろ」


受け取って表面を指で押す。


昨日より明らかに乾いている。


身も少し締まったが、完全な干物というほど硬くはなく、厚い部分にはまだ水分が残っていた。


マルワンさんも腹側と背の厚いところを順に押す。


「進んではいる。まだ途中だ」


端をほんの少し切り、炭火で炙ってもらう。


火の通った欠片を半分ずつ味わった。


水分が少し抜けた分、生の魚をそのまま焼いた時より味が濃く感じる。


塩も馴染み始めていた。


ただ、昨日食べた保存肉ほど身が締まっているわけではない。


「もう少し風へ当てる」


「はい」


魚は再び乾燥棚へ戻された。


昨日は一日、マルワンさんから教わる側だった。


塩の違い。


肉への当て方。


塩抜き。


風を使った乾燥。


実際に見て、触って、試したことで、塩を見る目が昨日までとは少し変わった気がする。


「今日は俺も何か作ってみたいです」


「何を作る」


「まだ決め切ってません。ただ、この土地の塩を使って、集落の人にも食べてもらいたくて」


マルワンさんが俺を見る。


「売るのか?」


「一日だけでも場所を借りられるなら」


「共同の売り場がある。採塩帰りも漁帰りも通る」


場所を教えてもらい、そのまま管理している人のところへ話を通しに行った。


商人ギルドの銀色の会員証を見せ、旅の料理人として一日だけ料理を売りたいと伝える。


火を使うこと。


水も使うこと。


営業後は自分たちで片付けること。


いくつか確認を受け、一日分の使用料を払った。


借りられたのは、共同販売区画の端にある小さな場所だった。


日除けの屋根。


炭火を使える区画。


水場。


簡単な作業台。


十分だ。


問題は何を出すかだ。


せっかく塩湖まで来た。


昨日教わったことも使いたい。


まずは魚を見に行くことにした。


集落では大塩湖そのものだけでなく、流れ込む水路や塩分の薄い浅場でも漁をしているらしい。


並べられている魚の中で、一種類に目が止まった。


細長い体。


銀色の腹。


背は淡い青灰色。


大きさも、一尾そのまま焼くのにちょうどいい。


見た瞬間、少し鮎に似ていると思った。


もちろん日本の鮎そのものではない。


状態のいい一尾を見せてもらい、【鑑定】する。


【銀香魚(シルヴァ・アユラ)】


詳細:西の大塩湖へ流れ込む水路や塩分の薄い湖岸域に棲む小型魚。銀色の腹と淡い青灰色の背を持ち、新鮮な個体は身に癖が少なく、内臓には僅かな苦味がある。丸ごとの炭火焼きや干物に適し、十分に鮮度を保った個体は内臓ごと加熱して食べられる。


