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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん


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第16話 森の野外解体と、肉汁弾ける二度揚げ唐揚げ

ギルドの受付カウンターで、俺はいつものように採取した薬草を納品していた。


担当のセリアさんが、羊皮紙の記録に丁寧に羽ペンを走らせた後、パッと顔を上げて花が咲くような笑顔を見せた。


「フトシさん、おめでとうございます! 規定の依頼達成数と貢献度を満たしましたので、今日から『Eランク』に昇格ですよ」


「本当ですか。ありがとうございます、セリアさん」


俺が頭を下げると、頭の上を定位置としているシルクも一緒になって「キュイッ」と胸を張って鳴いた。


「これからは本格的な魔物の討伐依頼も受けられるようになります。ただ、いくらフトシさんが腕に覚えがあるとはいえ、最初は先輩冒険者とパーティを組むことをお勧めしますよ。いざという時、頼れる仲間がいるのは重要ですから」


セリアさんの心配はごもっともだ。


しかし、神話クラスのアイテムボックスの存在や、規格外の能力を隠しながら料理の食材を集めるには、単独行動の方が都合がいい。


「お気遣いありがとうございます。でも、俺は一人が性に合っているんです。それに、今はこいつもいますから」


俺が頭の上のシルクを指差すと、セリアさんは困ったような、微笑ましいような顔で苦笑いを浮かべた。


「あはは……とっても賢くて可愛いスノーラビットちゃんですけど、さすがに戦闘ではフトシさんを守れませんよ? 無理だけはしないでくださいね」


認識阻害の加護によって「ただの可愛いウサギ」にしか見えていないのだから、当然の反応だ。


俺はセリアさんに礼を言い、Eランク向けの依頼ボードから一枚の羊皮紙を剥がし取った。


選んだのは、以前解体所で扱ったことのある鶏型の魔物『フォレスト・フォウル』の討伐依頼だ。証明部位は、特徴的な「鋭い蹴爪」の提出となっている。


―――


マルタの街から少し離れた『東の森』。


木漏れ日が差し込む獣道を歩いていると、頭の上のシルクが長い耳をピンと立て、右方向の茂みを前足でポコポコと叩いた。


「あっちか。サンキュー、シルク」


シルクの持つ『直感』と『幸運』のスキルのおかげで、索敵は驚くほどスムーズだ。


音を立てずに茂みを掻き分けると、少し開けた場所で、ダチョウほどの大きさを持つ鮮やかな緑色の羽毛の魔物、フォレスト・フォウルが地面を突いていた。


(肉にダメージを与えずに倒す……)


俺はアイテムボックスから『如意の金剛棒』を取り出すと、一気に距離を詰めた。


気配に気づいた魔物が鋭い蹴爪を振り上げて威嚇してくるが、俺の動体視力なら止まって見える。振り下ろされる蹴爪を最小限の動きで躱し、金剛棒の先端でフォレスト・フォウルの脳天を正確に打ち抜いた。


「よし、一撃だ」


ドスッと音を立てて倒れた巨体の前で、俺はすぐに腰の『ミスリル打ち込み特注解体ナイフ』を抜いた。


今までは素材ごとアイテムボックスに放り込み、後でガルドさんの元で解体していたが、解体の手順を完璧に頭に叩き込んだ今なら、一人でも十分に捌けるはずだ。


それに、新鮮なうちに血抜きを済ませた方が、肉の生臭さを完全に抑えることができる。


丈夫な木の枝にロープをかけ、巨体を逆さ吊りにする。


首の動脈にナイフを入れ、一気に血を抜く。野外での解体は、時間との勝負だ。


血が抜けきったところで、羽毛ごと皮をベリベリと剥ぎ取っていく。


関節の隙間にミスリルの刃を滑り込ませると、前回よりもずっとスムーズに、美しいピンク色をしたもも肉と、分厚いむね肉が切り離されていった。


討伐証明である蹴爪を切り取った後、俺は地面に残った内臓や骨、そして血を吸った土の塊に至るまで、すべてをアイテムボックスへと収納した。


魔物がひしめく森の中で、血の匂いを残すのは自殺行為だ。


容量無制限だからこそできる、完璧な「証拠隠滅」と環境の清掃である。


「綺麗になったな。帰ろうぜ、シルク」


「キュッ!」


―――


ギルドでセリアさんに蹴爪を提出し、無事に依頼達成の報酬を受け取った俺は、宿の裏庭へと直行した。


今日の夕飯は決まっている。


大量に手に入った極上の鶏肉を使った、「唐揚げ」だ。


「よし、仕込むぞ」


まずは下準備だ。


フォレスト・フォウルの一枚肉を、火が均一に通りやすいよう、やや大きめの一口大にカットしていく。


ボウルに肉を入れ、すりおろしたたっぷりのジンジャー(生姜)、先日手に入れた旨味の塊である魚醤ガルム、少量の果実シロップ、そして岩塩を加えて、手で力強く揉み込んだ。


