第33話 強襲作戦
「レイ少佐に彼女の囚われている大まかな所在は伝えました。ここさら先は計画通りにマリーさんのところへ向かえばいいんですよね」
「そうだな、予定通りこれから二人で王宮に潜入する。艦長を発見したら、現在地をビーコンで送れば、少佐が空から拾ってくれる予定だ」
二人で話しながら車を走らせていると、王宮を構成する城壁が目の前に迫ってくる。
首都の中央に位置する王宮は直径500mほどの城壁に囲まれ、中央の王族の居住する城塔に到達するまでには3重の城壁とその倍の数はある検問を超えなくてはならない。
「作戦開始から4時間か。夜が開けるまでもう余裕はなさそうだな」
「そうですか。でも手段を選ばなければ強行突破できますよね」
「もちろんだ。救出のためにはどんな手を使っても構わないと少佐も言っていたしな」
エリスはニヤリと不気味な笑みを浮かべると、なにやら注射器のような魔法具を取り出し懐に忍ばせて
哨戒している兵士の元へと駆け寄った。
「何者だ、これ以上近寄ると発砲する!!」
歩哨は二人一組で城壁の周辺を警戒している。不意に接近してきた彼女に若い兵士は銃口を向けて警告した。
「あのお、酔ったら道に迷っちゃって」
「なんだ、女か」
二人は相手が小柄な少女であることに気づくとすっかり油断したようだ。彼女の全身を舐め回すように見ると、銃口を下げて彼女に近寄っていく。
「結構可愛いじゃないか。俺らとすこし遊ぼうぜ」
すっかり職務を忘れフラフラと彼女の元に寄っていく。
エリスはわざとらしくよろめきながら上着のボタンを外した。すっかり油断した二人の兵士は彼女に近づき触れようとする。
「いいですよぉ」
そう言うとエリスは体躯を近寄ってきた兵士に押し付け、手にしたシリンジを兵士の体に突き刺した。
「ぐっ、何を……」
素早く体を離し、横にいたもう一人の兵士の腕にもシリンジを押し付けた。
怪しげな液体を注入された二人とも苦しそうな呻き声を上げて体を折り曲げる。
「ちょっと言うこと聞いてもらいますよ」
しばらくすると先ほど苦しんでいたのが嘘のように歩哨は立ち上がった。だが何か様子がおかしい。視線が定まらず虚ろになり、死者のように無表情だ。
「これで二つ駒ができました」
「本当にお前の魔法具は恐ろしいな……」
エリスの駒となった兵士に誘導してもらい、検問の兵士の詰所の裏まで二人はかけた。
「中にいるのは5人ほどだな。これなら俺一人で制圧可能だ」
「じゃあ頼みました。拘束した兵士達は私に引き渡してください。もう少し手駒を増やしたいので」
「な、なんだ!?」
フラッシュバンが炸裂し、全く状況のわからない兵達は叫び声を上げる。
ろくに反撃もできない彼らの首を素早く絞め上げる。一喚き声を上げている人影は少なくなり、徐々にあたりが静かになっていく。
ブレットは一人ずつ的確に無力化していった。あっという間に意識を失った男達の山が積み上がっていく。
「こいつで最後だな」
同じような調子で最後の検問を突破していると警報のサイレンがけたたましく鳴り響いた。ここまで迅速に制圧しきたが侵入がバレてしまったようだ。しばらく路地を直進する視界に巨大なが飛び込んできた。
「あと貴族の居住区域までどれくらいだ?もうかなり進んだはずだが」
大きな鉄製の門扉を指差しながらブレットは呟いた。口調は冷静だが表情に焦りが隠せない。ここまで順調にきたとはいえもう作戦時間の半分が過ぎ敵勢力にも侵入は察知されている。そろそろ中枢に到達したいところだ。
「目の前の門を超えたら到達します。城の中も広大なので自力で探すのはナンセンスですね、警備責任者を締め上げれば詳しい姫の場所もわかるでしょう」
後ろに目が虚ろな数十の敵兵を引き連れたエリスが答えた。ここまでの戦闘で彼女が洗脳した王国の兵士たちだ。彼女は総勢一個小隊ほどの兵力を現地調達していたのだった。
「そうか。じゃあこのデカイ扉を吹き飛ばさないとな」
ブレットはカールグスタフ無反動砲を構えると門扉に向けて発射しする。ば弾頭は鉄製の扉に突き刺さると爆風を巻き起こして門の一部を吹き飛ばした。
煙が晴れると城前の庭園が広がっている。今まで通ってきたレンガが剥き出しの壁や舗装されていない道とは異なり流麗なタイル装飾に石畳、カラフルな花々が咲き乱れている。ここから先は貴族と一部の特権階級のみが入場を許される特別区域のようだ。手入れの行き届いた草花を掻き分けながら二人はまっすぐ城へと進んでいく。
すると騎馬が数機慌ただしく走っている影が遠くに見える。騎馬は多数の歩兵を引き連れて巡回している。騒動を察知した王国の近衛部隊が集結しつつあるようだ。
「やっぱり警備は強化されているみたいですね」
「あれだけ派手に騒いだからな。早いとこ片付けないともっと増援がくるぞ」
花壇に隠れながら二人は息をひそめながら呟いた。戦闘力で言えば造作無く突破できるがこれ以上騒ぎを大きしたくない。ブレットが突破法を思案していると、
「それなら強行突破するしかなさそうですね」
エリスはニヤリと不気味な笑みを再び浮かべると、騎馬隊と近衛兵たちの前にフラリと姿を見せた。




