交換条件
隠れていた騎士科の生徒三人を連れて私達はサロンに戻った。
そして、アイリーンの横にはキャサリンさんさけではなくセリーナちゃんもいた。
「ソレイユ殿下は今、身体に異常が無いか検査を受けているの」
ナジムさん、ハリスさん、レオナルド様に学園長…大勢の前で騎士科の生徒が小さくなっていた。
「君達はなぜあの場に?」
ゆっくりと学園長が訊ねると一人が口を開いた。
「私達は訓練の練習の後にちょっと残って遊んでいただけです。そしたら、あの部屋が空いていて、ゆっくりと話せるから、いいな、って。なあ?」
「ええ。そうです」
「はい、ちょっと話してただけです」
三人はそう言った。
「だ、そうです。何か質問をお願いします」
学園長は静かに目を閉じるとレオナルド様とハリスさん達に向かって「どうぞ」と言うように手を出した。
「君達の名前、学年は?」
「え?」
聞き返した一人にレオナルド様は黙っていた。
二度も言わせるな、という圧が凄い。アイリーンの前では凄く穏やかな年上な素敵な婚約者、という方だったが、流石次期公爵になられると言う方。無言の圧に耐え切れなくなったのか、三人はお互いを見回したが、それぞれ名前を言い出した。
「騎士科、三年、ジャスティン・シュバルク」
「騎士科、二年、マルコ・ダンツ」
「騎士科、三年、イワン、リーチー」
それぞれ擦れるような声で名前を言うと、学園長も頷き、レオナルド様も頷いた。
「シュバルク子爵家、ダンツ男爵家、リーチー伯爵家の者だな。分かった」
レオナルド様がそう言うと、ナジム様が聞いた。
「…。なぜ殿下を攫った?」
「え。いや、私達は何も…」
「何故、殿下を攫った?」
もう一度ゆっくりナジム様が聞き、生徒の一人に剣を突きつけた。
「嘘を言えば殺す。反抗すれば殺す。殿下の御身を危険にさらした。三人を殺しても、非はそちらにある」
レオナルド様は黙って頷いた。
「正直に答えるように」
レオナルド様がそう言うと、生徒は震えながら答えた。
「お、俺達を、ご、護衛に選んで貰う為です」
「お、おい!」
「!」
一人が口を開き、残りの二人が慌てて止めようとしたが、一人は「しょうがないだろう?」っと言いながら話し出した。
「詳しく聞こうか」
レオナルド様が穏やかに、でも、一言聞き直すと、剣をつきつけられていない生徒が答えた。
「で、殿下が誘拐されて、でも、俺達が護衛よりも早く殿下を救ったら、護衛に選ばれるんじゃないかって」
生徒の一人がそう言うと、二人は目を伏せた。
「愚かだな」
ナジム様がそう言い、剣を収めたが、三人は何も言わなかった。
「三人の処遇はこちらに任せて貰いたい」
レオナルド様が殿下達に頭を下げると、ナジムさんが、眉間に皺を寄せた。
「一度この者達の家の者とも話さないといけません。その後の事はそちらともしっかりと話し合いたいと思っております。処遇についてはその時に」
レオナルド殿下がそう言うと騎士達が部屋に入って来て、三人はどこかに連れていかれた。もう。それはあっと言う間だった。
そして、次の日。
殿下は身体に何も異常がない事を確認されたが、学園は休まれた。
わたしはレオナルド様から、王宮に呼び出され、そこには殿下もいらした。
「昨日の件の事をね、どういう流れになりそうか。また、現段階で決まっている事だけ、話しておこうと思ったのだよ」
レオナルド様はそう言うと、三人はの現在を話し出した。今、王宮の貴族牢に入れられているという。
「未成年という事を考慮するという話もあったんだけどね、もう外交問題だ。三人に逃亡されても、勝手に処罰を親が決めるのも困る。貴族牢に入れて監視という事にしているよ。反省の意味を込めて、なんだけどね。今、三人は罵り合いをしているようだ。反省よりも責任の押しつけに忙しいようだね」
事態はこんな騒ぎを起こした三人が思っているよりも本当に大変な事になっていたのだ。
「殿下にこちらに処遇をお願いしたのだけれど…。そこで殿下からも条件が出された」
レオナルド様はそう言うと私の方を見た。
「リンツ令嬢。殿下はソレイユ国の交換留学生に君に来て欲しいそうなんだ。もし、君が交換留学生としてソレイユ国に来てくれれば、今回の件は護衛や殿下の気のゆるみあった、という事にして、内々にすませてくれると言う事なんだ」
「交換留学生?」
どういうこと?私は学園を卒業して女伯爵になるのだけれど。
「うん、そうだね。そちらでその三人を処分していい。だけれど、無かったことにして欲しいのなら、私の希望も一つくらい叶えて貰わないとね」
レオナルド様は困った様に私を見た。
「私も短期留学でこちらに来た。この国からも我が国に留学生を招くんだ」
「え?それに私が?」
「君は成績優秀。護衛も出来る程の腕前。女性の交換留学生をとの希望もあった。君は全て満たしている。何も問題はないだろう?」
「いや、私は卒業したら、女伯爵になる予定でして」
「卒業したら。だよね?卒業前の交換留学生だから、何も問題はない」
ソレイユ国に行けば、ノアに会えなくなる。今でさえ会えないのに、そんなのは嫌だ。
しかし、この三人の問題は国際問題になる。誘拐事件だ。第七王子といえど、王族に手を出したのだ。どんな問題になるか分からない。それを、私の交換留学だけで、問題が片付くというのか。
ならば。
私が口を開こうとした瞬間。アイリーンがドアを開け、ノアが飛び込んできた。
「ミラ、ソレイユには行きません。もし、行く時は私も共に行きます。その願いが叶えなければ、三人は殿下が好きに処分すればいい」
ミラは私を抱きしめると、一気にそう言い、「ミラ以外どうなっても構わない、ミラが行くなら僕も行く。絶対に離れない。ミラを守れないなら、侯爵家の意味などないよ」と私の耳元で、泣きそうな声で言ったのだ。




