表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SPIN  作者: SaiKa
1/4

第1話 憧れ

『SPIN』


第一話 「憧れ」


 七羽ひよりは、中学に入ったら絶対に変わると決めていた。

 小学校までの自分は、悪くなかったと思う。


 運動は得意だったし、友達もいた。クラスの中心とまではいかなくても、そこそこ目立つ側ではあった。


 でも、“上”ではなかった。


 中学では違う。

 制服を着て、髪を少しだけ巻いて、放課後には友達と写真を撮る。


 誰かのストーリーに映る側になる。


 七羽ひより、十二歳。

 中学デビュー、成功予定。


「ひよりー! ダンス部見学行こ!」


「行く!」


 入学式翌日の昼休み。


 ひよりは新しくできた友達たちと第一体育館へ向かった。


 まだ四月なのに、体育館の中は熱気があった。


 音楽が鳴る。


 先輩たちが踊る。


 笑い声が飛ぶ。


「やば、かわい……」


 思わず声が漏れた。


 揃いのウェア。汗で崩れないメイク。軽音部の男子が入口付近で見学しているのも、なんだか“青春”って感じがする。


 これだ。


 ひよりは胸が高鳴る。


 こういうのがやりたかった。


 小学校の頃、スポーツをやっていた時期もある。走るのは速かったし、体を動かすのも好きだった。


 でも、六年の冬。


 膝を壊した。


 それ以来、“競技”からは離れている。


 だから今度は、もっとキラキラした場所へ行こうと思った。


 その帰り道。


 第二体育館の前を通った時だった。


 カッ。


 乾いた音が響く。


 カカッ。


 カッ、カッ。


「なにこれ?」


「卓球部じゃね?」


 友達の一人が、半笑いで体育館を覗き込む。


 ひよりもつられて中を見る。


 卓球台。


 ジャージ姿。


 壁打ち。


 床に座って喋ってる男子。


 スマホをいじっている先輩。


「うわ、地味」


「てか陰キャ感すご」


「わかる」


 ひよりは笑った。


 ダンス部とは真逆だった。


 狭い体育館の端で、地味な音を鳴らし続ける部活。


 自分には一生関係ない。


 そう思った。


 翌日。


 ダンス部の前に、人だかりができていた。


「え、こんな集まったの?」


「今年多すぎらしいよ」


 ざわざわとした空気の中、二年の先輩が紙を貼る。


『入部希望者多数のため、入部オーディションを実施します』


「オーディション……?」


 ひよりは思わず呟いた。


 周囲の女子たちもどよめく。


「え、ガチじゃん」


「落ちるとかあるの?」


 もちろん不安はあった。


 でも、ひよりは自分なら大丈夫だと思っていた。


 運動神経は悪くない。


 リズム感だってある。


 何より、自分は“こういう側”の人間だと思っていた。


 オーディション当日。


 体育館の鏡に映る自分を見て、ひよりは小さく息を吐いた。


 いける。


 音楽が始まる。


 ステップ。


 ターン。


 振り付けをなぞる。


 最初は順調だった。


 周りより動けている感覚もあった。


 いける。


 そう思った瞬間だった。


 ズキッ。


「……っ」


 右膝に、嫌な痛みが走る。


 一瞬、呼吸が止まった。


 でも止まれない。


 ひよりは無理やり笑顔を作る。


 音楽は続く。


 ターン。


 着地。


 また痛む。


 ズキッ。


 ズキッ。


 足が遅れる。


 鏡の中、自分だけテンポがずれていく。


 先輩の目線が動いた気がした。


 恥ずかしい。


 やめたい。


 でも止まりたくない。


 なのに、膝が言うことを聞かない。


 曲が終わる頃には、汗で前髪が張り付いていた。


「ありがとうございましたー」


 先輩の声。


 周囲の女子たちは笑顔で戻っていく。


 ひよりだけが、右膝を押さえながらゆっくり歩いた。


 ――ああ。


 終わった。


 結果発表は、その日の放課後だった。


 掲示板の前に集まる人だかり。


 ひよりは、自分の名前を探す。


 一回。


 二回。


 三回。


 ない。


 何度見ても名前はなかった。


「……え」


 心臓が冷える。


 通った子たちの歓声が遠く聞こえた。


「やったー!」


「まじ!?」


「ひよりは?」


 誰かの声。


 ひよりは反射的に笑った。


「あー、落ちたわ」


 軽く。


 なんでもないみたいに。


 でも喉が苦しかった。


 逃げるように校舎を出る。


 夕方だった。


 空のオレンジが闇に吸い込まれそうだ。


 最悪だ。


 中学デビュー、失敗。


 ダンス部に入れなかった自分に、価値なんてない気がした。


 ひよりは俯いたまま、第二体育館の前を通る。


 その時だった。


 ――カッ。


 乾いた音が響く。


 昨日聞いた音。


 でも今日は、やけに耳に残った。


 カッ。


 カカッ。


 まるで何かが始まる合図みたいに。

ご精読ありがとうございました。

もし、よければ第2話以降も更新していくのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