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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
旅立ちと交易都市マルタ

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第1話 追放されたゴリラ系男子、未知なるスパイスと出逢う

太陽がジリジリと容赦なく皮膚を焼き、陽炎が立ち上る石畳の街道。


俺――中村なかむらフトシは、背中にずっしりと重い革袋を背負いながら、ひたすらに歩を進めていた。


身長一八〇センチ、体重百キロ。高校二年生としては明らかに発育が良すぎる分厚い胸板と、丸太のように太い腕。おまけに生まれつき目つきが鋭いため、地元の不良からは勝手にタイマンを挑まれては返り討ちにし、クラスメイトからは畏怖と親しみを込めて(実際のところ九割は畏怖だが)『ゴリラ』と呼ばれている。


すれ違う馬車の御者や旅人たちが、俺のいかつい風貌を見てギョッと身をすくめ、そそくさと道を譲っていく。申し訳なさを覚えつつも、俺はただ前を向いて歩き続けていた。


なぜ、日本のしがない男子高校生が、中世ヨーロッパを思わせる見知らぬ異世界の風景を進んでいるのか。


事の発端は、ほんの数時間前まで遡る。


放課後、俺はいつものようにアルバイト先へと向かって歩いていた。


その途中、薄暗い路地裏を通り抜けた瞬間に、足元がまばゆい幾何学模様の光――魔法陣に包み込まれたのだ。視界が真っ白に染まり、強烈な浮遊感に目眩を覚えた次の瞬間、俺は冷たい石造りの広間に立っていた。


天を仰ぐほど高い天井には豪華なシャンデリアが輝き、床には真紅の絨毯が敷き詰められている。そして、それを取り囲むように、きらびやかな鎧に身を包んだ重武装の騎士たちがズラリと並んでいた。


俺の隣には、たまたま近くの通学路を歩いていたらしい、同じクラスの四人の姿があった。


「うわっ、なんだここ!? 映画の撮影かよ!」


「ちょっと、カイト、私の服、変な光がついてる……!?」


真っ先に声を荒らげたのは、サッカー部のエースで生徒のまとめ役でもある光条こうじょうカイトだ。その隣で、活発な運動部女子の東堂とうどうリンがカイトの袖を掴んで怯えている。


クールな男、坂本さかもとトウマは周囲の騎士たちを鋭く睨みつけ、図書委員のおとなしい文学系女子、清水しみずカオリは、その場にへたり込んでガタガタと震えていた。


四人がパニックに陥る中、絨毯の先にある豪奢な玉座から、ふんぞり返った初老の男が尊大な声を響かせた。


「おお、よくぞ喚び応えてくれた! 異世界からの勇者たちよ! 予はロドリス王国が王、アルベール・ヴァン・ロドリスである!」


金の刺繍が施された高価なマントを羽織り、宝石が散りばめられた王冠を戴く男――アルベール王は、傲慢な笑みを浮かべて言った。


彼の口から語られたのは、「復活した魔王を討伐するために、伝説の召喚術で異世界から力を貸してくれる者を呼んだ」という、ファンタジー小説のテンプレそのままの台詞だった。


「魔王討伐……? 俺たちが、ですか?」


カイトが戸惑いながらも、どこか選ばれた者としての高揚感を顔ににじませる。アルベール王は満足げに頷くと、傍らに控える白髭の神官に合図を送った。


「まずは、お主たちの能力を確認せねばな。神官よ、鑑定を」


神官が手にした半透明の水晶のような魔法具をかざすと、俺たちの前に、空中に浮かび上がる不思議な光の文字が現れた。この世界では、ステータスとして『名前』『年齢』『職業』『スキル』の四項目のみが視認できる仕様らしい。内部的な強さの数値などは一切表示されないようだ。


まず、カイトの前に文字が浮かぶ。


『光条カイト:17歳』『職業:【勇者】』『スキル:勇者』


「おおお……! 【勇者】! それに何万人に一人という重複なきユニークスキル『勇者』ではないか!」


アルベール王が歓喜の声を上げる。高水準の魔法や剣術を全て内包する万能スキルだ。カイトは「俺が勇者……よし、みんな、俺が引っ張っていくから安心しろよ!」と胸を張った。