唐揚げの味の決め手は、この下味をしっかりと肉の繊維の奥まで染み込ませることだ。


魚醤のアミノ酸と岩塩の浸透圧が、肉をより柔らかくジューシーに変化させていく。


味が馴染んだところで、衣をつける。


市場で買っておいた、クズ芋から取れた澱粉(片栗粉のようなもの)と小麦粉を独自の黄金比率でブレンドした粉を、肉の表面にたっぷりとまぶす。


この二種類の粉を合わせることで、ガリッとした力強い食感と、サクッとした軽さの両立が可能になるのだ。


『黒剛鉄の万能煮込み鍋』に、市場で仕入れた植物油と、魔物の良質な脂を合わせた揚げ油をたっぷりと注ぎ、魔導コンロで熱する。


唐揚げを究極に美味しくする料理人の絶対的な技法、それは『二度揚げ』だ。


まずは百六十度ほどの中温の油に、粉をはたいた肉を静かに投入する。


――シュワァァァァァ……!


細かな泡が立ち上り、心地よい揚げ音が裏庭に響く。


この一度目の揚げは、肉の内部にじっくりと熱を通すためのものだ。三分ほど揚げ、衣がうっすらと色づいたところで、一度油から引き上げる。


バットの上に置き、余熱を利用して肉の中心までゆっくりと火を通す。この数分間の「休ませる」工程が、肉汁を内部にしっかりと留めるための最大の秘訣だ。


「キュイイ……」


待機しているシルクが、ジンジャーと脂の香ばしい匂いに耐えきれず、俺の足元をウロウロと歩き回っている。


「もう少し待ってろ。ここからが仕上げだ」


休ませた肉を、今度は百九十度まで温度を上げた高温の油に一気に再投入する。


――バチバチバチッ!! ジュワァァァッ!!


先ほどとは全く違う、激しく力強い音が弾けた。


表面の衣に残った水分を一気に飛ばし、完璧なきつね色――メイラード反応を極限まで引き起こす。


わずか一分ほどで、衣はカリッカリに硬くなり、最高に香ばしい匂いが爆発的に広がった。


「完成だ」


油を切り、大皿に山盛りに盛り付ける。


熱々のうちに、まずは一つ、指でつまんで口に放り込んだ。


「あつっ……美味いッ!!」


歯を立てた瞬間、「ガリッ、サクッ」という快音が脳裏に響く。


そして次の瞬間、衣の中に閉じ込められていたフォレスト・フォウルの圧倒的な肉汁が、口いっぱいにジュワリと弾け飛んだ。ジンジャーの爽やかな辛味と、魚醤の焦げた深い旨味が、鶏肉の力強い味わいと見事に調和している。


二度揚げのおかげで、肉質は驚くほどふっくらとして柔らかい。


「ほら、シルクも食え。熱いから気をつけろよ」


冷ました小さめの唐揚げを小皿に乗せてやると、シルクはハフハフと一生懸命に口を動かし、「キュウゥ〜!」と目を細めて幸せそうに後ろへひっくり返った。


俺は残りの肉も次々と揚げ、一番美味しい熱々の状態のまま、次々とアイテムボックスの中へと収納していった。


時間が停止するこの空間があれば、いつ、どんな場所でも、極上の揚げたて唐揚げを最高のコンディションで味わうことができる。


いつでも美味いものが食べたいという俺の食欲を満たすには、これ以上ない使い方だ。


夕焼け空が、マルタの街をオレンジ色に染め上げていく。


腹の底から湧き上がる温かい満足感と、口の中に残る香ばしい余韻。


隣では、お腹いっぱいになったシルクが、俺の太腿に顎を乗せて気持ちよさそうに目を閉じている。


自分で狩り、自分の手で捌き、自分の技術で極上の一皿に変える。


この手の中にある道具と技術が、これからどんな未知の食材と出会わせてくれるのだろうか。


そんな素朴で胸躍る期待を抱きながら、俺は静かに暮れゆく空を見上げていた。



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