「これを何尾かいただけますか」


露店で売る分を考え、必要な量だけ仕入れる。


魚が決まれば、献立も決まった。


主役は銀香魚の塩焼き。


それと塩むすび。


飲み物は、ここへ来る途中にも作った塩レモネードでいい。


三つだけにする。


魚を持ってマルワンさんの作業場へ戻り、昨日見せてもらった塩をもう一度並べてもらった。


俺は最初、手持ちの白湖晶塩を使うつもりだった。


だが、銀香魚を見ながら少し考える。


マルワンさんは何も言わず待っていた。


「魚には、こっちを使いたいです」


選んだのは、一度水へ溶かして余分なものを除き、再結晶させた細かな白塩だった。


「理由は?」


「粒が揃ってるので、魚全体へ均一に当てやすいと思います」


マルワンさんが頷く。


「昨日の話は覚えてるな」


必要な分を正式に買わせてもらった。


そのまま舐めた時に美味しい白湖晶塩と、魚へ均一に当てやすい細粒の塩。


同じ塩湖から来た塩でも、今日は役割を分ける。


販売区画へ戻り、準備を始めた。


銀香魚は鮮度を確認しながら表面を洗い、水気を丁寧に拭く。


丸ごと焼くので、大きく手を入れる必要はない。


細かな塩を魚体へ均一に当てていく。


尾とヒレの辺りには少し多め。


次に【樹器創成】で、細く丈夫な木串を必要数作った。


銀香魚の口元から串を入れ、身体が緩く波打つように通す。


真っ直ぐ刺すより、泳いでいるような形になる。


「曲げて焼くんだね」


ベルが隣から見る。


「日本で鮎を焼く時に、こういう串の打ち方があったんだ」


炭火台の周囲へ、串を斜めに立てるように並べていく。


最初から火へ近づけすぎない。


少し距離を取り、表面の水分を飛ばしながらじっくり火を入れる。


次は塩むすびだ。


インディカ米はいつものように、この米に合う水加減で炊く。


今回は具を入れない。


海苔も巻かない。


使うのは共有塩場で採った【白湖晶塩(アルバ・サル)】だけ。


そのまま食べた時に雑味が少なく、後味の軽かった塩だ。


米の粒を潰さない程度にまとめ、白湖晶塩を馴染ませる。


【白湖晶塩の塩むすび】。


塩レモネードは以前と同じだ。


手持ちのレモン。


清水。


砂糖。


白湖晶塩をほんの少し。


今回は販売用なので、大きめの容器へまとめて作り、冷たい状態を保つ。


器も準備する。


銀香魚用には、串を置いても転がりにくいよう浅い溝を付けた細長い木皿。


塩むすびには小さな木製トレー。


塩レモネードには持ちやすい木製カップを作り、保冷も付ける。


必要な盆や小皿も、その都度【樹器創成】で追加した。


マルワンさんが一つの木皿を手に取る。


厚みを確かめ、指で縁を押す。


「水も油も染みないのか」


「はい。料理に合わせて形も変えられます」


今度は保冷付きのカップを持つ。


「屋台には便利だな」


「前にも屋台で使ってますけど、料理に合わせてその場で形を変えられるのは助かります」


大量の食器を積んで旅する必要もない。


使い終わって戻ってきた空の器なら消去できるし、持ち帰られても中身がなくなって使用が終われば、そのうち自然に魔力へ還る。


準備を続けているうちに、銀香魚の皮から水分が抜け始めた。


位置を変え、腹側、背側、頭の周辺へ順に熱を入れていく。


しばらくすると、脂が炭へ落ちた。


じゅっ、と音がする。


炭火の煙へ魚の香りが混じる。


最後は少しだけ火へ近づけ、皮を香ばしく焼く。


尾やヒレに付いた塩が白く残った。


【銀香魚の炭火塩焼き】。


最初に来た客はナディムさんだった。


荷の整理が一段落したらしい。


「店まで始めたのか」


「一日だけです」


並べてある木製カップへ目が向く。


「レモンのやつもあるのか」


「ありますよ」


「じゃあ一杯くれ。それと魚も」


一緒に来た商隊員も注文した。


それをきっかけに、近くで作業していた人たちがこちらを見るようになる。


何より目立つのは魚だった。


串へ打たれた銀香魚が、炭火の周囲へ何尾も並んでいる。


「魚を曲げて焼くのか?」


採塩帰りらしい男性が足を止めた。


「火が全体へ入りやすいように形を整えてます」


一本買っていく。


木皿の上から串ごと持ち、皮を齧った。


ぱりっと焼けた皮の下から、白い身が現れる。


細粒の塩は一か所だけ強くならず、全体へ馴染んでいる。


腹側まで食べ進むと、内臓の僅かな苦味も加わったらしい。


男性は何も言わず、もう一口食べた。


「これ、酒にも合いそうだ」


そのまま歩いていった。


塩むすびの方は、魚ほど目を引かない。


白い米を握っただけなので当然だろう。


