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魔法世界の王女は、恋をしてはいけない人に恋をしたーアイドルを夢見るわたしですが、世の中は厳しすぎますー  作者: りなる あい
第八章 ~4年生 前期~

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8-4. 発表のあとに待っていたもの

歌の審査が近づいてきて、わたしも少しずつ緊張してきた。

オーディションの準備もあって、最近はなんだか毎日バタバタしている。


そんなある日、廊下でハオに会ったときのこと。

彼は普段あまり多くを聞かないタイプなのに、ふいにこんなことを口にした。


「……歌の審査で、何を歌うのか決めたのか?」


その問いかけに、胸の奥がふわっとあたたかくなる。

積極的に話しかけてくる性格じゃないからこそ、こうして気にかけてくれるのが伝わって、嬉しかった。


「うん。2年前の青春祭で披露したオリジナル曲にしたよ。恋する女の子が、好きな人に向けて歌う曲なんだ」


そう言って、わたしはそっとハオを見上げた。

——それは、あなたのことを想って歌います、って気持ちを込めて。

ハオ、わたしの想い……少しは気づいてる?


「ネネルーナに合ってて、いいな」


彼のその一言に、胸がきゅんと鳴った。

わたしを見つめる紫の瞳が、窓から差し込む光に照らされて、まるで宝石みたいに輝いている。


……ハオって、ほんと表情管理がアイドル級。

狙ってないのに、あんな風にときめかせてくるなんて……

無自覚って、いちばん恐ろしいやつ。


「でしょ!応援しててね」


そう言って、わたしはハオに向かって笑いかけた。

心の奥が、ぽっとあたたかくなるような感覚——それは、彼への愛しさだった。


かっこよくて、強くて、優秀なハオ。

そんな彼に、わたしも追いつきたい。

アイドルとして、自分の道をちゃんと歩いていきたい——そう強く思えた瞬間だった。





歌の審査が終わり、いよいよ選考通過者の発表が行われる。

養成所内の応募者たちがずらりと集まり、その熱気に包まれた空間に、わたしもその一人として立っていた。

……こんなにたくさんの人が同じ夢を追いかけている。

その中に自分がいるということを、改めて実感する。


どんな結果になっても、この努力は決して無駄にはならない。

たとえここで終わってしまっても、わたしはまた前に進んでいく。

でももし、次へ進めるのなら——その先の自分にもっと期待したい。


そして、ついに結果が告げられた。

……合格だった。


思わず歓声を上げたくなったけれど、まわりには他の候補者もいたから、ぐっとこらえる。

でも、心の中では小さく叫んだ。「やった……!」


わたしは次のステージへ進める。

次は一般応募者との合同審査となり、内容もより本格的になっていく。

そして、その様子は一般公開される。

つまり、わたしの姿が世の中に発信されるということ——夢にぐっと近づいている実感に、胸が高鳴った。

うれしい。

ただただ、誇らしかった。


結果発表が終わって会場の外に出ると、すぐにハオの姿が目に入った。

……ああ、またナンパされてる。

彼が女の子に声をかけられるのなんて、もはや日常茶飯事だ。

あのルックスであの空気感、しかもあの黒髪。

そりゃ目立つよね……。


「もしよかったら、これからご飯でも行きませんか?」


「……いや。今、人を待っているので」


……へぇ、いつもわたしには平然と冷たいくせに、初対面の人にはちゃんとやんわり対応してるのね。


「待っている間、少しだけでも……」


なかなか食い下がらない女の子たち。

ハオ、どうするの……?

まさか、押し切られてどこか行っちゃうなんてこと、ないよね……?

そんな不安が一瞬、心をよぎった——けれど。


「いや、大切な人を待っているので」


その言葉に、風が止まった気がした。


……大切な人?

え、いまハオ、わたしのこと“大切な人”って言った……!?

もうそれだけで、胸が爆発しそう。


言いたくてたまらなかった。

わたし、合格したの!って。

もう、じっとなんてしていられない!


「ハオーっ!」


勢いのまま、わたしは彼に飛びついた。


「勢い、よすぎ」


苦笑まじりにそう言いながらも、ハオはしっかり受け止めてくれる。

……その腕の中が、あたたかい。


「ハオ、わたしね、合格したの! 次の審査に進めるって!」


笑顔が止まらない。

この瞬間を一番に伝えたいって思ったのは、やっぱりハオだった。


「おめでとう。……ここからが本番だな」


そう言って、わたしの頭をやさしくポンポンしてくれる。

その手の温もりが、ご褒美みたいに心にしみた。

——もしこれが毎回もらえるなら、わたし、いくらでも頑張れる。


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