続いてトウマ。


『坂本トウマ:17歳』『職業:【聖戦士】』『スキル:聖戦士』

精神・肉体バフや敵の注意を引きつける挑発能力を持つ、完璧な前衛タンクのユニークスキルだ。トウマは「フン、悪くない。盾になってやるさ」と口元を歪めた。


リンの番だ。


『東堂リン:17歳』『職業:【拳聖】』『スキル:拳聖』

連撃を叩き込むほどに攻撃力が増加する前衛特化のユニークスキル。「よっしゃあ! これなら大暴れできるじゃん!」とリンは拳を突き合わせる。


四人目はカオリ。


『清水カオリ:16歳』『職業:【賢者】』『スキル:賢者』

この世のあらゆる魔法を最高効率で扱える才能の証、魔法系ユニークスキルだ。「私、魔法が使えるの……?」とおどおどしつつも、カオリの瞳には安堵の色が浮かんでいた。


四人の規格外な能力が判明するたび、城内は狂喜乱舞の渦に包まれた。神官は興奮気味に、この世界のシステムを付け加える。


「この世界において、職業とは大いなる指標! 職業に沿った行動には強力なシステム補正と恩恵が入ります! 勇者様ならあらゆる戦闘に、拳聖様なら体術に爆発的な補正がかかるのです! 過去には【僧侶】の職業でありながら、肉体を極限まで鍛え上げ、自身に回復魔法をかけながら最前線で暴れ回ったSランク冒険者も存在しましたが……それも全て、職業の補正を限界まで活かしたからこそ!」


型に嵌まらない自由な戦い方があるとはいえ、ベースとなる職業の補正が強力であることに違いはない。


正式に能力が認められた四人は、どこか誇らしげな顔をしていた。


そして、最後に俺の番が回ってきた。神官が魔法具を俺に向ける。


『中村フトシ:17歳』

『職業:【探求者】』

『スキル:冒険する者、探求者』


広間が、水を打ったように静まり返った。


神官は困惑したように眉をひそめ、何度も魔法具を叩いてから、冷や汗を拭いながらアルベール王に報告した。


「……王様。聞いたことのない職業です。それに、魔力の上昇や強力な武技に関するスキルも見当たりません。ユニークスキルのような輝きもなく……一体何に行動補正が乗るのかすら不明。いわゆる、一般人同然の、ハズレ枠かと」


その瞬間、アルベール王の目がゴミを見るかのような冷酷な光を帯びた。


彼らが求めているのは、他国との戦争や覇権争い、そして魔王軍との戦いに利用できる「強力な手駒」だけなのだ。その腹の底にある薄暗い欲望を、俺の胸の奥でチリッと警鐘を鳴らした感覚が的確に見抜いていた。


「チッ、一人だけ無能な木端こっぱが混ざったか。一般人を危険な戦いに巻き込むわけにはいかん。手切れ金を出してやるから、とっとと城から出ていきなさい」


厄介払いをされるように、俺は金貨が詰まった革袋――一〇万ゴールドを渡され、城の裏口から放り出されることになった。


その際、カイトたちは誰一人として俺を引き止めなかった。


「悪いな、フトシ。一般人のお前が戦場にいたら、俺たちの足手ま……いや、足手まといになるし、お前自身も危ないだろ? これは王様の優しさだよ。町で安全に暮らしてくれ」


カイトは、いかにも「お前のためを思って」という聖人君子のような顔で言った。その目の奥には、特別な存在に選ばれた自分への圧倒的な優越感が透けて見えている。


「使えない荷物を抱える余裕はないからな。妥当な判断だ」


とトウマは冷笑し、リンやカオリも、自身の強力な能力への高揚感からか、俺と目を合わせようともせず、ただ沈黙を守っていた。彼らはクラスでも目立たない俺が追放されることに、何の疑問も抱いていないようだった。


「……ま、いっか」


回想を終え、俺は街道を歩きながらぽつりと言葉を漏らした。


正直なところ、胡散臭い王族の下で戦争の道具として扱われるよりは、よっぽど清々しい。


それに、彼らは大きな勘違いをしている。


俺は歩きながら、改めて自身のスキルについて意識を集中させた。すると、頭の中にスッとスキルの詳細な情報が流れ込んでくる。


スキル『冒険する者』。


これは単なる一つのスキルではない。対象の情報を詳細に読み取る【鑑定】、危機や正解を感覚で察知する【直感】、それから……【アイテムボックス】。これら三つの能力を内包した、とんでもない万能ユニークスキルだった。


城の神官は「アイテムボックス。それ自体はサイズや容量の差こそあれ、持っている者はそれなりにいる一般的なスキルだ」と雑談をしていた。確かにその通りらしい。だが、彼らの魔法具は、スキルの「詳細な性能」までは見抜けなかった。


俺の持つアイテムボックスは――「時間経過による劣化がなく、容量が無制限」。


歴史上にも数えるほどしか確認されていない、神話クラスの超希少な代物だったのだ。


さらに、もう一つのユニークスキル『探求者』。


「世界の謎に近づきやすくなる」という曖昧な能力だが、その本質は別にある。


未知のダンジョンや未踏破領域……、そして『未知の食材』に挑むため、俺の身体能力や耐久力が自動的に、かつ常識外れに強化され続けているのだ。


先ほどからずっしりと重い一〇万ゴールドの革袋を背負って歩いているのに、一向に疲労を感じないのがその最高の証拠だった。


なるほど、俺の職業【探求者】は、「未知なるものを探求する行動」に規格外の補正がかかるらしい。


「……腹、減ったな」


時計の概念はないが、空高く昇った太陽を見るに、ちょうど昼時だろう。


俺の胃袋は完全に空っぽだった。


俺はいかつい見た目をしているし、腕っぷしも強いが、決して不良やケンカ好きというわけではない。俺の本質は、ただの『食い道楽グルメマニア』だ。


高校一年の春、俺はたまたま求人で見つけた小さな日本食屋『味処・藤』の面接に臨んでいた。


世界を渡り歩いたという恰幅の良いマスターは、体格だけは一丁前な俺を見て「ガハハ! いい体格をしてるな!」と笑い、その場で「採用だ。まずはこれを食ってみろ」と、大きな皿を出してくれたのだ。