「それ、何が入ってる?」


別の客に聞かれた。


「何も入ってません。米と塩だけです」


「塩だけ?」


少し不思議そうにしながら一つ買う。


一口食べた後、手の中の塩むすびを見る。


「……これ、あそこの塩だよな?」


「共有塩場で採った白湖晶塩です」


もう一口。


普段から身近にある塩でも、米と塩だけにすると感じ方が変わるらしい。


昼前には、マルワンさんもやって来た。


「どうぞ。昨日のお礼もあるので――」


「店なんだろ」


言い終わる前に代金を出された。


「三つともくれ」


「分かりました」


銀香魚の塩焼き。


塩むすび。


塩レモネード。


マルワンさんはまず銀香魚を取った。


皮を食べ、次に背の身。


腹側まで進んでから、俺を見る。


「この塩は昨日の細かいやつだな」


「はい。白湖晶塩より、魚全体へ揃えて当てやすかったので」


「なら昨日の話は無駄じゃなかったな」


それだけ言って、残りも食べる。


塩むすびも塩レモネードも普通に口へ運んだが、一番長く見ていたのはやはり魚だった。


昼に近づくにつれ、湖側から吹く風が少し強くなった。


砂嵐ほどではない。


それでも日除け布がばたつき、軽い木製トレーが動く。


炭火も片側だけ勢いが強くなった。


「少しだけ逸らすね」


ベルが店へ直接吹き込む風だけを弱める。


キリコは端に置いていた看板を押さえ、必要なところへ小さな魔力壁を出した。


俺は炭火台の魚の位置をずらし、風上側だけ焼けすぎないよう距離を変える。


リュエラさんもトレーや道具を低い位置へ移してくれた。


周りの露店も似たようなものだった。


布の紐を締め直す。


商品を棚の下へ移す。


風が来ること自体は珍しくないらしい。


しばらくすると少し落ち着いた。


客が途切れたところで、俺たちも昼にする。


売っているものと同じ三品だ。


銀香魚の炭火塩焼き。


塩むすび。


塩レモネード。


メイとシルクには串を抜き、魚の骨をしっかり外してから量と大きさ、温度を調整した。


味付けは同じだ。


ベルが魚の皮を食べる。


「塩だけなのに、ちゃんと美味しいね」


「魚が新鮮だからね」


キリコは塩むすびと魚を交互に食べている。


ウンディーネも冷たい塩レモネードを飲んだ後、また魚へ手を伸ばした。


午後になると、少しずつ客の種類も変わった。


採塩作業を終えた人。


漁から戻った人。


荷を運んでいた商人。


子供を連れた住民も来る。


魚を売りながら、この辺りでは銀香魚を普段どう食べるのか聞いてみた。


塩を当てて干す。


煮込みへ入れる。


塩蔵して別の季節まで残す。


やはり、この土地では保存と料理がかなり近い。


焼き魚だけを食べて終わる魚ではないらしい。


昼を過ぎてしばらくすると、用意していた銀香魚はほとんどなくなった。


塩むすびも残り僅か。


塩レモネードも最後の容器へ入っている分だけだ。


長い列ができたわけではない。


それでも一日分の場所代と食材代を払って、きちんと利益が残るくらいには売れた。


「このくらいで終わりにしよう」


残りを無理に追加で作らず、店を閉める。


返ってきた空の木皿やカップ、トレーを順番に消していく。


魚用の細長い皿。


保冷を付けたカップ。


今日の料理に合わせて必要な形をすぐ用意できたのは、やはり屋台と相性がいい。


残った料理が入っている器はそのままにして、使い終えた串もまとめて処理する。


作業台を拭き、水場と炭火の周囲を掃除して管理の人へ返した。


片付けを終えた後、俺はマルワンさんの作業場へ戻った。


昨日から乾燥棚へ置いている魚を見る。


朝より、さらに表面が乾いていた。


指で押すと身の締まりも少し強くなっている。


それでも中まで完全に水分が抜けたわけではない。


俺が露店で魚を焼き、塩むすびを握っている間も、こっちは何もしていないようで少しずつ変わり続けていた。


マルワンさんも状態を見る。


「悪くない」


「まだ置きますか?」


「ああ。もう少しだ」


魚を棚へ戻した後、マルワンさんが湖の方へ目を向けた。


「塩の使い方は見た」


俺もそちらを見る。


白い湖の向こうには、集落へ来る前から見えていた大きな木枠や採塩設備がある。


「なら次は、採るところを見るか?」


服には、まだ今日一日使っていた炭火と焼き魚の匂いが少し残っている。


塩むすびに使った白湖晶塩も、銀香魚へ使った細かな塩も、元を辿ればあの白い湖から来ている。


マルワンさんは、遠くの採塩設備を指した。

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