第三十六話 人事異動
【辞令 野沢玉磨 〇年〇月〇日をもって 地域保全課への異動を命ずる】
野沢「課長、コレどういう事ですか?」
課長「いやまぁ、私たち公務員ですからね(笑)」
野沢「それはわかりますけど、ウチの課は人手が足りないっていつも言ってたじゃないですか?それに人事異動の少ない部署だって」
草壁「違う違う、人事異動が少ないんじゃなくて此処は左遷先だからだよ(笑)だいたいウチは定年までいっても課長どまりだから。ね?課長」
犬山「えぇ、まぁそんなとこですかね(笑)」
野沢「認めないでくださいよ」
草壁「それに地域保全なら税務や福祉よりも忙しくないだろうし、どちらかと言えば栄転じゃない♪知ってた?庁舎の階が下へ行くほど出世しやすくなるって(笑)」
野沢「別に出世に興味ありませんから」
犬山「スー、つまり野沢さんはココのままが良かったということなんでしょうか?それは喜ばしい事ですけどもね。ただ、公務員である以上は特別な理由もなく一旦出された辞令は拒否も出来ないわけだし。1年間そっちをやってみて、もし希望なら異動願いを出されてみるのはどうですかね?」
草壁「俺なんか毎年、異動願いを出してるけどね(笑)」
野沢「え!?そうなんですか?」
犬山「それはまぁ、そういう事なんで(笑)」
草壁「どういう事かわかんないですけどね」
犬山「ただ地域保全とウチは連携することもありますので、またいつでもお顔を出していただいてかまいませんから♪」
その時、コンコンコンとドアをノックする音が。そして
職員「失礼します、保全課から参りました。お疲れ様です、野沢さんは今こちらにおられますか?引き継ぎの件でお話したいことがありまして」
野沢「はい、私が野沢です。今度からそちらでお世話になりますので宜しくお願い致します」
野沢は後ろ髪を引かれるようにしながら笑顔で手を振る犬山と草壁をチラチラ不満そうに見つつ、呼ばれて部屋を出ていくのでした。そして
犬山「良かったんですか?これで」犬山は少し寂しそうな顔をして尋ねた。
草壁「ええ、彼女が配属されたのもイレギュラーみたいなものですからね(笑)」
そして数カ月後。
職員「野沢さん、どうしたの?急に立ち止まって何も無い壁なんか見て(笑)」
野沢「あ、ええ。あの此処って前に何か部屋とかありませんでしたっけ?」
職員が野沢の見ている壁をコンコンと叩くと当たり前のように鈍い音が返ってきた。
職員「ほら、向こうコンクリートみたいだし。野沢さんて真面目で堅物そうに見えて、たまに不思議ちゃんな事言うよね(笑)」
野沢「すみません。気の所為だと思うんですけど、此処の廊下を通るたびに誰か知っている人がいたような感じがして」
職員「大丈夫?疲れてるんじゃないの?野沢さん真面目だからここんとこも残業が多いようだけど、超過気味だから早めに帰るようにって言われてるでしょ(笑)」
野沢「ええ、まぁ」
野沢は廊下の曲がり角でもう一度後ろを振り返るのでした。
第三十六話(終)
鬼切怪奇譚 第一部完




