8. 感謝……と?
これで完結いたしますm(__)m
輝くような女神様は、黒髪かは定かではなかったものの、明らかに日本人で……私の祖母。おばあちゃんの若い頃の姿だった。
「リディ、僕たちはこの方と会ったんだ。あの時のお姿を詳しく伝えて彫らせたが、どうだろう?」
後ろから聞こえるアルチュールの声に、胸が詰まった私は何も答えられない。
葬儀の後、遺品を片付けて出てきた手紙や写真の数々。その中に、この像とそっくりの写真があった。
私の知らなかった真実が記されていた手紙。母が私を置いて出ていっただけで、おばあちゃんは何も悪くなかった。むしろ必死で母を引きとめ、私の将来を案じてくれていたのだ。
(なのに、私は……)
噂を鵜呑みにし、おばあちゃんと向き合わなかった。
ゆっくりと、女神像に近付いて行く。
女神が大切に抱えている、本のような物が目に入ると視界が涙で歪む。
(……これは)
本ではなくて、私が使っていたノートだった。
そう、この物語を書いたノート。
(ああ、そうだったんだ)
おばあちゃんは、私がゴミ箱に捨てたノートを読んだのだ。全てが、理解できた。
私が物語の中でリディに転生させたのは、中学時代の私自身。自分で自分が大嫌いだった。だから不幸になって、当たり前だと思っていた。
(だけど、おばあちゃんは――)
過去の私も、今の私も愛してくれていた。
震える肩にそっと手を置かれ、ビクッとする。
「女神様に、リディを幸せにしてほしいと言われたよ」
「ふ……ぅうっ」
アルチュールに言われ、張り詰めていたものが切れた。
涙なんだか鼻水なんだかわからない。もうぐちゃぐちゃだ。
(――本当は、私もおばあちゃんが大好きだった)
アルチュールのその優しさに甘え、胸を借りてひとしきり泣いた。
◇◇◇◇◇
――あれから。
私は聖女として神殿に入り、お飾りじゃなくこの国の為に働くもの……そう思っていたのだけれど。
「リディ、今日は西の街へ向かおう」
「はい、アルチュールさまっ」
前国王と、広大な土地を有する侯爵家とその配下の貴族達。残された負の遺産ともいえる、領主の居なくなった領地はひどい有様だった。
正直、ここまで酷いとは思わなかった。
裕福な貴族達。その裏では、平民を奴隷のように扱った鉱山事業に人身売買。隠された土地では、禁止された薬草を栽培し、それに携わる者から疫病が広がり出していたのだ。
それを浄化し、荒れた土地を再生するために、私は派遣されることになった。
私が考えたストーリーだし、尻拭いは当然だ。このチート能力は、この為にあったのかもしれない。
けれど――。
なぜか、アルチュールも一緒についてきた。
「それは、神官の仕事では……」と言いかけたが、アルチュールの鉄壁の笑顔は誰にも反論を許さなかった。兄である国王さえも。
ジョセフィーヌは完全にアルチュールの味方……というか、私にアルチュールをぐいぐい推してくる。
きっとジョセフィーヌには――私の気持ちは見透かされているのだろう。
「殿下に、リディ様! さっさとお二人で行かないで下さいっ」
大量のまだ無垢な魔石を持って、おいかけてくるオラースとノエル。二人もそれぞれの役割で同行に志願した。
そんな彼らを尻目にアルチュールはフッと笑い――
「おいで、リディ」
言うが早いか、アルチュールはふわりと私を抱き上げ馬に乗せた。
アンに見送られ、馬は走り出す。
すると、背後からアルチュールは囁く。
「いい意味でも、悪い意味でも。今までに気になった女性はリディだけだよ。だから、ずっとそばに居てほしい」
「こんな、状況でそんなこと。……ずるいです」
アルチュールは全く魅了なんてされていなかった。
その上で、私との会話は全て本心だったと明かしてくれた。そう知ってしまうと、思い出すだけで頬が熱い。
きっと私の鼓動は、アルチュールに伝わってしまっているだろう。
「嫌?」
「いやじゃ……ないです」
「良かった! 絶対に離さないからね」
この状況で、私からはアルチュールの顔が見えないのは幸いだった。
だって、顔をみたらまた泣いてしまいそうだから。
――おばあちゃん。
私はこっちの世界で、ちゃんと幸せになるからね!
◇
◇
◇
「まったくー! また二人で行っちゃったよ」
口を尖らせて文句を言うオラース。
「まあ、仕方ないですね。殿下は、リディ様の目覚めをずっと待たれていたのですから」とアン。
「さすがに、リディ様を自分から離すなら公国として独立すると宣言されては、陛下も許可するしかないですしね」
クスクスとノエルは笑う。
三人は、アルチュールが本気で準備していたのを知っている。
「そうそう! 殿下はリディ様の為なら一国くらい滅ぼしそうだし」
「「「…………………」」」
顔を見合わせ沈黙。
「お二人には、ずっとこの国で幸せでいていただきましょう!」
「「アンの意見に賛成!」」
〜おしまい〜
お読みくださり、ありがとうございました!