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7. こんな結末って

 ――アルチュールに連れられて来たのは、なんと謁見の間だった。

 

 人払いされた室内。そこには年老いた国王陛下ではなく、アルチュールより少し年齢が行っているが、よく似ている人物と……隣には、ジョセフィーヌが座っていた。


(は? な、なんで……!?)


 状況に頭がついていかない。

 確か、ジョセフィーヌが暴いた一部の貴族の悪事。それを裏で糸を引いていた国王は、王太子によって失脚させられる。

 だから、次期国王は長男の王太子がなるのだけれど。


 でも、それはジョセフィーヌとアルチュールの婚約破棄から始まり、リディが『ざまぁ』された後の最終的な話だ。


(それよりも――何で、王妃の席にジョセフィーヌが!?)


 バッ! と、勢いよくアルチュールを見る。

 アルチュールは、驚くほど優しい表情で私を見詰めていた。普段ならドキドキものだが、今はそれどころではない。


「アルチュール、聖女をもっと近くに連れてきなさい」


 若い国王はそう促し、挙動不審ぎみな私をアルチュールはエスコートする。


「さて、聖女リディ」


(聖女って……まだ候補よね?)


「貴女には、これから全てをお話ししなければなりません。が……私の口からより王妃が話した方がよいかな?」

 

 イタズラめいた視線で、国王はジョセフィーヌを見た。

 そんな国王を愛おしそうに見たジョセフィーヌは頷くと、私に向かって話し出した。

 

「リディ様、騙して申し訳ありませんでした。私達はもう、とうに学園は卒業しているのです」


 勘が当たったというのに、いまいち信じられない。


「へ? でも、この前……婚約破棄の。学園のイベントで……」

「ですから、それが嘘だったのです」

「え、うそ……?」

「はい。あの卒業を記念したダンスパーティーの出来事を、王宮の者たちと再現いたしました」

「それは、いったい……」

 

 思わずジョセフィーヌとアルチュールを交互に見る。

 そして、衝撃の事実を知らされた。




 ◇◇◇◇◇



「みんなで私を騙していたなんて、あんまりです!」

「それは仕方のないことだったんだよ」


 アルチュールはわざとらしい困り顔で、可愛い一口サイズのケーキをすすめてくる。

 それを頬張りながら侍女のアンをはじめ、騎士になった赤髪のオラースと、魔術師になった眼鏡のノエルを軽く睨んだ。


 やっと全員の名前を教えてもらえた。


 アンは、男爵家のリディと仲の良い侍女だった。化粧を落とし、髪を解けば印象が全然違う。彼女をここに呼んだのはアルチュールの配慮だったに違いない。男爵家は取り潰しになっていたから……。


(でも!)


 それはそれ。これはこれ。


「いくら、女神様のお告げがあったからって……」

「でも、現にリディは、あの会場に突然現れたのだからね」


 神殿で寝かされ、神官に管理されていたリディの体が忽然と消え、会場に突如として現れたのだと言うから驚きだ。

 どうしてリディの復活が、婚約破棄の現場でないといけなかったのかは理解できないが。


(確かに、この物語は婚約破棄から始まったのだけど。それは、物語の書き始めの都合で……)


 もう淑やかさなんて気にせず、食べまくる。


 刺されて時の止まったリディ。

 そして時を同じくして事故にあい、生死を彷徨っていた私。

 たまたまそれが、歪んだ時空を越えて転生という形をとったのだろうか。

 そう考えていたら何だか笑えた。未だに、私の頭の中は厨二のままだ。


「リディ、楽しそうだね?」

「た、楽しくなんてないです!」


 はは……と笑ったのを見られていて、恥ずかしくなり話題を変える。


「だったら、復活した時点で説明してくれたら……」

「それには、こちらの準備があったからね」

「準備……? ま、まだ何か?」


 アルチュールは笑顔のまま答えない。これは絶対に教えてくれないやつだ。

 何かまだ隠されている予感しかしない。

 仕方ないから他に気になることを聞いてみる。

 

「女神様ってどんな方なんですか?」

「そうだね、黒く長い髪が良く似合う、気品あるお方だったよ」

「黒髪ですか?」


 ますます想像ができない。


「リディ様、神殿へ行けばお会いできますよ」


 ノエルがクスッと笑って言った。


「ああ、そうですよ! そろそろ女神像が出来上がった頃です! 皆んなで見に行きませんか? ねっ、殿下!」


 リスみたいに、お菓子で頬を膨らましたままのオラースが提案する。


「そうだな。リディが浄化した魔石も届けなければならないからな」


 アルチュールの一言で、神殿行きが決定した。




 実は、もう一つ秘密にされていた事があった。


 それは、魔術師たちが浄化していたという魔石。

 この世界の水属性魔法には、そんな力はないそうだ。あの浄化こそ、聖女の証であり試練だった。

 あの魔石は特別で、神官が各地をまわり、病や不穏な物を封じ込めてきた物。一人の聖女が、数ヶ月かけてやっと一つ浄化できるレベルの物だったそうだ。


 それを桁違いにこなし保管室を空にした私は、聖女以外の何者でもないと認められていた。知らぬ間に。


(まあ、チートだからね……それ)




 ◇◇◇◇◇




 ――神殿にやって来た。


 馬車を降りると、宮殿から色を抜いたような青白い建物がドドンッと建っている。


「ようこそお越しくださいました」


 丁寧に出迎えた神官らしき人物は、尋常ではないほど瞳を輝かせて私を見ていた。神殿からリディの姿が消えたのを目撃したのは、この人なのかもしれない。そんな気がした。


 魔石を渡すと、私達は礼拝堂へ案内される。


 低い階段の上、神秘的な空間に一体の女神の像。


(…………っ!!)


 白く輝くような石で掘られた女神様に、言葉を失った。

 私は、その女神をよく知っていたのだ――。


 

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