それが、マスターの作った賄いだった。


出汁の優しくも深い香りが立ち上る煮魚と、一粒一粒が真珠のように輝くつやつやの銀シャリ。口に運んだ瞬間、五臓六腑に染み渡るその圧倒的な美味さに、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。


美味いものを、たくさん、死ぬまで食べ続けたい。


そのためには、どんな強い刺激の料理にも負けない頑強な胃腸と、それを支える強靭な肉体が必要不可欠だ。


カロリーを大量に消費し、常に最高のコンディションで飯を食う。その一心で始めた筋トレが、いつの間にか俺の肉体をゴリラと呼ばれるほどの規格外なものへと変貌させていた。


もちろん、料理の腕も磨き抜き、今ではマスターから「いつでも自分の店を持てる」と太鼓判を押されるレベルに達している。


「よし、異世界最初のメシ、いくか」


俺は道の脇にある手頃な岩に腰を下ろすと、『アイテムボックス』の空間に意識を繋いだ。


城下町から追い出された直後、腹の虫の悲鳴に耐えかねた俺は、門の近くにあった屋台で手切れ金の一部を使い、いくつかの食料を調達していたのだ。


空間の奥底から取り出したのは、一本の串焼き。


時間経過がない神話クラスのアイテムボックスのおかげで、屋台の親父から受け取った時の熱々の状態を完全に保っている。


ジュージューと脂が弾ける微かな音。チリ一つ落ちていない美しい肉の表面。そして、鼻腔を強烈に刺激する、日本では嗅いだことのないエキゾチックなスパイスの香りが辺りに広がった。


俺は『鑑定』を発動し、手に持った串焼きを凝視した。


【ホーンラビットの串焼き】

詳細:額に一本の角を持つウサギ型モンスターの肉。赤身で強い弾力がある。クミンに似た風味を持つ『クグの実』の粉末と、岩塩で味付けされている。


「モンスターの肉、か……」


ファンタジーの定番とはいえ、実際に食べるとなると少し緊張する。


だが、それ以上に『未知の食材』に対する圧倒的な好奇心が、俺の口内に大量の唾液を分泌させていた。


意を決して、大きな口を開け、串焼きにかぶりつく。


「――っ!」


分厚い肉を噛みちぎった瞬間、想像を絶する旨味が口の中いっぱいに爆発した。


赤身肉特有の、野性味あふれる力強い弾力。顎を押し返してくるような心地よい歯ごたえだ。しかし決して硬すぎることはなく、噛めば噛むほどに、閉じ込められていた熱々の肉汁がジュワリ、ジュワリと溢れ出してくる。


そこへ追い打ちをかけるように、『クグの実』のスパイスが効いてくる。クミンに似たカレーのような香ばしさと、舌をピリリと刺激する爽やかな辛味が、肉の野性的な脂っぽさを完璧に引き締め、次の一口を強烈に要求してくるのだ。


「美味い……! なんだこれ、めちゃくちゃ美味いぞ!」


日本の鶏肉や豚肉とは全く違う、荒々しくも純粋な『生命の味』がする。


岩塩のシンプルな塩気が、肉本来の濃い甘みを極限まで引き出していた。


俺は無我夢中で串に食らいついた。バリバリと香ばしく焦げた表面の苦味と、ジューシーで柔らかな内側のコントラストがたまらない。あっという間に巨大な串焼きを平らげ、串についた旨味の塊たる肉汁までペロリと舐めとってしまった。


「……ふぅ」


胃袋に落ちた温かい肉が、全身の細胞に活力を与えていくのを感じる。


ただの街外れの屋台の串焼きで、これほどの感動があるのだ。この広大な異世界には、まだ見ぬ絶品食材や、未知の調味料が山のように眠っているに違いない。


魔王討伐?


勇者としての栄光?


そんなものは、カイトたちに任せておけばいい。


俺の武器は、この無駄に鍛え上げられた頑強な肉体と、『冒険する者』というユニークスキル。そして、日本食屋で鍛え上げたプロ顔負けの料理の腕だ。


「よし。世界中の美味いもん、全部食い尽くしてやるか」


俺は空になった串をアイテムボックスにしまい込むと(ポイ捨てはマナー違反だ)、力強く立ち上がった。


いかつい顔に、自然と満面の笑みがこぼれる。


目指すは、まだ見ぬ食材と最高の料理。


ハズレ扱いされたゴリラ系男子の、気ままで規格外なグルメ旅が、今ここから幕を開けた。


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