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SPIN  作者: SaiKa
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第四話 一球

第四話 「一球」


「……下回転、リベンジする?」


 環凪しおんの言葉に、ひよりは言葉を詰まらせた。


 返せるわけない。


 昨日だって、一球も返らなかった。


 でも。


 やってみたい。


 胸の奥が、むずむずする。


「……やる」


 気づけば答えていた。


「ん」


 しおんは眠そうな顔のまま卓球台へ向かう。


 ラケットを一本、軽く放ってよこした。


 ひよりはそれを受け取る。


 軽い。


 でも昨日より、少しだけ手に馴染む気がした。


「いくよ」


 しおんがボールを打つ。


 ふわりと飛んでくる。


 遅い。


 ひよりがラケットを合わせた瞬間。


 カツッ。


 ボールが真下へ落ちた。


「っ……!」


 ネットにも届かない。


「もう一回」


 しおんの声は淡々としていた。


 また打たれる。


 カツッ。


 落ちる。


 もう一回。


 落ちる。


「なんで……!」


 ちゃんと当たっている。


 タイミングも合っている。


 なのに返らない。


 しおんは相変わらず無表情だった。


 陰キャのスポーツ


 自分には簡単だと思っていた。


 だから余計に悔しい。


 またボールが飛んでくる。


 ひよりはラケットを止めた。


「……あ」


 思い出す。


 昨日。


 しおんと打っていた男子部員。


 強打されたボールを返した時のラケットの


 角度。打ち方。


 ボールを野球のバットのように振るのではなく、


 擦るみたいに打っていた。


「……こう?」


 ひよりはラケットを少し下げる。記憶の断片を思い返しながら、真似をする。


 しおんがボールを送る。


 沈む軌道。


 下回転。


 ひよりは振った。


 カツッ。


 また落ちる。


「違う……!」


 もっと下から。


 もっと擦る。


 頭の中で、昨日の動きを繰り返す。


 ラケットの角度。


 振る方向。


 当たる瞬間。


 もう一回。


 カツッ。


 落ちる。


「っ……!」


 悔しい。


 なのに、やめたくない。


 次。


 ひよりは大きく息を吸う。


 ボールを見る。


 回転を見る。


 沈む。


 落ちる。


「――っ!」


 ラケットを振り抜く。


 擦るように。


 持ち上げるように。


 キュッ――!


 今までと違う音がした。


「……え」


 白いボールが弧を描く。


 ネットを越える。


 相手コートへ落ちた。


 入った。


 ひよりのボールが、初めて返った。


「……入った!」


 思わず声が出る。


 胸が熱い。


 たった一球。


 それだけなのに。


 今までできなかったことができた。


 それだけで、頭が真っ白になるくらい嬉しかった。


 しおんが一瞬驚いた顔を見せ、フッと笑う。


 そして、もう一度打った。


 さっきと同じように見えた。


 ひよりはラケットを振る。


 カツッ。


 ボールが横へ跳ねた。


「えっ!?」


 空振る。


 ころころとボールが転がっていく。


「……は?」


 さっきと違う。


 なんで曲がる?


「横」


 しおんが短く言う。


「いや意味わかんないって!」


 思わず叫ぶと、卓球部員たちが笑った。


「しおん先輩、横とかズルっ」


「てか一本返したのマジ?」


「え?」


 ひよりが振り向く。


 ほかの部員が目を丸くしていた。


「初心者だよな?」


「この前の見たら初心者だろ」


「下も横も知らないやつがあのカットを返した」


 ひよりはもう一度卓球台の方を見る。


 しおんは下を向き笑っている。


「やっぱりね」

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